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第1部 目指せゲームオーバー!

第25話 はたらく勇者パーティー(八百屋)

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 ……なんかすげーよく寝た気がする。
 リフレのハーブティー効果かな。
 なんて思って起き上がると、ドルーオと目があって……ないな。

「あぁカイト、起きたか」
「なんで顔が黒いモヤモヤでおおわれてんの?」

 何それ、モザイク的なやつ?
 元魔王の顔面ってコンプライアンス違反なの?

「これか。闇魔法だ」
「闇魔法?」

 オレの質問には答えず、ドルーオはフッとモヤモヤを消した。
 いつもの涼しい顔が現れる。

「これがこの魔法の効果だ」

 いや、分からん。
 いつも通りの顔面じゃないの? なんか違うの?
 寝起きで回らない頭のまま、元魔王の顔面で間違い探しをしていると、あることに気付いた。

「……あれ? 目が黒い」

 確か、ドルーオの目は赤かったはずだ。
 だが今は黒い。

「……目の色を変える闇魔法……?」

 え、何それ。なんかびみょい……

「《偽装ペルソナ》。任意の対象に対する周囲の認識を、ある程度自由にゆがめる魔法だ」

 そう言えば、前にリフレも『白い髪と赤い目を見れば、魔族なのは分かる』って言っていた。
 実際ナッシュも初対面のドルーオを、一目で魔族って見抜いていた。
 だが、リフレの地元の村人や昨日の八百屋の店主達は、ドルーオを見ても普通にしていた。
 あの時も《偽装ペルソナ》なる魔法を使って、周りに自分の目を黒く見えるようにしてたのか。

「そんなこともできんのかー、闇魔法すげーな」
「前も言ったが、高純度の闇魔力は、脳や精神に干渉できる性質をもつ。その応用で他者と念話テレパシーをしたり、他者を操ったりもできる」

 あ、やっぱナッシュとケンカしたときのあれは、闇魔力由来のテレパシーだったのか。
 それにしても……

「操る……って? 他人の動きとか好きにできるの?」
「それもできる。他者を操る魔法は2種類ある。肉体の支配権を奪って言動を操る《洗脳ジャック》と、任意の記憶を封印し思い出せなくする《封印オメルタ》だ」

 うおお……なんか怖いな……

「おいィ、そろそろ行くぞォ」

 ドアの前からナッシュの声が飛んできた。
 ドルーオが短く「あぁ」と返事をする。

「さっき、リフレに何を頼んでいたんだ?」
「あァ? 軽い情報収集だよォ」

 そんな会話が漏れ聞こえてくる廊下を背にして、オレも身支度みじたくを始めた。
 今日から半年間のアルバイトかぁ……マオマホに間に合うかなぁ……

 ◇

「それじゃあ、今日からよろしく頼むよ」
「はい!」
「おー!」

 にこやかに笑う店主に、オレとクトは元気よく応えた。
 元いた世界の八百屋がどうかは知らないが、この店での仕事は、コンビニでの仕事とそこまで大きく違わなかった。
 野菜やフルーツを陳列ちんれつし、それらのいたみや変色の具合いを見て交換し、店内や店先を掃除し、袋詰めや会計をする。
 お陰でオレは、割とすぐ順応できた。
 傷みチェックはまだ無理だが、しばらく働けばできるようになるだろう。
 まぁ何にしても、元いた世界でのバイトの経験が活きてる以上、ここでのバイトでも特に問題は起きな──

「なぁ知ってるか? ここの青リンゴすげぇ美味いんだぜ! 青リンゴ好きのおれが保証するよ!!」
「えっ、ウサギが喋ってる!? ナニナニナニ!?」
「わー、モフモフだー! めっちゃ可愛いー!」
「喋るウサギだって、すごーい!!」
「青リンゴが美味しいの? 買ってみるね!」
「おう! でも泥棒はダメだぞ、お金払わないと怒られるからな!!」
「何この子、面白ーい!!」

 問題が起きた。
 クトが店先で通行人と喋った。それだけ。
 だがその結果、ものの数分でえげつない人だかりが発生した。
 コミケ並の人口密度の八百屋とか聞いたことねぇよ。

「すいません、青リンゴ3つください!」
「あっ、この桃も美味しそう。青リンゴと桃3つずつくださーい!」
「こっちは青リンゴとブドウ、レモンもちょーだい!」

 クトが推す青リンゴ以外も高品質なことが知られて以降は、ほとんどの客が他のフルーツも一緒に買っていった。
 陳列ちんれつした端からフルーツが消えていく。
 飛ぶように売れるって、こーゆー感じかー。
 ……なんて頭皮的思考をする余裕が、勤務初日のオレや、今までワンオペしていた年配店主にあるわけもなく、

「まずい! 青リンゴとブドウと桃の在庫が切れる……!」
「さすがにこれはさばききれないんですけど!?」
「こ、こんな忙しいのはワシも初め、はうっ……!!」
「てんちょおおおおお!?」

 そして、多忙を極めて店主ぎっくり腰のため、翌日は臨時休業となった。

「お前二度と客寄せするんじゃねぇ!!」

 初日の勤務を終えたオレの、魂の叫びだった。

 ◇

 とは言え、せっかくの広告塔もとい看板娘を下げてしまっては、客足が激減する可能性もある。
 オレと店主で相談して、クトには引き続き客寄せをしてもらうことになった。
 幸い、客もクトにはすぐ慣れたようで、今ではクトではなく純粋にフルーツ目当てで来てくれている。

「いらっしゃーい! 今日も活きのいいフルーツがいっぱいだぜー!」
「魚か! 新鮮って言えよ!」
「あ、そっか」
「八百屋で『活きのいい』ってフレーズ初めて聞いたわ!」
「でも、植物も生き物って聞いたぜ」
「生物ではあっても動物ではねぇんだよ!」

 クトの元気な挨拶とオレのツッコミを聞き、それで笑った客がそのまま買い物をする。
 これが半ばルーティン化したことで、オレ達が働き出してから、店の売上が伸びに伸びまくったらしい。
 だが、オレとしてはぶっちゃけどうでもいい。
 頼むからトラブルとかなく無事終われ。
 そんで魔王、早くオレを殺してくれ!
 マオマホに間に合わせてくれ!!
 なんてフラグじみた願い事をしながら働いた。
 半年は、意外とあっという間に過ぎた。


(つづく)
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