ユキ・シオン

１人たす１匹は２人

２Ｐ

　ミルクをくれた次の日に猫用のカリカリを差し出すとか、食えるわけがない。子猫だぞ。病み上がりだぞ。

　思いっきり態度で示して、体調が快復するまではミルクとお湯や温かいミルクでふやかしたカリカリを食べさせてもらった。

　トイレに使う猫砂は買うとおばあさんには重く、定期的に配達。家の中で一生懸命「よいしょよいしょ」って言いながら運んでくれているのを見ると申し訳ない。


　あと、猫の性だよな。風呂は慣れるまで全力で暴れまくった。爪を立てないように気を付けていたけどさ、終わったらおばあさんの腕が傷だらけなんだ。


　おばあさんはいつも楽しそうだけど、迷惑をかけている。だから俺、意思表示はなるだけやってみた。俺には人間の言葉がわかるから。


　おばあさんといっしょに日向ぼっこしていると「まるで人間みたいで不思議な子だねぇ」って呟いた。


　その時言っていたんだ。おばあさんの子供や孫は遠くにいて、旦那さんも数年前に死んでいるって。１人で寂しかったのかもしれない。


　１日のほとんどを俺のために費やしてくれて、おかげで俺はすぐに快復。白猫だからと、おばあさんは俺に“ユキ”という名前を付けてくれた。


　すっげーシンプルだよな。まぁ、そんなところもおばあさんらしいが。誰にでも優しくて、優しすぎてお人好しなんだよ。


　それから１年が経って。俺はばっちゃんの愛猫としていつも楽しく暮らしていた。ある日、突然ばっちゃんが倒れた。


　ただの白猫の俺には叫ぶことも、肩をゆすることも、救急車を呼ぶこともできない。できたのは、隣に住んでいる独身の中年男の玄関をひたすら爪でカリカリカリカリ……


　怒られるのを覚悟で、出てきたところを飛びかかって。捕まる前にすぐに逃げて追いかけてくるのを待ち、ばっちゃんのところまで誘導する。