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第1章 安住の地を求めて

第7話 牛もどきとの戦闘

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 チロチロ…チロチロ

 んっ。顔がくすぐったいと思ったらテンが舐めていた。テンを初めて見た時も確かこんな感じだったな。

 「おはようテン。先に起きていたか」

 「キュキュ!」

 昨日残しておいたご飯をテンと2人で分けて、武器と防具を付けて出る準備をする。準備ができたら昨日、洞窟の入り口を魔法で閉じていたのでそれを開けて外に出る。

 うーんいい天気だ!今まで貴族としていい生活を送っていたが、自然の中で生きるのは意外と僕にあってるのかもな。
 
 そんなことを考えていると…いた。他の群れとは別行動で1頭で過ごしている牛もどき。こいつにした理由は何より、命の光りが他の奴らよりも暗く小さいから。母様の時に見たそれはつまり、他の奴らよりも命が尽きかけているということ。対人以外との経験は無いが気合いを入れて踏ん張る。

 「いいかいテン。僕は今からあいつと戦ってくるがここで大人しくしてくれよ。何があっても出てきちゃいけないよ。」

 「キュ、キューン…」

 なんとなく伝わったのだろう。行かないでと言いたげだがその顔を撫でる。

 さあやろうか。

 僕の魔法が、剣があいつの体を貫けるとは思っていない。ならばやるべきは相手の機動力を削ぎ、それから何度も攻撃を当てること。

 気配を殺しおよそ5メートルほどの距離の木の裏に隠れ氷魔法を発動する。魔法を具現化はしない。ただ冷気を送る。 

 そうしていくつたっただろうか。牛もどきは急に立ち上がり辺りを見渡す。そうして…獲物を捉える。

 「ブモオオオ」

 見つかったならそれでいい。これだけでやれるとは思ってなかったからな。あいつが次の一手を打つ前に今度は魔力を具現化し氷の槍を形造り放つ。眉間にあたるが傷はつかない。当たった後に頭を振り鼻息が荒くなったところを見るに嫌がってはいるのだろう。

 次の瞬間突進の体勢を取り突っ込んでくる。もちろんこいつの攻撃方法は突進がメインだろうとあたりをつけていたので横に避ける。

 大丈夫。速さも突進した後の機動力も対処できる。

 更に2回ほど突進を避けて動きになれる。

 もう大丈夫だ。慣れてきてからは避けると同時には氷の槍を右前足に放ちつつ避ける。

 何度繰り返しただろうか。傷の付かなかった足からは今は血が流れている。だんだんと動きも鈍くなってきた。

 そしてまた今回も同じように避けながら氷の槍を右前足に放った時バランスを崩した。

 ようやく効いたか。そう思った逡巡、僕が避けた方向に牛もどきの後ろ足が迫る。なぜ、と考えるよりも先に腕に身体強化をかけ体の前でガードする。

 「ブモオオオオオオ」

 10メートル程吹っ飛ばされたか。体のあちこちが痛い。動こうとしてもなかなか力が入らない。というのにもアイツは怒り心頭でコッチに突っ込んでくる体勢をとっていやがる。

 急いで回復魔法を自身にかけるがまだ思うように体が動いてくれない。こんな所で死なないというのに。テンを守ると誓ったのに。まだだ、諦めるな。何かできることは…

 「キューキューキュー!」

 なっ、テン!…どうして、やめるんだ、やめてくれ。

 僕の思いも虚しく牛もどきはテンへと標的を変える。そうして…テンへと突進していく。

 「やめろ!」

 自身にかけている回復魔法をうちやめ、氷の槍を右前足狙って放つ。牛もどきはバランスを崩すがテンへの突進は止まらない。

 「キューー」

 牛もどきがテンを突き飛ばす瞬間テンと目が合う。テンは一体何を思ったのだろうか。僕にはそれは分からないがテンの目からは強い意志を感じた。

 突き飛ばされたテンは木に打ち付けられ体から血を流しながらその体が横たわる。

 くっ、早くテンを回復しなければ。僕自身万全に体は動かないが無理やり身体強化をかけ体を起こす。

 牛もどきが体勢を起こすよりも前に牛もどきに駆け、氷の槍を傷ついた右前足に放ち、最後にその傷目掛け剣を放つ。

 「ブモオオオ!」

 肉を切り、骨を断つこの感触は今までの訓練では経験しなかったものだが早くテンを助けるためには躊躇う余裕などない。そして、牛もどきの前足を切断した事によって牛もどきは横たわり暴れているが、起き上がる素振りはない。

 トドメを刺すことなどお構いなしにテンの元へと駆けよる。回復魔法をかけ続けるがテンの命の灯火は母様が亡くなった時と同様に、小さく暗くなっていく。

 「どうして、どうして…」

 僕は母様を失い、テンまで失ってしまうのだろうか…いや、そんなことは絶対にさせない。テンの命を創造したのは僕なんだ。ならばあの時と同様にやればテンの命は回復するのではないか。

 そう思うと同時に試す。あの時は、母様の力強くも美しい命の灯火をイメージしながら魔力を放出したはずだ。ならば今回もそうやれば……

 「どうして…どうして何も出来ないんだ」

 「キューン…」

 苦しそうな声を出しながら僕の手を舐める。

 何が、何がダメなんだ…母様が亡くなった時は、命の灯火がだんだんと小さくなっていき、命を引き取る瞬間に力強く光ったんだ。そしてその後…その光がこの未知の森へと飛んでいったんだ。

 もし、もし体から離れた命の灯火をテンの命へと持っていくことでテンの命が回復するなら。

 やれることが他にないなら、考えてる時間はない。早く試さなければ。

 テン、待っていてくれ。必ず助けるから。
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