魔の紋章を持つ少女

垣崎 奏

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茶会&夜会編

11.ウィンダム家の現状

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「あなたのことが全て分かるわけでは、もちろんないのだけど、あなたの職業は魔術師ではなく騎士だし、お相手の令嬢も家名が公表されていないのを見ると、何か事情があるのでしょう? お父様たちは疑問にすら思っていないでしょうけど…。それを教えてほしいわけではないの。あなた以外のウィンダム家はおそらく没落していくわ。あなたが幸せになれれば、私はそれでいいの」

 いきなり、話が読めなくなって、さすがに少し反応した。ルークは、母親が思っていたほど敵ではないと思い、気を緩め始めていた。

「どういう意味ですか」
「あら、分かるでしょう? 国王様に何でも言えると思っているあの無能さよ? ルークの優秀さが尋常じゃないから、お父様のお話も国王様が好意で耳を傾けてくださるだけ。有能なのはルークなのよ。ルークがいるからウィンダム魔術爵家が成り立っているようなもの。遅かれ早かれ、あなたは永久爵位をもらうでしょうね。ウィンダム魔術爵なんて一代爵、さっさと滅びるべきなのよ」

 母親の口調に、少しエリザベスを思い出す。砕けてくると、聞き手の反応を無視してひたすら話すような。母親からすれば、こんな話をできる相手もいないだろうし、それで勢いづいているのか。

「確かに、目立った成果は聞かないですが、そこまで?」
「私に対して、上手く取り繕っているつもりでしょうけど、三人とも任務にはほとんど就いていないのよ」

 それはつまり、任務を任せられないということ。任務に就いていないなら、基本的にずっと屋敷にいるのだろう。

 おそらく、魔力が弱いとかそういう理由ではなく、人格の問題だろう。上司に従えないとか、身勝手な行動が多いとか…。屋敷に漂っている魔力は、それほど弱くはない。強くもないが。

 父親の、チャールズへの態度を聞けば、兄が二人ともそれに追従しているのは分かる。ルークは自分がその血縁だと信じたくなかった。この屋敷の敷地内に入ってから、結界の魔力は感じているし、魔術師がいる感覚もある。兄二人が魔術学校を卒業したのは知っているから、それは当然なのだが、任務に就いていないとは思っていなかった。

「あなたが結婚したと聞いて、安心したの。家族を嫌ったのは当然だと思うし、それがあなたにとって最善だったのも証明されて。手紙を送ろうと思ったこともあったけれど、お父様に内容を知られたくなかったから、結局何もできずじまい。あなたはきっと、今日は国王様に言われて嫌々来たのでしょう? この一回でも、元気な顔を見られてよかったわ」

 おそらく、挨拶として抱きしめ合う場面なのだろうが、十年以上時間の経った家族、しかもこの女性とは血縁がないことが分かってしまって、ルークは動けなかった。女性は微笑んで、「それでいいのよ」とルークを肯定した。

「さ、そろそろ時間よ。私は何もできないけれど、ふたりの味方ではいたくて。茶会の前に会えてよかった」
「僕もです、…母上」
「そう呼んでくれるのね、ありがとう」

 結局どう呼ぶのが正解なのかは分からないが、血縁がないにしても家族構成としてはこの女性が母親なのだ。話を聞いてからは、少し身近に感じられるようになった気がする。

 ルークに呼ばれたミアは、少し小走りで近づいて。ルークの母親に微笑みを向けられ、慌てて淑女振る舞いをしようとするが、ルークに「大丈夫」と止められてしまった。

 馬車で到着したときよりも、ルークの表情が柔らかい。母親と話して、何か変わったんだろう。きっと、ルークの準備ができれば話してくれる。


 屋敷の中に入ってから、感じられる魔力が強まった。ルークもミアも、それぞれの魔力を垂れ流すようなことはしていなかったから、この漂う魔力は全てウィンダム家の魔術師のものだ。

 ミアは落ち着いて、淑女の振る舞いを取り戻した。おそらく、さっきルークが「大丈夫」と言ったのは、母親との関係が変わったから。この痛々しい、攻撃的な魔力が漂う屋敷の中では、何か粗相をすれば大事になると思った。

 ルークの母親の先導で、屋敷の食堂に入る。一応、王家公認の茶会だが、庭ではやらずに屋敷内で行うようだ。もし何かあって魔術を使うことになっても、建物の中なら外から見えにくい分処理しやすい。ルークにとって都合のいい会場だった。


 座って待っていると、父親と兄二人が入ってくる。ルークは王都の中心部で三人を見たことがあったが、回数は多くないし遠かった。三人の姿は、覚えている姿とは少し違っているような気もする。

 ミアは、魔術師の制服で現れたルークの家族三人と、騎士の制服のルークを見比べてしまった。普段騎士として鍛えているルークに見慣れていることもあって、貧弱そうだと思ってしまい、慌てて目線を逸らした。

 ウィンダム家の魔術師がルークには勝てないのが、漂っている魔力から分かるくらいに、ミアも魔術師として成長していたが、淑女としてはまだまだ実践が足りない。何を言われてもミアはただ座っていればいい。全ての動作はルークの父親の指示通りにするように、ルークと相談していた。
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