【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん

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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。

第140話(ステファン視点)

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「見事にぶっ壊れてるな」

 ライガが感嘆したように呟く。
 魔法使いたちが到着して状況を話してから、僕らはエイダンと一緒に大神殿の跡地に向かった。
 昨日の朝に、崩れかけていた壁が倒壊した。祭壇と、天井までそびえる大きな白水晶の女神像、その女神像の胎内に作られた小さな小部屋――ここが【祈りの間】らしい――だけを残して神殿は見る影もなくなっている。

 その小部屋を見て僕は眉をひそめた。

 10年近くレイラは朝から晩までここで祈ってたのか……。
 
 その小部屋の奥には、神殿裏の別棟に続く扉がもう一つあり、その向こうにある小さい部屋が、レイラが寝室に使っていたところらしい。そこもレイラの祈りで弾かれた天井の残骸で潰されていたけど、その寝室と【祈りの間】が、レイラがキアーラにいた時の行動範囲の全部だったのかと思うと胸が痛む。

「ライガ、ステファン、こっちだ」
 
 エイダンが僕たちを手招きした。
 
 神殿ではもう崩れるところはなさそうだということで、神官や兵士たちが今朝からエイダンの指示のもと、片付け作業にあたっていた。大人しくなった竜が大きな瓦礫がれきを引っ張ってどけてくれたので、大方片付いている。

「この下が大司教の執務室だ」

 そこには階段のようなものがあったけど、崩れた壁が倒れて入口を塞いでいた。

「任せとけ」

 ライガが壁の残骸をどけると、地下に続く階段が出てきたので、僕らはそこを下って行った。

 広々とした地下の書斎で、大司教の机をあさる。
 レイヴィスのところにあった水晶玉と対になっている水晶は見つけておきたかった。

 机をあさりながら、ライガがエイダンに話しかける。

「お前、キアーラに戻ってから、やたら活き活きしてるな。戻れてやっぱり嬉しいわけ?」
 
 エイダンは国王を差し置いて、大神殿の片づけやら、到着した魔法使いとのやり取りとやら、てきぱき宮殿内を仕切っていた。思いのほか兵士からは信頼されてるようで、大司教がいなくなった今、周りの人たちもこいつの指示に従ってる。
 
「当たり前だ。僕はキアーラが好きだからな」

「どこが良いんだ? マルコフ王国の王都のが都会だぜ」

 エイダンは顔をしかめる。

「白水晶の大神殿神に囲まれた王宮に整然とした城下、豊かな緑。他のどこより綺麗だろう。都会であればいいというのは、低俗な意見だな」

 ライガがカチンっときた顔をした。
 一言、余計なんだよなぁ、エイダンは。——いや、それはライガもか。

「――綺麗は綺麗だよね。——大神殿、崩れちゃって残念だね」

 そう口を挟むと、エイダンは周囲をぐるりと見回した。

「自分が育った国だ。やはり戻ると嬉しさがこみ上げてくる。もう僕が戻ったからには、神殿の好きにはさせぬ」

 ……長男なのに自分の家の領地を放って出てきた僕は、その言葉を聞いて少し耳が痛い気持ちがした。
 
 苦笑してからエイダンに聞く。

「好きにさせないって、どうするんだ?」

「――神官にきちんと祈らせるとともに、国民にも祈らせよう。南端の村で、教会に募った村人が大勢で祈った時に女神像が光るのを見た。神官だけでなく、普通の村人でも集えば祈りの効果はあるようだから、これを機に、一か所に権力が集中するのを避けたい」

「――きちんと考えてるんだな」

 思わず感心してそう言うと、エイダンは得意げに鼻をならした。

「当たり前だ。僕は次期国王だからな。ただ――しばらくは、魔物が出るだろうから、ナターシャに相談して冒険者を地方に入れたいと思っている。お前たちには、少し残ってもらって、兵士に魔物退治を教えて欲しい。キアーラの兵は、魔物退治に不慣れだ」
 
 エイダンは真剣な眼差しで僕を見た。

「特にステファン、お前のノートは良いものだよ。なかなかためになる。それを兵士たちにも伝えてやってくれないか」

 ……。
 そう言われると、まぁ嬉しいな。

「協力するよ」

 そう答えたその時、ライガが「あった!」と大きな声を出した。
 そっちを見ると、引き出しから取り出した水晶玉を手に掲げている。
 
「これだな」

 エイダンがそれを受け取ると、ライガはさらに引き出しの奥をあさって、顔をしかめながら瓶を一つ取り出した。

「これは何だ? 気持ちわりぃ」

 瓶の中には、干からびた何かが2つ入っている。
 ――この形、ひょっとして。
 僕は呟いた。

「――耳?」

 ***

「私の……耳?」

 瓶を届けると、レイラはしげしげと横から下からそれを眺めた。

「たぶん、形的に。――良かったね、くっつくよ!」

 耳は綺麗な状態でミイラ化して残っていた。
 ――これだけ保存状態が良ければ、またくっつけられる。
 どこかの遺跡で見つかったミイラも、身体だけは戻せたって話を聞いたことがあるし、魔物退治や事故なんかで腕や足が取れた時、すぐにくっつけて治療できない場合は魔法で乾燥させて持ち帰れば治療できる可能性があると聞くし。

「――くっつく――の? これ? 干からびてますけど……干し耳……」

 レイラは不味いものでも食べたような顔をして、瓶の中身を眺める。

「多少時間はかかるかもしれないけど、魔法都市の専門の魔法使いに頼めば、たぶん治ると思うよ。そうだよね?」

 リルとソーニャに聞くと、二人は頷いた。

「そうねえ。たぶん、治せると思うわ。お金はすごくかかるだろうけど……」

 リルの回答に、レイラが背筋を伸ばす。

「ど、どれくらいかかりますか……?」

「心配しなくていいよ、エイダンが出すから」

 僕はどんっとエイダンの背中を叩く。エイダンは「うむ」と頷いた。

「僕は受けた恩は返す男だからな。――追い出したにも関わらず、雨の中、関所まで来てくれたお前には、借りがある」

「で、でもエイダン様、私……大聖堂、あんなことにしちゃいましたし……、キアーラ大変なんじゃないでしょうか……色々と……」

「心配するな。金なら、魔術師ギルドが竜を買ってくれると言ってくれている」

「そうなんですか?」

「そうだ。人に慣れた竜が全部で10匹もいるからな。置いといてまた暴れても困るし、飼い主の神官と一緒に引き取ってもらうことにした。神殿修理もまかなえそうだぞ」

 エイダンは「はははは」っと笑い声を上げた。
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