ユキ・シオン

譲渡会

３P

　ドクトルは前に「妊娠した、かも」って明らかに急激な中年太りで出っ張った腹を幸せそうに撫でていた。その、腹から見事に床に打ち付けたぞ。


　引っ込んだんじゃない？というか、急に何事だよ？車に突き飛ばされたみたいな勢いだったけどさ。


　腹と、腹の次に打ったらしい鼻を押さえてゴロゴロ悶絶しているドクトルに「ご、ごめんなさいっ」と謝る男の人。誰？


　俺と同じくらいの歳に見える、ドクトルより背が高い。でもたぶん、この人がドクトルに突進したんだな。慌てふためいて、パニックを起こしてんのか「し、死なないで、ドクトルさん」とか。


　いやいや、腹と鼻を床に強打したくらいで死ぬような変態じゃねぇよドクトルは。でもわざとじゃなくて、本気っぽい。ついにボロボロ泣き出したぜ。


「うぅぅぅ、流産した。あいたたたた…………駿。お前さんの突進は慣れたから、もう大丈夫だって、たぶん。部屋で待ってなさいって言ったのに、どうしたのよ？」


　あ、もしかして患者さんか？いやでもこんな、突進で人を吹っ飛ばすほど元気なら違うか。とか考えていたらドクトルが腰を押さえながら起き上がった。


　男の目元を黒衣の袖で拭ってやって、「よしよし」と頭を撫でる。ん、頭を撫でる？なんか、すごいものを見てしまっているような。


「トイレ、行きたくて。でも場所がわからなくて。綺麗な目の人に聞こうと思ったんですけど、なんだかものすごく忙しそうで……」


「お前さん、トイレぐらいいい加減覚えなさいよ。部屋にもあるのに、どうして外に出ちゃったかなぁ。オムツでも穿かせるか、たぶん…………ん？あ。そうか、この子とは初めまして、かも？」


　と、トイレに行きたくてドクトルに突進かよ。しかもかなりの方向音痴か。悠一とおんなじだな。