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139. 頭を悩ませる俺
考えるべきことは、他にもあった。
「なぁ、愛人の件、考えてくれたか?いい加減、いい返事聞かせてくれねぇ?」
「…申し訳ございません陛下。私の考えは変わりません」
「頑固過ぎだろ!」
「恐れ入ります」
本宮にある王の庭園のガゼボで月に一度、ティータイムをすることが、ミカエルは苦痛だった。
王は周囲に侍従や護衛騎士がいてもお構いなく、血の繋がった実の息子であるミカエルを、愛人にしようと口説いて来る。
人払いもせず信用の置ける人物を厳選しているとも思えず、周囲の目は不躾に王とミカエルを見つめていた。
毎日のように誘いが来るのを、ミカエルは無碍に断っているのだが、王は咎めることもなく、飽きることもなく、愛人契約の打診をしてからずっと、嫌になる程まめに侍従を寄越しては、伝言をさせる。
今更気にかけてもらっても。
しかも愛人って、ありえない。
目の前の男の瞳は、息子を見る目をしていない。
純粋な気持ちで息子に関わりたい、というのであれば、まだ一考の余地はあっただろう。
愛人て。
どうかしている。
会いたくはないし、話したくもない。
そもそもがいない者として考えることもなかった王に、いきなり存在感を出されても困るのだった。
愛人希望って。
ホントなんなのこの人。
倫理観は、前世の世界と大差ない。
近親相姦は、タブーである。
月に一度のティータイムは、ミカエルにとっては王を最大限尊重した結果だった。
それ以上は無理だと思ったし、受け入れるつもりもない。
会えば王は上機嫌で迎えてくれるが、腰を抱こうとしてくるのを、失礼にならない程度にかわすことがもう、面倒くさかった。
「俺、今愛人いねぇし。おまえだけなんだ。溜まってんだよ」
「恐れながら陛下。私ではご期待に沿えません」
「細けぇこと言うなし。おまえの顔見てるだけで勃っちまうんだ。なぁちょっと、しゃぶってくれよ」
「お断りします」
「顔射キメてぇ」
「……お断りします」
実の息子に言うことではないし、他人がいる所で言うことでもない。
真っ昼間の庭園で言うことでもなければ、ティータイム中に言うことでもなかった。
飲んだばかりの紅茶を、吐きそうだった。
菓子も用意されていたが、食欲は失せ手をつける気にもなれない。
「じゃぁさぁ、一晩白金貨一枚でどうよ?」
「私は男娼ではありませんので、お断りします」
白金貨一枚は、金貨百枚の価値だった。
前回の提示は、金貨五十枚だった。
男娼に対して、その金額が高いのか安いのか判断はつかなかったが、小遣いやるよ、とばかりの気安さで、言われたくはなかった。
「俺、おまえを抱いてみてぇんだよ。叶えてくれよ」
「申し訳ございませんが、ご期待に沿うことは出来ません」
「っかーそそるわぁ。その生意気なツラ、泣かせたい。絶対ヤりてぇ」
「…お断りします」
この男はもしかして、手に入れるまでの過程を楽しみたいタイプなのだろうか。
かつて王の愛人が、言っていた。
王の愛情は、一年しかもたないと。
知ったことではなかったし、興味もない。
王に会う日が近づくと、嫌悪感で逃げ出したくなる。
ストレスを感じており、良くない傾向だった。
会えば下品で卑猥なことしか言わず、親子の会話とは思えない。
断り続けることもストレスだし、愛人になれヤらせろと言われ続けることも、ストレスだった。
全く進歩のない、実のない会話。
こんなセクハラクソオヤジでも、今までの愛人は応えてくれたのだから、王の権力と金の力は偉大だということだ。
外見は悪くはないが、良くもない。
カノラド連邦の王太子と年齢は変わらないはずだが、あちらは生気に溢れカッコイイと感じるのに対し、目の前の男はくすんでおり、汚れて見える。
好悪の問題で、そう見えるだけかもしれないが、魅力的だとは口が裂けても言えなかった。
「次いつ会える?次は俺の部屋で会おうや」
「…お心遣いはありがたいのですが、この庭園を気に入っておりますので」
「そうなん?全然興味ねー」
「そうですか」
王の部屋になど、行くわけがない。
行けば噂はもっと酷くなるし、攻撃のネタを与えることになるので御免だった。
「もう外だと寒いじゃん?俺はおまえを脱がせてぇ。次はガラス張りの温室にでもするか。青姦とかどお?興味ない?」
「…温室は構いませんが、私がお相手することはありません」
「お堅いコト言っといて、脱いだら淫乱てヤツだろ?自分から腰振っちゃうタイプ?」
「……」
侍従や護衛騎士も待機しているだろうから、部屋に行くよりはガラス張りの温室の方がマシだ、という消極的判断に過ぎないのだが。
早くも後悔した。
「んじゃ決まりな。最後にキスしようぜ」
「いたしません」
腕を引っ張り強引に迫ろうとするのを、いなして逃げる。
鍛えているわけでもない貧弱な王の身体は、本人が気づかぬ間に、くるりと一回転して元に戻った。
「あれ?」
「陛下、転ばずに済んでようございました。…それでは、失礼致します」
王は三十五になるのだったか、三十四だったか、もはや記憶する気もないので適当だったが、彼には威厳も知性も何も感じられない。
外側だけ歳を取り、中身は学生気分のままなのだろう。
王に触れられると、虫唾が走る。
それでもミカエルは、決して表情に出さないように、注意した。
生理的に無理、って、こんな感情だったのか。
前世の自分は女性に対し、存在するだけでこんな気分にさせていたのかと思うと、やりきれない思いがした。
どうしようもない過去のことで落ち込みつつ、また噂の種を提供しつつ、ミカエルは自宮へと戻った。
「おかえり」
部屋にはいつも通りのアルヴィスがいて、ミカエルの心は少し軽くなった気がした。
一人じゃないって、幸せなことだと思うのだった。
「なぁ、愛人の件、考えてくれたか?いい加減、いい返事聞かせてくれねぇ?」
「…申し訳ございません陛下。私の考えは変わりません」
「頑固過ぎだろ!」
「恐れ入ります」
本宮にある王の庭園のガゼボで月に一度、ティータイムをすることが、ミカエルは苦痛だった。
王は周囲に侍従や護衛騎士がいてもお構いなく、血の繋がった実の息子であるミカエルを、愛人にしようと口説いて来る。
人払いもせず信用の置ける人物を厳選しているとも思えず、周囲の目は不躾に王とミカエルを見つめていた。
毎日のように誘いが来るのを、ミカエルは無碍に断っているのだが、王は咎めることもなく、飽きることもなく、愛人契約の打診をしてからずっと、嫌になる程まめに侍従を寄越しては、伝言をさせる。
今更気にかけてもらっても。
しかも愛人って、ありえない。
目の前の男の瞳は、息子を見る目をしていない。
純粋な気持ちで息子に関わりたい、というのであれば、まだ一考の余地はあっただろう。
愛人て。
どうかしている。
会いたくはないし、話したくもない。
そもそもがいない者として考えることもなかった王に、いきなり存在感を出されても困るのだった。
愛人希望って。
ホントなんなのこの人。
倫理観は、前世の世界と大差ない。
近親相姦は、タブーである。
月に一度のティータイムは、ミカエルにとっては王を最大限尊重した結果だった。
それ以上は無理だと思ったし、受け入れるつもりもない。
会えば王は上機嫌で迎えてくれるが、腰を抱こうとしてくるのを、失礼にならない程度にかわすことがもう、面倒くさかった。
「俺、今愛人いねぇし。おまえだけなんだ。溜まってんだよ」
「恐れながら陛下。私ではご期待に沿えません」
「細けぇこと言うなし。おまえの顔見てるだけで勃っちまうんだ。なぁちょっと、しゃぶってくれよ」
「お断りします」
「顔射キメてぇ」
「……お断りします」
実の息子に言うことではないし、他人がいる所で言うことでもない。
真っ昼間の庭園で言うことでもなければ、ティータイム中に言うことでもなかった。
飲んだばかりの紅茶を、吐きそうだった。
菓子も用意されていたが、食欲は失せ手をつける気にもなれない。
「じゃぁさぁ、一晩白金貨一枚でどうよ?」
「私は男娼ではありませんので、お断りします」
白金貨一枚は、金貨百枚の価値だった。
前回の提示は、金貨五十枚だった。
男娼に対して、その金額が高いのか安いのか判断はつかなかったが、小遣いやるよ、とばかりの気安さで、言われたくはなかった。
「俺、おまえを抱いてみてぇんだよ。叶えてくれよ」
「申し訳ございませんが、ご期待に沿うことは出来ません」
「っかーそそるわぁ。その生意気なツラ、泣かせたい。絶対ヤりてぇ」
「…お断りします」
この男はもしかして、手に入れるまでの過程を楽しみたいタイプなのだろうか。
かつて王の愛人が、言っていた。
王の愛情は、一年しかもたないと。
知ったことではなかったし、興味もない。
王に会う日が近づくと、嫌悪感で逃げ出したくなる。
ストレスを感じており、良くない傾向だった。
会えば下品で卑猥なことしか言わず、親子の会話とは思えない。
断り続けることもストレスだし、愛人になれヤらせろと言われ続けることも、ストレスだった。
全く進歩のない、実のない会話。
こんなセクハラクソオヤジでも、今までの愛人は応えてくれたのだから、王の権力と金の力は偉大だということだ。
外見は悪くはないが、良くもない。
カノラド連邦の王太子と年齢は変わらないはずだが、あちらは生気に溢れカッコイイと感じるのに対し、目の前の男はくすんでおり、汚れて見える。
好悪の問題で、そう見えるだけかもしれないが、魅力的だとは口が裂けても言えなかった。
「次いつ会える?次は俺の部屋で会おうや」
「…お心遣いはありがたいのですが、この庭園を気に入っておりますので」
「そうなん?全然興味ねー」
「そうですか」
王の部屋になど、行くわけがない。
行けば噂はもっと酷くなるし、攻撃のネタを与えることになるので御免だった。
「もう外だと寒いじゃん?俺はおまえを脱がせてぇ。次はガラス張りの温室にでもするか。青姦とかどお?興味ない?」
「…温室は構いませんが、私がお相手することはありません」
「お堅いコト言っといて、脱いだら淫乱てヤツだろ?自分から腰振っちゃうタイプ?」
「……」
侍従や護衛騎士も待機しているだろうから、部屋に行くよりはガラス張りの温室の方がマシだ、という消極的判断に過ぎないのだが。
早くも後悔した。
「んじゃ決まりな。最後にキスしようぜ」
「いたしません」
腕を引っ張り強引に迫ろうとするのを、いなして逃げる。
鍛えているわけでもない貧弱な王の身体は、本人が気づかぬ間に、くるりと一回転して元に戻った。
「あれ?」
「陛下、転ばずに済んでようございました。…それでは、失礼致します」
王は三十五になるのだったか、三十四だったか、もはや記憶する気もないので適当だったが、彼には威厳も知性も何も感じられない。
外側だけ歳を取り、中身は学生気分のままなのだろう。
王に触れられると、虫唾が走る。
それでもミカエルは、決して表情に出さないように、注意した。
生理的に無理、って、こんな感情だったのか。
前世の自分は女性に対し、存在するだけでこんな気分にさせていたのかと思うと、やりきれない思いがした。
どうしようもない過去のことで落ち込みつつ、また噂の種を提供しつつ、ミカエルは自宮へと戻った。
「おかえり」
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