最初で最後のサヨナラを。

三嶋トウカ

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第27話:父の料理_2

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 今回、料理をするのは私と見せかけて父だ。以前決めたことと変わっていない。父の料理を食べたいし、食べてもらいたい。私のエゴかもしれないし、知らない人の作った料理を食べたくないと言われたら辛いが、私なりに一番わかりやすく手っ取り早い方法だ。

「……そうそう、次は臭み取りにネギの青い部分を切って……」
「はい」
「うん、そのサイズで丁度良いね。生姜も入れようか。薄切りにして、買うのが面倒だったらねぎの青い部分とか、味を気にしないならチューブのやつでも……」

 手際よく私に指示を出しながら、さっさと父は自分で工程を進めていく。幸い、キッチンの前は高めのカウンターになっていて、覗き込むかこちら側に回ってこなければ、作業風景の確認はできない。私がやっていると見せかけて父が作業しているのも、母の位置と視線ではわからない。カウンターキッチンで本当に良かったと思う。

 私は手渡されたレシピを目で追いながら、さも『今私が初めて先生から料理を習ってるんですよ。気になっていた角煮をやっと作るんですよ。上手にできたら嬉しいな。美味しくできますように』……なんて考えているような、そんな雰囲気を何となく出した。

「……ねぇ、美代」
「え、何?」

 突然母に声をかけられた。

「そこの写真立て、真ん中に何か飾らないの?」
「あ、それ? うーん、良い写真がなくて」
「司君の写真、飾ったら?」
「司のはもうあるからさ、隣に飾ってあるでしょう? 雪のも」
「そうなんだけどさぁ」
「え、何、お母さん気になるの?」

 そう言って、私は一番大きな写真立ての隣をチラリと見た。真ん中が空っぽの写真縦の隣には、司が生まれた日から一か月置きに撮った写真を写真縦に入れて同じように飾っている。毎月のお祝いはしていないが、何か月目なのかわかるように写真は撮って飾っていた。赤ちゃんはあっという間に顔が変わっていくから、最初の一か月は毎日写真を撮り、今も数日に一回は必ず写真を撮っている。
 ただの親バカに聞こえるかもしれないが、これは雪のときからやっていて、パソコンにデータとして残しているが、現像したらきっと大量の写真が出来上がるだろう。
 司の写真が入った写真立ての反対側には、大きな写真立てを挟んで雪の写真が同じように飾られており、姉弟はそっくりな顔を私たちに見せていた。
 雪に自身と司の同じ月齢の写真を見せて『どっちが雪でしょうか?』とやったら、雪は面白いくらいに引っかかって、司の写真に『こっち!』と答えていた。これは司がもっと大きくなったら、同じようにやりたいと思っている。雪が自分で見間違えるくらい似ているけれど、果たして司は気付くのだろうか。今から楽しみである。

「何か、いつまで経っても空っぽなのもねぇ。真ん中がひとつだけないなんて」
「良いでしょ別に。飾りたいと思った写真が撮れたら、現像して飾るつもりなんだし。今はまだそれがないだけだよ」
「難しいのねぇ? でも、色んな写真があるんだろうし、試しに一回飾ってみてもいいのに」

 そう、飾りたいと思える写真が撮れたら、当然飾るつもりでいる。だから、もう放っておいてほしい。母に何か言われたって、何の写真を飾るかは、私たちが決めるのだから。……私にはわからない、母なりの拘りでもあるのだろうか。……それなら私だって拘りはある。だからここは我が家だし私に拘らせてほしい。
 私の表情が曇ったことがわかったのか、ブツブツと『絶対飾ったほうが良い』だの『子どもたちの写真にしたら良いのに』だの、まだ独り言を言ってはいたが、母はそれ以上私には直接何も言わなかった。

「えーっと、良いですか?」
「……え、あっ。ごめんなさい、大丈夫です、何でしょう?」
「肉以外に、大根と茹で卵を入れるつもりでいましたが、他に何か入れたいものはありましたか?」
「いいえ、それだけのつもりです」
「わかりました」
「……好きなんです。大根と茹で卵。子どものころからずっと」
「……美味しいですよね、味が染みると」

 無難な会話を交わしながら、どんどんと料理を進めていく。こんな会話がしたかった。もう無理だと思ってたけど、今神様か宇宙の気まぐれが私に味方してくれている。
 トントンと包丁の音が響く。鍋には具材がセットされていき、出来上がりを想像すると、まだ中身を入れただけなのに、よだれが出そうだった。

「それじゃあ、味付けは分量通りに」

 あっという間にあとは煮込むだけとなった。残りは鍋とコンロに頑張ってもらう。

 洗い物をしながら母に目をやると、赤ちゃん言葉で司に話しかけていた。さっきの写真の話に比べたら、優しい顔と声をしている。

「……さっきの、お母さん相変わらずだったな」
「でしょ? なんて言うか、一言余分? それ以上良いのに、って思っちゃうのよね」
「若いころからそうだったぞ」
「じゃあ簡単には変わらないね」
「だな」
「……うん? 何か言った?」

 小さな声で、しかも水の音にかき消されたと思っていたのに、母の耳には喋り声が届いたようだ。

「何でもないよー」

 洗い物を続けながら、父と目を合わせると、お互いクスリと笑って見せた。
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