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書籍化記念SS
ウォルトの日常
しおりを挟むウォルトがレイチェルの魔力検査の結果をまとめ一息つこうとしたとき、研究員が書類を持って部屋に訪れた。ウォルトは、研究員に見えないようにさりげなく資料を隠す。レイチェルの属性変化については属性管理局内でも秘密にしているのだ。
(最近お嬢さんの出入りが多いから、何かしら思ってる子もいるだろうけど──しかし、ホントにお嬢さんの属性変化って何なんだろうね……調べても全く要因が分からないよ)
普通は単一属性しか持てないところを、レイチェルは基本属性全てを持っている。さらに思い描くだけで属性を使い分けることが出来るという。元々は水属性のみだったのが、突然変化したにも関わらず身体には全く負荷が掛かっていないことも驚く点だ。各属性の魔力は単一属性のときと同等の魔力……合計すると四倍の魔力がレイチェルの身体に込められてということになるのだが、普通なら魔力暴走を起こしていてもおかしくない。
ウォルトは属性管理局での検査以外では一度だけ、レイチェルの能力を使う場面に居合わせたことがあった。
“更生計画”で孤児院の様子を向かいのカフェで観察していたときのことだ。
その時は、チェリーへの伝言のために、声を風の魔力に込めて彼女の耳に届くように使用していた。ただ風に声を込めるだけであれば風属性の者ならできるだろうが、それを特定の人物だけに届けるとなると魔力の微調整が必要であるため容易ではない。
(お嬢さんは「今まで、こんな使い方をした人は居ないのか」って逆に驚いてたけど……)
術式の展開もなくサラリと使用できることの方が驚きである。
能力だけ見ると、レイチェルは人間離れし過ぎている──もっとも部下がいうには、以前は無表情で人形みたいだったのが、今では表情豊かになって人間味が溢れるようになったというのが周囲の感想らしい。
(もしかして、性格の変化が属性変化に影響があるのかな……いやいや、ないな)
本人の性格や感情が魔力に影響することはよくあるが、レイチェルの変容はふり幅が広過ぎるため、それだけの影響だとは考えられない。
「局長、楽しそうですね」
書類に目を通しながら考え事をしていると、ウォルトの書類確認を待つ研究員がニコニコと笑顔で言った。
「え、表情に出てた? はい、書類はこのまま提出して大丈夫だよ」
難解なことほど探究心をくすぐられる──レイチェルの属性変化はまさにそれだ。難解過ぎる気もするが、確かにウォルトは考えることを楽しんでいた。
「はい、ありがとうございます。最近はこの研究室に訪れる人も増えたみたいで……賑やかになりましたよね~。若い子たちが訪れると、研究室が華やかになって良いですね!」
書類を受け取った研究員は笑顔でそういうと、研究室を出て行った。
以前まではウォルトの研究室に訪れるのは、今のように書類を持ってくる研究員と、エミリオのみだった。
今はそれに加えて、レイチェルが属性検査のために定期的に訪れている。属性検査のとき以外もエミリオと図書館で過ごした後(もしくは前)にウォルトを訪ねてきて雑談していくこともあった。
(そういえば、チェリーさんもお嬢さんと一緒に来ることもあるし……何故か王子様が稀に現れるんだよね)
エミリオとレイチェルの様子を遠くから見ているところを見たときは、善からぬことを考えているのかと勘ぐってしまったが、どうやら違うらしい。ウォルトが気配を消して、アルヴィンに近付いてみたら、「どうやったら進展するんだ」とか「手ぐらい繋いだらいいのに」とか言っているのが聞こえてきた。
──エミリオとレイチェルは想いを通じ合わせたらしいが、それ以上の進展はしていないらしい。
当人たちは和やかに過ごしているが、周囲はやきもきする状況である。
そんなことを回想し、ウォルトはしみじみと思った。
「ホントに賑やかになったよね~、研究以外でこんなに人と関わることなんて今までなかったのに……」
自分がここまで人と関わることになるとはウォルトは考えたことがなかったため、不思議な気持ちである。
ウォルトは魔術以外にはあまり興味がないと思っていた……実際、エミリオと関わり始めたのは闇属性を知りたいためだったし、レイチェルに至っては未知の事象に対する好奇心が大きかった。
今でも彼らの属性に対しての興味は尽きないが、それだけではなかった。彼らと関わること自体を楽しんでいる自分がいるのだ。
「この気持ちを気付かせてくれたのは、王子とお嬢さんのお陰だね~」
今頃、図書館で過ごしているであろう二人を思い浮かべてウォルトは笑顔で呟いたのだった。
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