文字の大きさ
大
中
小
3 / 12
3
自分の行動が裏目に出てしまってから、マリナは二度と彼らのやり取りに口を挟むまいと心に決めた。きっとマリナがなにもしない方がユリウスとシルヴィエはうまくいくのだ。よかれと思ってしたことも、それは二人の邪魔になりかねない。余計なことをしなくたって、二人は結ばれるのだ。マリナはただ、それを見守っていればいい。
そう心に刻み、迎えたお茶会。
広い庭園では、招待客が紅茶やお茶菓子を口にしながら楽しそうに会話をしている。
マリナは隅っこで一人紅茶を飲んでいた。
自分は関係ないのに、緊張に足が竦む。
このお茶会では、重要なイベントが発生するのだ。
シルヴィエはユリウスと一緒にこの庭を見て回る。するとそこに毒蛇が現れる。シルヴィエはユリウスを庇い、毒蛇に咬まれる。毒に侵され苦しむシルヴィエを付きっきりで看病するユリウス。毒が抜けてシルヴィエの体調は順調に回復する。
この出来事で二人の関係はぐっと親密になるのだ。絶対に外せないイベントである。
だからこそ、部外者でありながらマリナは前日からずっとそわそわして落ち着かなかった。
紅茶を飲んで昂る気持ちを沈めているのだが、徐々に焦りを感じはじめる。
シルヴィエが現れないのだ。気づかない内にやって来たのかとくまなく視線を走らせるが、彼女の姿はどこにも見当たらない。
そんなはずはないと、何度も何度も、一人一人招待客の顔を確認していく。だが、何度確認しても、シルヴィエを見つけることができない。
マリナが見つけられないだけなのか、参加していないのか、なんらかの事情があって遅れているだけなのか。
考えたところでわかるはずもなく、ただ焦りだけが募っていく。
そのとき、視界の隅に捉えていたユリウスが動いた。
本来ならシルヴィエと一緒に行動するはずなのに、彼は一人で移動しようとしている。
マリナはそっと彼のあとを追いかけた。
ユリウスは一人で、やはりシルヴィエの姿はない。
これではイベントが発生しない。
このイベントが発生しなければ、どうなるのだろう。
そう考えて、サーッと血の気が引いていく。
最悪の結末を想像し、どうして、と心の中で繰り返す。
シルヴィエとユリウスは出会って、何度も顔を合わせ、確実に仲を深めていった。
そのはずなのに。
それなのに、どうしてここにシルヴィエがいないのだ。
こんなのはおかしい。
どうして。どうして。
混乱して、馬鹿みたいにそれだけが頭の中を占めていた。
パニックに陥りかけながらも、一人でお茶会の会場から離れていくユリウスを尾行する。
シルヴィエがいなければ、イベントは発生しないはずだ。ならば、毒蛇も現れないのだろうか。
やがて、ユリウスはその場所に辿り着く。
庭園の隅に位置するこの場所で、茂みから毒蛇が近づいてくるのだ。
シルヴィエがいないのなら、毒蛇だって現れないはず。
そう考えながらもマリナは忙しなく視線を動かし、ユリウスに危険が迫っていないか警戒していた。ドレスが汚れるのも構わずしゃがみこみ、茂みに目を凝らす。
そして、視界にそれが映った瞬間、走り出していた。
「ユリウス……!」
「っ……マリナ?」
咄嗟のことに、マリナは彼を名前で呼んでいた。
ユリウスは弾かれたようにこちらを振り返る。
マリナは彼の腕を掴んだ。
「ここから離れて! 蛇がいるの!」
「え? 蛇……?」
マリナの必死な様子に、ユリウスもただ事ではないと感じたのだろう。
彼はその場から動こうとした。
そのとき、マリナのふくらはぎに激痛が走った。
「あうっ……!」
痛みに、思わずその場に蹲る。
「マリナ……!?」
「逃げて、ユリウス、早くここから離れて……っ」
ふくらはぎが痛くて、燃えているかのように熱い。
頭がくらくらして、視界がぶれる。
それでも、必死にユリウスをここから遠ざけようとした。
ここにいたら、彼も危ない。
それなのに、ユリウスはマリナの傍から離れようとしなかった。
「マリナ、マリナ……!!」
「お願い、ユリウス、早く……っ」
眩暈が強くなる。意識を保っていられない。
最後までユリウスの身を心配しながら、マリナは彼の腕の中で気絶した。
マリナは毒に侵され、高熱にうなされる日々を送った。
酷い痛みと熱に襲われ起きていられず、ベッドの上で悶え苦しんだ。
時折ふと目を覚ますが、意識は朦朧としていた。
目を覚ますたびに、マリナは同じ言葉を繰り返す。
「ユリウス、ユリウスは無事っ……?」
ただユリウスのことだけを心配していた。
「ええ、ユリウス様は無事ですよ」
傍に控える医者の言葉に安心して、マリナはまた気を失う。
それはマリナが無意識に口にしていたことで、彼女の記憶には一切残っていなかった。
何度もユリウスの名前を口にしていたことも、それを部屋の中にいたユリウスに聞かれていたことも、マリナは知らない。
毒が抜け、熱も引き、マリナの体調は回復したが、暫くは寝たきりの生活が続いた。
ユリウスは毎日のように部屋に来た。心から心配し、体調を気遣う言葉をかけてくる彼に、マリナは今までと変わらずそっけない態度を崩さなかった。
そんなある日、ユリウスはマリナに問いかけた。
「マリナ、どうして僕を助けてくれたの?」
それは当然の疑問だろう。
マリナは今までユリウスを突き放すように冷たく接してきた。そのマリナが、何故自分を助けたのか。ユリウスが不思議に思うのも無理はない。
マリナは動じることなく、用意していた言葉を口にする。
「お義兄さまが、この家にとって必要な人間だからです」
「…………」
「お義兄さまは侯爵家の大切な跡取りですもの。助けるのは当然のことです」
「それだけ? この家の為だけに僕を助けたの?」
「ええ、そうです。それ以上の理由はありません」
「そう……」
つん、と顔を背けて断言するマリナを、ユリウスは感情の読めない表情で見ていた。
────────────
読んでくださってありがとうございます。
感想
あなたにおすすめの小説
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
好きな人ができたと言ったら幼馴染みの態度が豹変しました。
束原ミヤコ侯爵家の令嬢フィリアには、五つ年上の幼馴染がいる。
ルシウスは公爵家の長男であり、聖騎士団の騎士団長でもある。
昔からフィリアの騎士として振る舞ってくれていたルシウスと、ごく自然に婚約者になっていた。
しかし、ある日の夜会で、「ルシウス様はわがままな妹と結婚をしなければならず、可哀想」という噂話を聞いてしまう。
自分のせいでルシウスは想い人と添い遂げられないのだと気づいたフィリアは、ルシウスに告げる。
「私、好きな人ができました」
だから、あなたとは結婚できないのだという嘘を──。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。