侯爵令嬢の恋わずらいは堅物騎士様を惑わせる

灰兎

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第一章

15、ゆっくりな帰り道

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「予定より早く謁見が済んだから少し寄り道して帰りたい。適当に町を周ってくれ。11時半には屋敷に着くように」

「かしこまりました」

御者に話した後、ルートヴィッヒはエレオノーラの待つ馬車に戻って来て向かい側に座った。

「大丈夫か?」

「はい、陛下にお目にかかるのは緊張しましたが、元気です」

「その事ではない」

エレオノーラはルートヴィッヒの少し困ったように笑う時の笑顔は魅力的だなと思った。

「これからの長い旅路を危惧しているのでも無い。あの男なのだろう? エルの心に居るのは」

その言葉と視線に、もう誤魔化し切れないと悟り、頷いた。

「フランツ•ノイマイヤーはとても優秀な男だ。なかなか人を信用しないオズワルドも信頼し、その腕を買っている」

「はい……」

「この馬車は後一時間程屋敷に戻らない。そしてここにはエルと俺しか居ない。だから何も気にするな。例え泣きじゃくったって誰にも聞こえないし、俺は馬車を降りたら何も覚えていない」

「ルートヴィッヒ様……先程はどうもありがとうございました……ノイマイヤー大佐との時間を設けてくださって……」

「エルの恩人なのだから、当然だ」

「大佐は私の護衛をしておりましたが、数年前に騎士団に入ってからは、結婚をすると言う報告の便りが一度届いただけで……でも今日元気そうな姿を見られました。それだけで、十分です」

「そうか……」

「大佐が部屋に入って来て、心臓が止まるんじゃないかと思う程びっくりしました。でも、もう泣きません。彼に流す涙は一生分流しましたから」

そう言うエレオノーラの声は少し震えている。

ルートヴィッヒはエレオノーラの隣に座りなおした。

「エル、涙の絶対量なんて、誰も決めてない。エルには幸せでいて欲しいと願っているが、それは悲しくなってはいけないと言うことじゃない。俺の言うこと、分かってくれるか?」

ルートヴィッヒはエレオノーラを自分の胸に引き寄せた。

「ルートヴィッヒ様……」

「好きなだけ泣いて、わがままを言ってもいいんだ、誰もここには居ない」

ルートヴィッヒはエレオノーラが落ち着くまで何も言わずに背中を撫でてくれた。

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