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第2章 拠点開発
第66話 秘境
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「僕も海見てみたいー!」
「私も見たい!」
「なら明日にでも行ってみようか。そうだ、ヨタドリたちも一緒に連れて行こう。ヨタドリが海を見るとかなり興奮していたからな。きっと海の向こうから来たんだと思う。」
昨日森の北側、そこを抜けた先にある海を見つけた。その景色をゾンとルアに伝えると2人は海を見に行きたいと言い出したがそれは仕方がないことだろう。かくいう僕も、自分らしくないなと思いながらも興奮冷めやらぬまま2人に語っていた。だがそれも許してほしい。だって御伽噺の中だけの世界だと思っていた海をこの目で見たのだから。
「シャー」
「ん?どうかしたか?」
「シャーシャア シャ」
大蜘蛛が近づいて声をかけてきたと思ったらどうやら霧の領域の先に何かいるらしい。前脚でそちらの方角を示してくれている。なんだろうな?普通の魔物だったらいつも通り大蜘蛛が勝手に処理するだろうからな。まあ確かめにいけば良い話か。
「よし、テン一緒に何がいるか確認しに行こうか。」
「キュイ!」
「大蜘蛛はゾンとルアを頼む。」
「シャ!」
「2人とも、ちょっと出かけてくるね。」
「「いってらっしゃい!」」
☆
はてさて…ウカノ様に言われた通り霧の領域前まで来たがここからどうしたものか。ウカノ様方はこの霧の領域を抜けた先に住んでいたと仰られていた。少し霧の領域に入ってみたがたまったものではなかった。視界も見えず鼻も色んな匂いが混じったものが代わる代わる漂ってきて、聴覚も不快な高音が絶えず鳴り止まない。ましてや自分が立っているのかどうかすら、平衡感覚を奪われる。あのままあそこにいたら自分が自分で無くなってしまうと直感で感じ直ぐに引いた自分を褒めてやりたい。もしもう少しあそこにいたら、もう少しでも進んでいたらあのままあそこでこの身果てていただろう。
この霧の領域を抜けた先に拠点があると仰っていたがこの霧の領域をウカノ様方は抜けたのだろうか?
それに霧の領域の前まで来てもらえたら良いと仰っていたがこのまま待ち続けていればウカノ様は来て下さるのだろうか?
霧の領域で死の感覚を味わってしまったためか思考が不安な方向へと進んでしまっているな。これは良くないな。ウカノ様がここで待っていればいいと仰られたのだ。ならばこのまま待ち続ければ良いだけだ。
そして少しの間その場で待っていると周囲に違和感を感じそちらに視線を見やる。するとぬるりと何もない空間からウカノ様とその肩に乗ったテン様が現れた。そ、そうだった…ウカノ様は確か空間魔法というなんとも不思議な魔法を扱うのだった。
「おっと、確かタージだったな。待たせてしまったようで申し訳ない。」
「いえいえ、そこまで待っていませんからご安心を。そしてお久しぶりですウカノ様、それにテン様も。」
「キュイ!」
私の呼びかけに短く1声鳴くテン様に思わず魅了される。
「ウカノ様方に出会えるという確信も無く、森を大勢で移動するのは危険と判断したためひとまず私1人で訪れさせて頂きました。」
「ああ賢い判断だな。どちらにせよ移動は僕の空間魔法でまとめて転移させる予定だったしな。」
「それは助かります。大勢で移動するのも危険ですが、なにより霧の領域に入るのは勘弁ですので。それにしてもウカノ様は良くあの霧の領域を抜ける事ができましたね。」
「正直僕だけだったら難しかったがテンがいたから迷わずに進むことが出来たよ。」
「キュ!」
ウカノ様に褒められ、肩の上で嬉しそうに顔をウカノ様の顔に擦り付けているテン様に頬が緩んでしまうがそうではなく、
「5感は大丈夫だったのですか?私は森に入った瞬間から視界も見えず匂いも変な匂いが漂ってきて、聴覚も奇妙な耳鳴りが絶えず鳴り止まなく死を覚悟したほどでしたが。」
「なんだ?そんなの僕は感じなかったのだけどな。それに昨日も霧の領域に入ったがそんなものは感じなかった。考えられるとしたら種族の違いか?まあ今回は転移で霧の領域を抜ける予定だからそれに関して気にする必要はないが不思議な話だな。」
「ええそうですね。」
「そちらの準備はどうなっている?僕はいつでも良いのだがそちらにも準備は必要だろう?」
「おそらくこちらも準備は整っているかと。集落の長たちが集落の皆に拠点を移す説明をしているはずなので。」
「そうかそれじゃ今からそちらの集落に向かおうか。」
☆
「これはウカノ様。お待ちしておりました。」
「ああ、久しぶりだなタージ。拠点を僕たちの所に移す決断をしたとタスクから聞いて迎えに来させてもらった。」
「お久しぶりでございます。お話を頂いてから時間を空けての決断となりましたが受け入れてくださりありがとうございます。それで、こちらの準備は整っているのですがすぐにでも向かわれますか?」
「ああ、転移ですぐに移動できるからな。持っていきたい物とかは無いのか?一緒に持っていって構わないぞ。」
「物資も一緒に持っていってよろしいのですか。それなら武器や農具などを持って行かせて頂くとします。持ってきてもらっても良いかな?」
「はい!」
「なんだ?畑はここらに見えないが農業が出来るのか?」
「ええ、魔物をいつでも狩れるわけでもなく、特に冬は食料に困るので農業で取れた物で補っているのですよ。畑はこことは少し離れた場所にあります。もし魔物が畑の匂いに釣られてやって来たらたまりませんから。」
「なるほど確かにな。僕たちは農業をやったことがないから是非とも教えてくれると助かる。」
「もちろんでございます!」
「長よ、持ってきました!」
「よし、それじゃあ転移するとしようか。皆少し僕に近寄ってくれ。」
ウカノ様の言葉に皆が従う。実際にウカノ様が転移している様子はこの目で数回見たが自分が転移するとなるとドキドキだ。この歳になってまだこんな感情を抱けるとは。だがこの時の感情はまだ序章に過ぎなかった事をその後すぐに知る事になる。
一瞬で視界が切り替わった先には、圧倒的な大きさの大樹。そしてそれをとり囲う大きな川。そしてこの森のどんな場所よりも生い茂る草木。圧倒され過ぎて言葉にならない。
私だけでなく皆口を開けて放心している。こんなに大きな樹だったら遠目からでも見えただろうにどういう訳か1度も確認した事はない。この森で生まれ、この森で今まで何年も育ってきたがまさかこんな場所があったとは…
「私も見たい!」
「なら明日にでも行ってみようか。そうだ、ヨタドリたちも一緒に連れて行こう。ヨタドリが海を見るとかなり興奮していたからな。きっと海の向こうから来たんだと思う。」
昨日森の北側、そこを抜けた先にある海を見つけた。その景色をゾンとルアに伝えると2人は海を見に行きたいと言い出したがそれは仕方がないことだろう。かくいう僕も、自分らしくないなと思いながらも興奮冷めやらぬまま2人に語っていた。だがそれも許してほしい。だって御伽噺の中だけの世界だと思っていた海をこの目で見たのだから。
「シャー」
「ん?どうかしたか?」
「シャーシャア シャ」
大蜘蛛が近づいて声をかけてきたと思ったらどうやら霧の領域の先に何かいるらしい。前脚でそちらの方角を示してくれている。なんだろうな?普通の魔物だったらいつも通り大蜘蛛が勝手に処理するだろうからな。まあ確かめにいけば良い話か。
「よし、テン一緒に何がいるか確認しに行こうか。」
「キュイ!」
「大蜘蛛はゾンとルアを頼む。」
「シャ!」
「2人とも、ちょっと出かけてくるね。」
「「いってらっしゃい!」」
☆
はてさて…ウカノ様に言われた通り霧の領域前まで来たがここからどうしたものか。ウカノ様方はこの霧の領域を抜けた先に住んでいたと仰られていた。少し霧の領域に入ってみたがたまったものではなかった。視界も見えず鼻も色んな匂いが混じったものが代わる代わる漂ってきて、聴覚も不快な高音が絶えず鳴り止まない。ましてや自分が立っているのかどうかすら、平衡感覚を奪われる。あのままあそこにいたら自分が自分で無くなってしまうと直感で感じ直ぐに引いた自分を褒めてやりたい。もしもう少しあそこにいたら、もう少しでも進んでいたらあのままあそこでこの身果てていただろう。
この霧の領域を抜けた先に拠点があると仰っていたがこの霧の領域をウカノ様方は抜けたのだろうか?
それに霧の領域の前まで来てもらえたら良いと仰っていたがこのまま待ち続けていればウカノ様は来て下さるのだろうか?
霧の領域で死の感覚を味わってしまったためか思考が不安な方向へと進んでしまっているな。これは良くないな。ウカノ様がここで待っていればいいと仰られたのだ。ならばこのまま待ち続ければ良いだけだ。
そして少しの間その場で待っていると周囲に違和感を感じそちらに視線を見やる。するとぬるりと何もない空間からウカノ様とその肩に乗ったテン様が現れた。そ、そうだった…ウカノ様は確か空間魔法というなんとも不思議な魔法を扱うのだった。
「おっと、確かタージだったな。待たせてしまったようで申し訳ない。」
「いえいえ、そこまで待っていませんからご安心を。そしてお久しぶりですウカノ様、それにテン様も。」
「キュイ!」
私の呼びかけに短く1声鳴くテン様に思わず魅了される。
「ウカノ様方に出会えるという確信も無く、森を大勢で移動するのは危険と判断したためひとまず私1人で訪れさせて頂きました。」
「ああ賢い判断だな。どちらにせよ移動は僕の空間魔法でまとめて転移させる予定だったしな。」
「それは助かります。大勢で移動するのも危険ですが、なにより霧の領域に入るのは勘弁ですので。それにしてもウカノ様は良くあの霧の領域を抜ける事ができましたね。」
「正直僕だけだったら難しかったがテンがいたから迷わずに進むことが出来たよ。」
「キュ!」
ウカノ様に褒められ、肩の上で嬉しそうに顔をウカノ様の顔に擦り付けているテン様に頬が緩んでしまうがそうではなく、
「5感は大丈夫だったのですか?私は森に入った瞬間から視界も見えず匂いも変な匂いが漂ってきて、聴覚も奇妙な耳鳴りが絶えず鳴り止まなく死を覚悟したほどでしたが。」
「なんだ?そんなの僕は感じなかったのだけどな。それに昨日も霧の領域に入ったがそんなものは感じなかった。考えられるとしたら種族の違いか?まあ今回は転移で霧の領域を抜ける予定だからそれに関して気にする必要はないが不思議な話だな。」
「ええそうですね。」
「そちらの準備はどうなっている?僕はいつでも良いのだがそちらにも準備は必要だろう?」
「おそらくこちらも準備は整っているかと。集落の長たちが集落の皆に拠点を移す説明をしているはずなので。」
「そうかそれじゃ今からそちらの集落に向かおうか。」
☆
「これはウカノ様。お待ちしておりました。」
「ああ、久しぶりだなタージ。拠点を僕たちの所に移す決断をしたとタスクから聞いて迎えに来させてもらった。」
「お久しぶりでございます。お話を頂いてから時間を空けての決断となりましたが受け入れてくださりありがとうございます。それで、こちらの準備は整っているのですがすぐにでも向かわれますか?」
「ああ、転移ですぐに移動できるからな。持っていきたい物とかは無いのか?一緒に持っていって構わないぞ。」
「物資も一緒に持っていってよろしいのですか。それなら武器や農具などを持って行かせて頂くとします。持ってきてもらっても良いかな?」
「はい!」
「なんだ?畑はここらに見えないが農業が出来るのか?」
「ええ、魔物をいつでも狩れるわけでもなく、特に冬は食料に困るので農業で取れた物で補っているのですよ。畑はこことは少し離れた場所にあります。もし魔物が畑の匂いに釣られてやって来たらたまりませんから。」
「なるほど確かにな。僕たちは農業をやったことがないから是非とも教えてくれると助かる。」
「もちろんでございます!」
「長よ、持ってきました!」
「よし、それじゃあ転移するとしようか。皆少し僕に近寄ってくれ。」
ウカノ様の言葉に皆が従う。実際にウカノ様が転移している様子はこの目で数回見たが自分が転移するとなるとドキドキだ。この歳になってまだこんな感情を抱けるとは。だがこの時の感情はまだ序章に過ぎなかった事をその後すぐに知る事になる。
一瞬で視界が切り替わった先には、圧倒的な大きさの大樹。そしてそれをとり囲う大きな川。そしてこの森のどんな場所よりも生い茂る草木。圧倒され過ぎて言葉にならない。
私だけでなく皆口を開けて放心している。こんなに大きな樹だったら遠目からでも見えただろうにどういう訳か1度も確認した事はない。この森で生まれ、この森で今まで何年も育ってきたがまさかこんな場所があったとは…
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