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後日談:結婚式
10、経緯
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「ははは。違う違う。役人たちについては、粒ぞろいだと閣下は満足されていた。不足を覚えておられるのは、上級の貴族どもについてだ」
カシューの言葉に、ルクロイは「あぁ」と頷きを見せた。
「そういうことか。確かに、その問題は常々ささやかれていたな」
「位の低い役人では出来ない仕事というものがあるからな。他国の使者を歓待するにも、あるいは他国の式典に使者もかねて出向くにもだ」
「家格が低ければ、それだけでも失礼と取られかねないからね。ただ、外交を理解するような上流の貴族は残念ながらさっぱり……って」
ヘルミナも何となく察したが、夫は当然そうらしい。
カシューに対して眉をひそめて見せた。
「まさか、そういうことか?」
「そういうことだ」
「俺を上流の貴族にってか!?」
「そうなるが、お前をってだけの話では無いな。むしろ、俺たちが推薦させてもらったのはヘルミナ殿についてだ」
え? だった。
ヘルミナは思わず自身を指差す。
「わ、私ですか?」
「貴族としての外交は、夫ばかりの仕事では無いですからね。閣下はその点について嘆いておられた。なかなか、その手のことを任せられるご夫人はいないと」
カシューはしみじみとして頷きを見せた。
「確かに、その通りだと思いましたな。この国は、なまじ大国であるだけに権高いご夫人が多い。他国の使者に、自分の美貌や財力を見せびらかすことだけに腐心するようでは、当然外務の役には立ちません。社交界のことばかりが頭にあり、他国について関心が払えなくても同様です」
そして、だった。
カシューはニコリとしてヘルミナを見つめてくる。
「その点、貴女はやはり私たちの思った通りだった。閣下も、よくあのような夫人がいたものだと感心しておられました」
再びの「え?」だった。
「ど、どういうことでしょうか? まるでその、外務卿閣下が私に直にお会いされたようなお言葉でしたが」
「それはまぁ、お会いされましたからな。昨日のことは覚えておられますな? シャベス・ルミアと名乗る男が、ルクロイの同僚であるとして訪ねてきたはずですが」
ヘルミナはルクロイと顔を見合わせることになった。
「ま、まさかですが……」
「き、君が言っていた幻のような男っていうのは……へ? か、閣下だったのか!?」
カシューは「くく」と愉快げに喉を鳴らして頷く。
「そういうことだ。ひそかにヘルミナ殿の品定めをされたということだな。そして、ヘルミナ殿は無事に閣下のお眼鏡にかなった。まぁ、気弱そうな外面を含め、改善すべきところは多いとおっしゃってはいたが……ギネス」
ヘルミナがルクロイと共に呆然としている中で、ギネスは「おう」と頷いた。
気がつけば、彼は大きな革袋を手にしていた。
見覚えはあった。
彼が今日訪れた時に手にしていたものだ。
ギネスはそれを、ヘルミナとルクロイの前に「よっ」と一言と共に据えてきた。
「閣下からだ。支度金としていただいてきた」
「へ? し、支度金?」
ルクロイが目を丸くすれば、ギネスは笑って頷いてくる。
「おうさ。伯爵ともなれば、色々用立てる必要があるだろう? 屋敷も移ることになれば、衣装も家具もあらためにゃならん。んでまぁ……親族との関係なんかもな。今後のためを思えば必要だろう?」
つまりはきっと、そういうことだった。
今後はカシューが優しい笑みを見せてくる。
「閣下は使途は限定しないと言っていたからな。金額としては十分なはずだが、どうだ? いや、どうだも無いか。ここまで来て断ることなど出来まい?」
ヘルミナはルクロイを見つめることになる。
何やらとんでもないことになってしまったが、一体彼は今何を思っているのか? それが気になった。
ルクロイは「はぁ」と深々とため息をついた。
「よくもまぁ、人を勝手に伯爵などにしてくれたなんて思わないでもないね。ただ……」
彼は深々と友人2人に頭を下げた。
「……ありがとう。これでヘルミナと実家の件については片が付きそうだ」
ヘルミナもまたルクロイに続いて頭を下げた。
感謝の思いしかなかった。
実家の財産の件は、小さくない心のしこりだったのだ。
恩人2人は、そろって笑顔で首を左右にしてきた。
「気にすることは無いだろうさ。俺たちはな、ヘルミナ嬢の花嫁姿を見たいばかりだったからな」
「そういうことだ。であれば、ご両人。あとは分かっているな? 結婚式は開くのだな?」
そういうことになるらしい。
ルクロイが尋ねかける視線を送ってくれば、これは当然だ。
ヘルミナは笑顔で頷きを見せるのだった。
カシューの言葉に、ルクロイは「あぁ」と頷きを見せた。
「そういうことか。確かに、その問題は常々ささやかれていたな」
「位の低い役人では出来ない仕事というものがあるからな。他国の使者を歓待するにも、あるいは他国の式典に使者もかねて出向くにもだ」
「家格が低ければ、それだけでも失礼と取られかねないからね。ただ、外交を理解するような上流の貴族は残念ながらさっぱり……って」
ヘルミナも何となく察したが、夫は当然そうらしい。
カシューに対して眉をひそめて見せた。
「まさか、そういうことか?」
「そういうことだ」
「俺を上流の貴族にってか!?」
「そうなるが、お前をってだけの話では無いな。むしろ、俺たちが推薦させてもらったのはヘルミナ殿についてだ」
え? だった。
ヘルミナは思わず自身を指差す。
「わ、私ですか?」
「貴族としての外交は、夫ばかりの仕事では無いですからね。閣下はその点について嘆いておられた。なかなか、その手のことを任せられるご夫人はいないと」
カシューはしみじみとして頷きを見せた。
「確かに、その通りだと思いましたな。この国は、なまじ大国であるだけに権高いご夫人が多い。他国の使者に、自分の美貌や財力を見せびらかすことだけに腐心するようでは、当然外務の役には立ちません。社交界のことばかりが頭にあり、他国について関心が払えなくても同様です」
そして、だった。
カシューはニコリとしてヘルミナを見つめてくる。
「その点、貴女はやはり私たちの思った通りだった。閣下も、よくあのような夫人がいたものだと感心しておられました」
再びの「え?」だった。
「ど、どういうことでしょうか? まるでその、外務卿閣下が私に直にお会いされたようなお言葉でしたが」
「それはまぁ、お会いされましたからな。昨日のことは覚えておられますな? シャベス・ルミアと名乗る男が、ルクロイの同僚であるとして訪ねてきたはずですが」
ヘルミナはルクロイと顔を見合わせることになった。
「ま、まさかですが……」
「き、君が言っていた幻のような男っていうのは……へ? か、閣下だったのか!?」
カシューは「くく」と愉快げに喉を鳴らして頷く。
「そういうことだ。ひそかにヘルミナ殿の品定めをされたということだな。そして、ヘルミナ殿は無事に閣下のお眼鏡にかなった。まぁ、気弱そうな外面を含め、改善すべきところは多いとおっしゃってはいたが……ギネス」
ヘルミナがルクロイと共に呆然としている中で、ギネスは「おう」と頷いた。
気がつけば、彼は大きな革袋を手にしていた。
見覚えはあった。
彼が今日訪れた時に手にしていたものだ。
ギネスはそれを、ヘルミナとルクロイの前に「よっ」と一言と共に据えてきた。
「閣下からだ。支度金としていただいてきた」
「へ? し、支度金?」
ルクロイが目を丸くすれば、ギネスは笑って頷いてくる。
「おうさ。伯爵ともなれば、色々用立てる必要があるだろう? 屋敷も移ることになれば、衣装も家具もあらためにゃならん。んでまぁ……親族との関係なんかもな。今後のためを思えば必要だろう?」
つまりはきっと、そういうことだった。
今後はカシューが優しい笑みを見せてくる。
「閣下は使途は限定しないと言っていたからな。金額としては十分なはずだが、どうだ? いや、どうだも無いか。ここまで来て断ることなど出来まい?」
ヘルミナはルクロイを見つめることになる。
何やらとんでもないことになってしまったが、一体彼は今何を思っているのか? それが気になった。
ルクロイは「はぁ」と深々とため息をついた。
「よくもまぁ、人を勝手に伯爵などにしてくれたなんて思わないでもないね。ただ……」
彼は深々と友人2人に頭を下げた。
「……ありがとう。これでヘルミナと実家の件については片が付きそうだ」
ヘルミナもまたルクロイに続いて頭を下げた。
感謝の思いしかなかった。
実家の財産の件は、小さくない心のしこりだったのだ。
恩人2人は、そろって笑顔で首を左右にしてきた。
「気にすることは無いだろうさ。俺たちはな、ヘルミナ嬢の花嫁姿を見たいばかりだったからな」
「そういうことだ。であれば、ご両人。あとは分かっているな? 結婚式は開くのだな?」
そういうことになるらしい。
ルクロイが尋ねかける視線を送ってくれば、これは当然だ。
ヘルミナは笑顔で頷きを見せるのだった。
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