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246. ドワーフ国に行く準備をする俺2
「これは妃殿下。突然の訪問にも関わらず、ご対応頂きまして、感謝申し上げます。私はフィリップ・フニ・ソウェイサズ。先王陛下の三男でございます」
応接室に入った王妃レティシアを、恭しい礼で迎えた王弟の態度に、レティシアは少しだけ気分が浮上した。
「王弟殿下、とは初めて聞きました。本当に、先王陛下の…?」
「はい。今までは、訳あって先王陛下と共に過ごしておりましたが、この度王弟として公表して頂く運びとなり、妃殿下にご挨拶に参りました」
「顔を上げて下さいな。真実王弟殿下でいらっしゃるのなら、わたくしも礼を尽くす立場です」
「ありがとうございます」
顔を上げた王弟は、確かに銀髪で、そして面差しが王によく似ていた。
「どうぞおかけになって。わざわざ挨拶に来て下さったのは、嬉しいことです。しかし公表とは、今になってなぜ?失礼ですが、おいくつでいらっしゃるのかしら」
部屋の隅には王弟の侍従が二名おり、廊下には護衛騎士が待機していた。
護衛騎士がつく、ということは、間違いなく王族であると認められたということだった。
「十八になりました。妃殿下、私が連れて来た侍従を、退出させてもよろしいでしょうか?」
それはつまり、人払いをしてくれ、という意味だった。
レティシアもそれにはすぐに気づき、隅で待機していた侍女達を下げる。
二人っきりになった所で、王弟はにこりと笑みを浮かべた。
愛嬌はあるが、嫌いな王に似ている為、残念ながら好意的には映らなかった。
「ありがとうございます。大切なお話を、しなければならなくて」
「なんでしょう?」
ティーカップを持ち上げながら問えば、王弟もまた同じようにティーカップを持ち上げて、口をつけた。
「今日の議会で可決され、私は王弟として、王位継承権を持つことが公表されます」
「…今、なんと?」
「王位継承権四位、となります」
「…そう、ですか」
あからさまに安堵したレティシアを見て、王弟はまたにこりと笑んだ。
「第二王子殿下が婚姻で王籍を抜ける為、三位になります」
「そう、なりますね」
第二王子など端から眼中にない、と言いたげな様子を見て、王弟は頷く。
これから言うことが、本題だった。
「王太子殿下が失踪されたので、近日中に二位になります」
「……え…?」
レティシアの動きが止まったのを確認し、王弟はもう一度言った。
「王太子殿下が失踪されたので、近日中に二位になります」
「…し…っそう?…何を、馬鹿なことを…!」
ティーカップが、震えていた。
怒りが爆発する前に、王弟はまたにこりと笑んだ。
「年が明けてから、王太子殿下とお会いになられましたか?」
「……っな、…にを」
「あれ?妃殿下の所に、知らせは来ていないのですか?おかしいな。議会ではもう、廃嫡の方向で話し合いが行われておりますよ?」
「ば、馬鹿な…!デタラメを言うな!!」
ソーサーにカップを叩きつけながら、憤慨したレティシアが立ち上がった。
「デタラメではありません。ボイル侯爵に、お尋ねになられてみては、いかがでしょうか?…ああでも、侯爵も今は大変なようですね。議会に顔を出していないようですし」
「…嘘だ」
「嘘ではありません。私にも、支えてくれる貴族はいるので、教えてくれるのですよ。とはいえ、私などが出しゃばるつもりもありません。第一王子殿下が、魔王討伐を終えて戻られたら、王位に就かれるでしょうから」
「…は?」
雷に打たれたように、レティシアの身体が固まった。
「王太子殿下が見つかれば良いのですが。私は王族として認めてもらえるだけで十分なのですが、第一王子殿下は長く不遇でいらっしゃったようだから、王になれると思えば、喜ばれることでしょう」
「……っ…!」
レティシアが歯ぎしりするのを見て、王弟はほくそ笑んだ。
「第一王子殿下は随分とお強いようで。王太子殿下が、ご無事だといいのですが…」
心配そうな表情を作ってみせれば、レティシアははっとしたように目を瞠った。
「まさか、あいつが…!?」
「それはわかりません。しっかりと、お調べになった方がよろしいかと。私も、出来る協力はさせて頂きますので」
「…あなたは、わたくしの味方をして下さると?」
「もちろんです。王太子殿下のご無事を祈るばかりです。ボイル侯爵が苦境に立たされていらっしゃるのも、もしかしたら…あ、いえ、憶測で物を言うのはいけませんね。大変失礼致しました」
「……っ…あいつ…!忌み子の分際で…!!」
「王太子殿下の捜索も、個人的に致しましょうか?宰相が指揮を取っていますが、成果は芳しくないようですし」
「…王弟殿下…」
「とはいえ、個人で出来ることには限りがありますが。定期的に、侍従を報告に来させます。妃殿下がご対応下さらなくとも、執事か誰かに聞いてもらえれば結構ですので、お気遣いなく」
「…そこまでして頂けるなんて。わたくしは、どう報いればよろしいかしら?」
レティシアが再びソファに腰掛け、落ち着いた様子を見せたので、王弟はまた、にこりと笑んだ。
「何もして頂く必要はございません。王族の端くれとして、王太子殿下が見つかればいいなと思っているだけです」
「…王太子が即位した暁には、厚く報いることを、お約束します」
「ありがとうございます。そのお言葉だけで、十分です。…第一王子殿下が暴走しなければいいのですが。あ、でも、魔王討伐に出かけてしまいますから、大丈夫ですね」
「……そう、ですね…」
「…討伐完了までに王太子殿下がお戻りになっていなければ、残念ですが、それは仕方がありませんね」
考える仕草をしながら呟くと、レティシアの身体がひきつった。
「……!!」
「英雄王が即位されるとしたら、すごい事ですよね!今代の勇者パーティーは、歴代最強の呼び声が高いですし、期待出来ます!」
「…そんなこと、ありえません」
「え?いやでも、」
「させません」
「……」
語気強く否定され、王弟は口を閉ざした。
笑いそうになる口元を引き締め、眉間に皺を寄せつつ頷いた。
「とにかく、王太子殿下の捜索が重要ですね。さっそく取りかかりたいと思います。私をお認め頂いて、感謝申し上げます、妃殿下」
立ち上がって丁寧に頭を下げると、レティシアもまた立ち上がった。
「また、いつでもお越し下さい。心強い味方が出来て、幸いですわ」
「こちらこそ、光栄です。それでは」
部屋を出ると同時に、王妃の「王太子宮に連絡を取れ」という命令が飛んでいた。
今頃、遅い。
王太子宮の使用人は、王弟派に取って代わられている。
捜索の指揮は宰相首席補佐官であり、彼は王弟フィリップの宰相になる男だった。
王妃の方からまめに会いに行っていれば、もっと早く気付いただろうに。
全て王妃の怠慢であり、自業自得だった。
王弟フィリップは笑いを噛み殺すのに失敗したが、慌てて口元を押さえて俯くことで、見られることを回避した。
馬車に乗り、侍従二人と笑い合う。
「あー、こんなに上手く行くなんて!シェルダン伯爵、天才だな!」
フィリップが声を上げると、侍従達も頷いた。
「素晴らしい軍師がいて下さるおかげで、万事上手くいっておりますね」
「このまま第一王子と潰し合ってくれれば、万々歳ですね」
「全くだ。あのクソ生意気な顔だけ王子め。欲をかかなければ、臣下にしてやったのに。後悔するがいい」
「第二王子は、放置でよろしいのですか?」
「後々邪魔にならなければいいのですが」
侍従の助言は尤もだった。
フィリップはにやりと口角を上げて、笑う。
「心配ない。刺客を差し向ける手はずになっている。第二王子は伯爵領に着くことなく、死ぬとも」
「おお…!」
「さすがは王弟殿下…!すでに手を打っていらっしゃったとは!」
「当然だ。余を誰だと思っている」
「次期王でございます!」
「お早い即位を、お待ちしております!」
「まぁそう焦るな。結果はおのずとついてくる」
「はい!」
フィリップは、己の輝かしい未来を信じて疑っていなかった。
シェルダン伯爵は、父が最も信頼する臣下であり、優秀な男だった。
老いてなおその頭脳は健在で、触れれば斬れるような鋭さは、誰にも真似することは出来ない。
王冠は、すぐそこだ。
急いては事を仕損じる。
それは、伯爵がいつも口癖のように言っている言葉である。
面倒だとは思ったが、任せたおかげで今があるのだ。
もう少し。
もう少しだ。
邪魔者の消えたこの国で、輝かしい未来を作るのは、自分だ。
フィリップはそう信じていたし、侍従達もまた、信じていた。
応接室に入った王妃レティシアを、恭しい礼で迎えた王弟の態度に、レティシアは少しだけ気分が浮上した。
「王弟殿下、とは初めて聞きました。本当に、先王陛下の…?」
「はい。今までは、訳あって先王陛下と共に過ごしておりましたが、この度王弟として公表して頂く運びとなり、妃殿下にご挨拶に参りました」
「顔を上げて下さいな。真実王弟殿下でいらっしゃるのなら、わたくしも礼を尽くす立場です」
「ありがとうございます」
顔を上げた王弟は、確かに銀髪で、そして面差しが王によく似ていた。
「どうぞおかけになって。わざわざ挨拶に来て下さったのは、嬉しいことです。しかし公表とは、今になってなぜ?失礼ですが、おいくつでいらっしゃるのかしら」
部屋の隅には王弟の侍従が二名おり、廊下には護衛騎士が待機していた。
護衛騎士がつく、ということは、間違いなく王族であると認められたということだった。
「十八になりました。妃殿下、私が連れて来た侍従を、退出させてもよろしいでしょうか?」
それはつまり、人払いをしてくれ、という意味だった。
レティシアもそれにはすぐに気づき、隅で待機していた侍女達を下げる。
二人っきりになった所で、王弟はにこりと笑みを浮かべた。
愛嬌はあるが、嫌いな王に似ている為、残念ながら好意的には映らなかった。
「ありがとうございます。大切なお話を、しなければならなくて」
「なんでしょう?」
ティーカップを持ち上げながら問えば、王弟もまた同じようにティーカップを持ち上げて、口をつけた。
「今日の議会で可決され、私は王弟として、王位継承権を持つことが公表されます」
「…今、なんと?」
「王位継承権四位、となります」
「…そう、ですか」
あからさまに安堵したレティシアを見て、王弟はまたにこりと笑んだ。
「第二王子殿下が婚姻で王籍を抜ける為、三位になります」
「そう、なりますね」
第二王子など端から眼中にない、と言いたげな様子を見て、王弟は頷く。
これから言うことが、本題だった。
「王太子殿下が失踪されたので、近日中に二位になります」
「……え…?」
レティシアの動きが止まったのを確認し、王弟はもう一度言った。
「王太子殿下が失踪されたので、近日中に二位になります」
「…し…っそう?…何を、馬鹿なことを…!」
ティーカップが、震えていた。
怒りが爆発する前に、王弟はまたにこりと笑んだ。
「年が明けてから、王太子殿下とお会いになられましたか?」
「……っな、…にを」
「あれ?妃殿下の所に、知らせは来ていないのですか?おかしいな。議会ではもう、廃嫡の方向で話し合いが行われておりますよ?」
「ば、馬鹿な…!デタラメを言うな!!」
ソーサーにカップを叩きつけながら、憤慨したレティシアが立ち上がった。
「デタラメではありません。ボイル侯爵に、お尋ねになられてみては、いかがでしょうか?…ああでも、侯爵も今は大変なようですね。議会に顔を出していないようですし」
「…嘘だ」
「嘘ではありません。私にも、支えてくれる貴族はいるので、教えてくれるのですよ。とはいえ、私などが出しゃばるつもりもありません。第一王子殿下が、魔王討伐を終えて戻られたら、王位に就かれるでしょうから」
「…は?」
雷に打たれたように、レティシアの身体が固まった。
「王太子殿下が見つかれば良いのですが。私は王族として認めてもらえるだけで十分なのですが、第一王子殿下は長く不遇でいらっしゃったようだから、王になれると思えば、喜ばれることでしょう」
「……っ…!」
レティシアが歯ぎしりするのを見て、王弟はほくそ笑んだ。
「第一王子殿下は随分とお強いようで。王太子殿下が、ご無事だといいのですが…」
心配そうな表情を作ってみせれば、レティシアははっとしたように目を瞠った。
「まさか、あいつが…!?」
「それはわかりません。しっかりと、お調べになった方がよろしいかと。私も、出来る協力はさせて頂きますので」
「…あなたは、わたくしの味方をして下さると?」
「もちろんです。王太子殿下のご無事を祈るばかりです。ボイル侯爵が苦境に立たされていらっしゃるのも、もしかしたら…あ、いえ、憶測で物を言うのはいけませんね。大変失礼致しました」
「……っ…あいつ…!忌み子の分際で…!!」
「王太子殿下の捜索も、個人的に致しましょうか?宰相が指揮を取っていますが、成果は芳しくないようですし」
「…王弟殿下…」
「とはいえ、個人で出来ることには限りがありますが。定期的に、侍従を報告に来させます。妃殿下がご対応下さらなくとも、執事か誰かに聞いてもらえれば結構ですので、お気遣いなく」
「…そこまでして頂けるなんて。わたくしは、どう報いればよろしいかしら?」
レティシアが再びソファに腰掛け、落ち着いた様子を見せたので、王弟はまた、にこりと笑んだ。
「何もして頂く必要はございません。王族の端くれとして、王太子殿下が見つかればいいなと思っているだけです」
「…王太子が即位した暁には、厚く報いることを、お約束します」
「ありがとうございます。そのお言葉だけで、十分です。…第一王子殿下が暴走しなければいいのですが。あ、でも、魔王討伐に出かけてしまいますから、大丈夫ですね」
「……そう、ですね…」
「…討伐完了までに王太子殿下がお戻りになっていなければ、残念ですが、それは仕方がありませんね」
考える仕草をしながら呟くと、レティシアの身体がひきつった。
「……!!」
「英雄王が即位されるとしたら、すごい事ですよね!今代の勇者パーティーは、歴代最強の呼び声が高いですし、期待出来ます!」
「…そんなこと、ありえません」
「え?いやでも、」
「させません」
「……」
語気強く否定され、王弟は口を閉ざした。
笑いそうになる口元を引き締め、眉間に皺を寄せつつ頷いた。
「とにかく、王太子殿下の捜索が重要ですね。さっそく取りかかりたいと思います。私をお認め頂いて、感謝申し上げます、妃殿下」
立ち上がって丁寧に頭を下げると、レティシアもまた立ち上がった。
「また、いつでもお越し下さい。心強い味方が出来て、幸いですわ」
「こちらこそ、光栄です。それでは」
部屋を出ると同時に、王妃の「王太子宮に連絡を取れ」という命令が飛んでいた。
今頃、遅い。
王太子宮の使用人は、王弟派に取って代わられている。
捜索の指揮は宰相首席補佐官であり、彼は王弟フィリップの宰相になる男だった。
王妃の方からまめに会いに行っていれば、もっと早く気付いただろうに。
全て王妃の怠慢であり、自業自得だった。
王弟フィリップは笑いを噛み殺すのに失敗したが、慌てて口元を押さえて俯くことで、見られることを回避した。
馬車に乗り、侍従二人と笑い合う。
「あー、こんなに上手く行くなんて!シェルダン伯爵、天才だな!」
フィリップが声を上げると、侍従達も頷いた。
「素晴らしい軍師がいて下さるおかげで、万事上手くいっておりますね」
「このまま第一王子と潰し合ってくれれば、万々歳ですね」
「全くだ。あのクソ生意気な顔だけ王子め。欲をかかなければ、臣下にしてやったのに。後悔するがいい」
「第二王子は、放置でよろしいのですか?」
「後々邪魔にならなければいいのですが」
侍従の助言は尤もだった。
フィリップはにやりと口角を上げて、笑う。
「心配ない。刺客を差し向ける手はずになっている。第二王子は伯爵領に着くことなく、死ぬとも」
「おお…!」
「さすがは王弟殿下…!すでに手を打っていらっしゃったとは!」
「当然だ。余を誰だと思っている」
「次期王でございます!」
「お早い即位を、お待ちしております!」
「まぁそう焦るな。結果はおのずとついてくる」
「はい!」
フィリップは、己の輝かしい未来を信じて疑っていなかった。
シェルダン伯爵は、父が最も信頼する臣下であり、優秀な男だった。
老いてなおその頭脳は健在で、触れれば斬れるような鋭さは、誰にも真似することは出来ない。
王冠は、すぐそこだ。
急いては事を仕損じる。
それは、伯爵がいつも口癖のように言っている言葉である。
面倒だとは思ったが、任せたおかげで今があるのだ。
もう少し。
もう少しだ。
邪魔者の消えたこの国で、輝かしい未来を作るのは、自分だ。
フィリップはそう信じていたし、侍従達もまた、信じていた。
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