赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第一部:国家の価値はゼロから始まる

第二節:帝国の拒絶、7兆ドル宣言(前編)

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 「……帝国に、売る?」

 リィナは息を呑んだ。
 それは、言葉の重さをまるで気にも留めていないような声音だった。

 加賀谷零という男は、あの日、神殿の広間で「国を売却する」と宣言した。それが冗談でも挑発でもないと知って以来、リィナの心はどこかざわついたままだ。

 だが、彼は止まらなかった。 

 「国の価値は、“今の姿”じゃなく、“伸びしろ”で測るもんだろ?」 

 その言葉をきっかけに、彼は毎日のように文官たちを呼び集め、財務記録を掘り起こし、税制と軍制の棚卸しを進めていった。リィナが通うたび、書類の山は少しずつ積み上がり、羊皮紙には見慣れない図や数式が増えていった。
 
 「これは……?」 

 ある日、リィナが恐る恐る訊ねると、彼は簡潔に答えた。 

 「企業概要書。そっちの言葉で言うなら──商業ギルドの報告書、みたいなもんかな」 

 「商業ギルド……?」 

 「この国にもあるよな? 物資をまとめて流通させる組合組織。で、利益や財産を記録してる」 

 「ああ、あれは……」 

 リィナがうなずくと、加賀谷は淡々と続けた。
 
 「俺の世界では“会社”って呼んでる。人と資本の集まり。国家ってのは、それをでかくしたものにすぎない」 

 彼の言葉には温度がなかった。冷たくはない。ただ、驚くほど事務的で、感情に流されない。 

 「この国が持ってる土地、資源、労働力、交易路、軍事拠点──それをどう組み直せば価値になるか。それを全部、書類に起こしてる」 

 机の上の一枚を手に取り、彼は言った。
 
 「これは“売るための武器”だよ」 

 *** 
 そして、五日後。
 リィナは玉座の間で、再びその報せを受ける。
 
 「帝国と、会う手はずを整えた」 

 「……え?」 

 彼は平然とした顔で、ひとつの紙片を差し出してきた。

 そこには、帝国南部統治局の印章が押されている。かつて交易の使者として門前払いされた相手。その中枢の官僚と、面会の約束を取り付けたというのだ。 

 「きっかけは偶然だったよ。帝国に移ったミティア出身の文官がいてな。“祖国の現状に心を痛めてる”らしい」 

 「……あなたは、そこまでして……本気で、この国を売るつもりですか」
 
 問いかけながらも、リィナの声には迷いがあった。
 拒絶したいはずなのに。胸の奥で、確かに希望のような何かが灯っているのを感じていた。
 
 「売るのが最善なら、売る。けどな──」
 
 加賀谷は、珍しくそこで言葉を切った。 

 「売れなかったら、仕方ない。……そのときは、価値を上げるしかないだろ」 

 「……価値を?」 

 「帝国に“あのとき買っておけばよかった”って後悔させるぐらいにはな」 

 静かに、しかし確信に満ちたその目を、リィナは見つめ返すことができなかった。
 
 彼は異世界から来た“ただの人間”だ。
 けれどその背中には、なぜか追いかけたくなる何かがあった。
 
 「……私も交渉の場に同行します」  

 それだけを告げたリィナの声は、震えてはいなかった。
 
 ──ミティア公国。破綻寸前の国家を売却するための交渉が、今、始まろうとしていた。
 
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