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第九話 お泊まりセットを使うとき②
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「タオルはこれ使ってください。服はこれ貸しますね。ドライヤーも勝手に使っていいんで。もしなんかあったら言ってください」
「ありがとう」
簡単な説明を受け、脱衣洗面所の扉は閉められた。
家事が好きだと公言するだけあって、どこもきちんと片付いていて感心する。
髪を洗い、体をいつもよりもちょっと念入りに洗ってから湯舟に浸かると、なんだか変な気持ちになってくる。
「するのかな…」
するんだろうな、多分。
期待させるだけさせて何もしませんというのは、矢野くんがどんなに気にしないと言っても、それはそれで後が気まずいような。
うーんうーんと考え続け、のぼせてしまいそうになるくらい長風呂をしてしまった。
簡単にスキンケアをして、ドライヤーで髪を乾かす。普段からあまりしっかりメイクをしているわけではなかったけれど、やっぱりすっぴんで相対するというのはちょっぴり恥ずかしいなと思う。
でも、これから比べ物にならないような恥ずかしいことをするのだろうか。そのことで頭がいっぱいになっている自分が嫌になる。
浴室を出て、持ってきた下着(沙織の言う『気合いが入っていないように見えるけどちょっと可愛い』のを選ぶのが大変だった)を身に付けてから、矢野くんが用意してくれた黒いTシャツとハーフパンツを身に付ける。案の定ぶかぶかだったので、ハーフパンツはウエストの紐をぎゅっと引っ張って結んだ。
リビングに戻ると、矢野くんはどこか上の空な様子で、ぼんやりとテレビで流れる音楽番組を眺めていた。
「お風呂、お先にいただきました」
「いえいえ。冷蔵庫に入ってる飲み物、勝手に飲んでください」
「俺も入ってきていいですか」と聞かれて、こくこくと頷くと、私の頭をぽんと撫でてから、脱衣所に向かう。
冷蔵庫を開けると、私が以前美味しいからおすすめだと言っていたフルーツティーのペットボトルが2本並んで入っていた。
「マメだなあ…」
それを手に取り、長風呂のせいで火照ってしまった頬を冷やした。
そういえば、「ずっと好きです」なんて言っていたけれど、一体彼はいつから私に対して恋愛的な感情を抱いてくれていたのだろうか。
でもこのフルーツティーが気に入っていることを話したのは、指導係をしているときだった。つい何日か前に、復刻版として販売再開されたとSNSのニュースで見かけたそれが、今ここに用意されていることに胸の奥がぎゅっとなる。そういえば、今日彼が振る舞ってくれた料理は和食ばかり。以前、「洋食より和食の方が好き」と何気なく言ったことがあったような気がする。
ペットボトルを一本取り出して開けようとしてから、後で一緒に飲みたいなと思って、元の場所に戻した。キッチンにふせられていたコップを手に取って、麦茶を一杯もらった。
テレビは、いつの間にか音楽番組からバラエティー番組に変わっていた。それをソファに座って見るともなしに見ていると、髪を拭きながらダークグレーのスエットに白いTシャツ姿の矢野くんが戻ってくる。
「冷蔵庫見ました?」
「うん、フルーツティー入ってた」
「飲まないんですか?好きって言ってませんでしたっけあれ」
「んー、なんか、ちょっとぐっときちゃったから後で一緒に飲もうと思って」
「ぐっときちゃった?」
どういうことかわからない様子の矢野くんは、頭を掻きながら「とりあえず俺も飲んだらいい?」と言い、冷蔵庫からペットボトルを2本取り出した。差し出されたそれを受け取ると、矢野くんは隣に座る。
「じゃあ、特典映像見ます?結構長いみたいですけど」
「見る見る!」
まるで‘お泊り会’のようで、わくわくしてくる。さっきまで一人で悶々としていたけれど、そんなことが一度に吹き飛んでしまう。
二人並んで同じ飲み物を飲みながら、見たかった好きな作品のスピンオフを見るなんて。テンションが上がらないわけがない。私の浮かれた様子を見て、矢野くんは笑った。
「ありがとう」
簡単な説明を受け、脱衣洗面所の扉は閉められた。
家事が好きだと公言するだけあって、どこもきちんと片付いていて感心する。
髪を洗い、体をいつもよりもちょっと念入りに洗ってから湯舟に浸かると、なんだか変な気持ちになってくる。
「するのかな…」
するんだろうな、多分。
期待させるだけさせて何もしませんというのは、矢野くんがどんなに気にしないと言っても、それはそれで後が気まずいような。
うーんうーんと考え続け、のぼせてしまいそうになるくらい長風呂をしてしまった。
簡単にスキンケアをして、ドライヤーで髪を乾かす。普段からあまりしっかりメイクをしているわけではなかったけれど、やっぱりすっぴんで相対するというのはちょっぴり恥ずかしいなと思う。
でも、これから比べ物にならないような恥ずかしいことをするのだろうか。そのことで頭がいっぱいになっている自分が嫌になる。
浴室を出て、持ってきた下着(沙織の言う『気合いが入っていないように見えるけどちょっと可愛い』のを選ぶのが大変だった)を身に付けてから、矢野くんが用意してくれた黒いTシャツとハーフパンツを身に付ける。案の定ぶかぶかだったので、ハーフパンツはウエストの紐をぎゅっと引っ張って結んだ。
リビングに戻ると、矢野くんはどこか上の空な様子で、ぼんやりとテレビで流れる音楽番組を眺めていた。
「お風呂、お先にいただきました」
「いえいえ。冷蔵庫に入ってる飲み物、勝手に飲んでください」
「俺も入ってきていいですか」と聞かれて、こくこくと頷くと、私の頭をぽんと撫でてから、脱衣所に向かう。
冷蔵庫を開けると、私が以前美味しいからおすすめだと言っていたフルーツティーのペットボトルが2本並んで入っていた。
「マメだなあ…」
それを手に取り、長風呂のせいで火照ってしまった頬を冷やした。
そういえば、「ずっと好きです」なんて言っていたけれど、一体彼はいつから私に対して恋愛的な感情を抱いてくれていたのだろうか。
でもこのフルーツティーが気に入っていることを話したのは、指導係をしているときだった。つい何日か前に、復刻版として販売再開されたとSNSのニュースで見かけたそれが、今ここに用意されていることに胸の奥がぎゅっとなる。そういえば、今日彼が振る舞ってくれた料理は和食ばかり。以前、「洋食より和食の方が好き」と何気なく言ったことがあったような気がする。
ペットボトルを一本取り出して開けようとしてから、後で一緒に飲みたいなと思って、元の場所に戻した。キッチンにふせられていたコップを手に取って、麦茶を一杯もらった。
テレビは、いつの間にか音楽番組からバラエティー番組に変わっていた。それをソファに座って見るともなしに見ていると、髪を拭きながらダークグレーのスエットに白いTシャツ姿の矢野くんが戻ってくる。
「冷蔵庫見ました?」
「うん、フルーツティー入ってた」
「飲まないんですか?好きって言ってませんでしたっけあれ」
「んー、なんか、ちょっとぐっときちゃったから後で一緒に飲もうと思って」
「ぐっときちゃった?」
どういうことかわからない様子の矢野くんは、頭を掻きながら「とりあえず俺も飲んだらいい?」と言い、冷蔵庫からペットボトルを2本取り出した。差し出されたそれを受け取ると、矢野くんは隣に座る。
「じゃあ、特典映像見ます?結構長いみたいですけど」
「見る見る!」
まるで‘お泊り会’のようで、わくわくしてくる。さっきまで一人で悶々としていたけれど、そんなことが一度に吹き飛んでしまう。
二人並んで同じ飲み物を飲みながら、見たかった好きな作品のスピンオフを見るなんて。テンションが上がらないわけがない。私の浮かれた様子を見て、矢野くんは笑った。
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