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東の国編
16.ミアの衝撃
しおりを挟む生活部屋の窓から、複数の魔術師がかけた結界が見えたけれど、消えた。外はなんだか騒がしい。監獄から戻っても、ミアの頭はまだほんやりして、状況を上手く整理できなかった。
そんな中、扉がいきなり開かれ、ミアの目に見たことのある顔が映った。
「…ミア!」
「……っ!」
「無事か?」
ジョンに腕を掴まれ引き寄せられ、そのまま抱きしめられる。そんな経験、ルーク以外からはされたことがない。ミアは、戸惑って声が出なかったし、抱きしめ返すことも難しかった。
「ルークは、ここにはいないのか」
「さっきのままなら、地下にいる」
「連れていけ」
ジョンと、ルークに何かしていた人の声。手枷をされているから、この人はもう何もできないし、ジョンの周りにいる人たちも魔力が強いのは気配で分かる。窓から見えていた結界を張っていたのも、この人たちなんだろう。
上手く歩き出せないミアを、ジョンが抱えてくれた。ルーク以外に抱えられるのも、ミアには違和感があって、だんだんと頭が冴えてくる。
「お前、名前は?」
「ルイスだ、ルイス・トレンチ」
「王子だな」
「一応は、そうだ」
ミアには興味がなかったけど、ジョンと一緒にいた魔術師が名前を聞いた。この人、東の国の王子だったんだ。ルークを暴走させた張本人で、人工オッドアイの成功者。
監獄までは、ずっと目隠しをされていたから道も知らないし、自分が磔になっているのも見たことがない。もちろん、ルークがどんな姿なのかも。
「…っ、ルーク!」
その姿を見てしまったミアは、魔力を抑えられない。ジョンの手からもがくように抜け出し、ルークに近寄った。部屋には、ルークの魔力とルイスの変な魔力、両方が漂っている。
「すごい魔力量だな…」
「ミア、そのまま近づくのは危険だ、飲まれるぞ!」
ジョンや他の魔術師の声も聞こえるが、ミアは無視した。ルークを、どうにか助けたい。
「ルーク……」
ミアが触れようと手を伸ばすと、ビリッと静電気のようなものが走って、触れられない。ルークのかけた、守護魔術だ。今のルークは、ミアにとっての敵対魔力になってしまっている。
「ルーク、ねえルーク、目を覚まして」
触れようとしても触れられない。ルークは、どれだけの魔力をミアの守護に使った?
ルークの魔力量なら余裕で暴走を抑えられるはずなのに、この変な魔力に対しては、ここに来る前からそれができなかった。ルークはもう、何度も暴走状態を繰り返してる。
抵抗できる魔力量を、残さなかったの? それとも、想定外に体内に入れられる魔力が多かったの? 暴走に耐えるための、ルークがルークで居られる魔力が、もう少ないの?
あんな敵意むき出しの結界の張られた生活部屋の中で、十分な休息なんて得られない。総魔力量は変わらないけど、その最大値まで回復していないことを、ミアも感じていた。ルークは、どれくらい回復できていたの? それとも、魔力量は関係ないの?
「お願い、ルーク、置いて行かないで」
「うっ、ミア!」
「ジョン、一旦退避だ。オレたちでも耐えられる保証はないぞ!」
ミアの放出する魔力が膨大すぎて、ジョンを含めたオッドアイ魔術師たちが部屋の外へ出て行った。ミアにとっては好都合で、扉が閉まった瞬間に部屋に結界を張った。
「何をするつもりだ、ミア…。自衛の術を残しているというのに…」
ジョンの言葉は、部屋の中のふたりには届かなかった。
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