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推し活1~5日目

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 余命宣告について、両親はミリアに告知しない方向にしたらしく、何の話もなかった。ただ、ミリアを見る瞳が悲しみに彩られているのをみて、「ああ、やっぱりあの宣告は夢じゃなかったんだな」と再確認した。
 なのでミリアは、余命宣告については触れずに、家族にはいつも通り過ごしているように見せながら、残りの人生を有意義に過ごすことにした。
 ということで、翌日からミリアは放課後に学園の研究室に引きこもるリュカリスの元を訪ねることにした。

 一日目。
「君は誰だ?僕は知らない人物とは関わりたくないんだ」
 こちらの反応を確かめる事もなく、バタンッと扉を閉められた。
 予想はしていた。
 リュカリスは極度の人見知りで、初対面の人物に対してかなり辛辣な物言いをするキャラだった。
 そんなキャラがどうやって悪役キャラに魔道具を提供していたか?それは、通信用の魔道具を使っていたのだ。
 それに、ヒロインに不吉な予言めいたことを言っていたのは、リュカリスの独り言を聞いたヒロインが自分に言っていると思っていただけの話である。

 二日目。
「また君か」
 そう言って、にべもなく扉を閉められた。
 何度かノックしてみたが、その後開けてくれる気配はなかった。

 三日目。
「またか……知らない人物とは関わりたくないと言っているだろう?」
「今日で三日顔を合わせました。なので、知らない人物ではありません」
「屁理屈だな」
 リュカリスはミリアを冷たい視線で一瞥すると、扉を閉めた。
 因みにミリアは、その冷たい視線に恐れを抱くことはなく、寧ろ「あー、やっぱりリュカリス様かっこいい」と内心悶絶していた。

 四日目。
「君はしつこいな」
 冷たい視線の中に、これまでと違い少し呆れの色が混じっていることに、ミリアは嬉しくなる。
「ミリアと言います。リュカリス様」
 これまで名乗っていなかったというか、名乗る隙もなかった。
「はぁ……聞いてない。帰ってくれ」
 タメ息を吐きながら扉を閉められたが、バタンッではなく、パタンと小さな音だった。
 ミリアは、リュカリスとまともに会話らしいものが出来た事が嬉しく、ホクホクした気持ちで帰路に着いた。

 五日目。
 こらまで余命宣告はやっぱり冗談だったのでは?と思うくらい熱が下がってから体調は良かったが、今日は朝から体がとても重くて怠かった。
(余命宣告された当日を入れたら六日目だものね。やっぱり宣告通り死んじゃうんだろうな……)
 宣告は勘違いでしたという期待は、体調の悪さを自覚し消えていった。
(今日は、昨日よりも話せるといいな)
 推し活に残りの人生を費やすと決めた通り、ミリアは今日もリュカリスに会いに行く。体調の悪さを気取られないよう、扉の前で深呼吸して乱れた呼吸を整えて、笑顔を作ってからノックをした。
 少しして扉が開き、いつものように無愛想なリュカリスが顔を覗かせる。
 「知らない人物とは関わりたくない」「帰ってくれ」と冷たい態度のリュカリスだが、絶対に一度は扉を開けてくれる。五日目ともなれば、きっとミリアが来たことは予想しているだろう。
 人見知りだけど、心の中では誰かと関わりたいという気持ちがあることをミリアは乙女ゲームの知識で知っていた。
 だから、何度門前払いされてもめげずに会いに来るのだ。
「こんにちは、リュカリス様」
 ミリアは、にこりと笑顔で挨拶をする。
 リュカリスが無言で眉間にシワを寄せるのを見て、今日はこのまま会話なく扉を閉められるのかなぁと残念な気持ちになった。
「……入って」
「え?」
 一瞬、意味が解らず、ミリアは間の抜けた表情になった。
「顔色が悪い。少し休んで帰れ」
「あ……ありがとう、ございます」
 笑顔だけでは顔色は隠せて居なかったようで、リュカリスに体調不良がバレてしまった。
 初めて入った研究室は、机の上は筆記用具や魔道具らしきものが煩雑に置かれているが、それ以外はキレイに整頓されていた。
「ここ座って」
 リュカリスに促され、部屋の隅にある一人掛けソファーに腰かける。見た目は年期の入った黒いソファーは、意外とフカフカとして気持ちの良い座り心地だった。
(リュカリス様も、普段このソファーを使っているのかしら?)
 聞いてみたいが、座った途端に気を張っていた分、どっと体が重くなり、意識が遠くなったため聞く余裕はなかった。
 ふわっと軽くて暖かい物を掛けられる感覚と、コーヒーの香りと古紙の懐かしい香りの混ざった、どこか優しい香りがした。
(何だか、ほっとする……)
 そのまま、ミリアは眠りに誘われた。

 目を覚ますと、体調はだいぶ回復しスッキリしていた。
 どれくらい時間が経っただろう?
 研究室には窓がないため、外の様子は分からない。
 部屋をキョロキョロと見渡すと、リュカリスが背を向けて座って何かを書いている。
「あ……」
「目が覚めたなら、帰れ」
 声を掛けようとすると、遮るようにリュカリスから言われた。
 当然、声音は素っ気なく冷たい。
「……はい。すみません。ありがとうございました」
 呆れ顔で良いから、顔を見て話したい。
 だけど、体調不良がバレた上に、研究室で寝てしまって迷惑をかけた自覚はある。ミリアを気遣ってくれただけでも、かなり嬉しい事なのだ。
 ミリアは大人しく帰る事にした。

 掛けて貰った毛布をキレイに畳んでソファーに置くと、ミリアは「また、明日……」とリュカリスに声を掛け研究室を出る。
 扉が完全に閉まる直前「……ああ」と、小さな声が聞こえた気がした。
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