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4.元聖女を追い出した元王子が謝罪に来ました。
85.
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外はしとしとと雨が降っていた。頭に被ったフード越しに、頭の上に水滴がぽつぽつ振ってくるのを感じる。水龍のローブは水を完全に弾いてくれるので、全然濡れないから快適だ。
パシャパシャと水の溜まった石畳を関所に向かって小走りで走る。ナターシャさんは水に濡れるのが嫌なのか「関所で待ってる」とすごい速さで先に走って行ってしまった。
……エイダン様とハンナ様がどうしてお二人で関所に……。
私はホッブズさんののお屋敷で見た変わり果てた様子の二人の姿を思い出していた。質素な服に、疲れて痩せた顔――キアーラにいたときに見ていた姿からは想像もできない姿だった。
関所につくと、門番さんとナターシャさんが話し込んでいた。
「夜分遅くに申し訳ありません。夜番をしておりましたら、男女が2人、門の前で騒ぎまして。キアーラの王子と貴族令嬢だと名乗るのですが、通行証も何も持っておりませんし――どうしたものかと思いまして……。身元を証明する者が誰かこの街にいるかと問いましたところ、冒険者ギルドにいるレイラという者の名前を上げましたので、ナターシャさんにご連絡しました」
「連絡ありがとう。この子がレイラだ」
ナターシャさんは私を門番さんの前に押し出した。
「この2人なんですが……」
門番さんは私を関所の横にある(たぶん)門番さんの待機室に連れて行った。
そこには、部屋の隅でびしょびしょに濡れた髪の毛を顔に張り付かせて丸まって座る二人の姿があった。
「ええええ、エイダン様っ? ハンナ様っ?」
ホッブズさんのお屋敷で見た時より、数倍変わり果てている。あの時来ていたのと同じ服はボロボロで泥だらけだし、エイダン様は髭だらけになってるし、ハンナ様も疲れ果てていて唇も紫だし……ぱっと見ただけじゃ誰だかわからなかった……。
ハンナ様は私を認識すると、目に大量の涙を浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
「――来てくれて、ありがとぉぉぉ」
――あまりに泥だらけなので思わず飛びのいて避けると、ハンナ様はそのままドンっと壁に突っ込んだ。
「――ど、どうされたんですか? キアーラにお帰りになったんじゃ」
壁に寄り掛かったままのエイダン様が消え入りそうな声で答えた。
「――途中で、捨てら……れた――国外追放……だそうだ……」
今にも消え入りそうな声で、真っ青な唇はフルフル震えている。
「腕に獣に噛まれた傷がありまして、そちらが化膿しているようで……、一応応急処置はしましたが……」
門番さんは困ったように私とナターシャさんの顔を見た。
「どうしましょう。街に入れてもよろしいでしょうか」
「――レイラが良いなら、アタシが許可を出すよ」
ナターシャさんは私を見た。
「も、もちろんです。早く教会か治療院へ……っ」
私はエイダン様に駆け寄ると、ぐるぐる包帯を巻かれた腕を見た。かなり熱を持っていて、腕全体が熱いのに、他の部分は冷たくなっている。こういうとき満足な回復魔法が使えない自分が嫌になる。
私は胸の前で手を組むと、祈りの言葉を唱えた。回復はできないけど、痛みの緩和はできるはず。
「光の女神様、この者の痛みと苦痛を取り除き、安らかな平穏をもたらし……」
すーっと光がエイダン様を包んでエイダン様は立ち上がった。
「エイダン様ぁぁぁ」
さっきからずっと泣いているハンナ様はエイダン様に駆け寄った。エイダン様は自分の腕をじっと見た。
「これは――痛みがなくなった……?」
「傷は治ってないですからね、あんまり動かないでくださいね。とりあえず、治療院へ」
「後はやっておくから」とナターシャさんが言ってくれたので、私は二人を治療院へ連れて行った。
パシャパシャと水の溜まった石畳を関所に向かって小走りで走る。ナターシャさんは水に濡れるのが嫌なのか「関所で待ってる」とすごい速さで先に走って行ってしまった。
……エイダン様とハンナ様がどうしてお二人で関所に……。
私はホッブズさんののお屋敷で見た変わり果てた様子の二人の姿を思い出していた。質素な服に、疲れて痩せた顔――キアーラにいたときに見ていた姿からは想像もできない姿だった。
関所につくと、門番さんとナターシャさんが話し込んでいた。
「夜分遅くに申し訳ありません。夜番をしておりましたら、男女が2人、門の前で騒ぎまして。キアーラの王子と貴族令嬢だと名乗るのですが、通行証も何も持っておりませんし――どうしたものかと思いまして……。身元を証明する者が誰かこの街にいるかと問いましたところ、冒険者ギルドにいるレイラという者の名前を上げましたので、ナターシャさんにご連絡しました」
「連絡ありがとう。この子がレイラだ」
ナターシャさんは私を門番さんの前に押し出した。
「この2人なんですが……」
門番さんは私を関所の横にある(たぶん)門番さんの待機室に連れて行った。
そこには、部屋の隅でびしょびしょに濡れた髪の毛を顔に張り付かせて丸まって座る二人の姿があった。
「ええええ、エイダン様っ? ハンナ様っ?」
ホッブズさんのお屋敷で見た時より、数倍変わり果てている。あの時来ていたのと同じ服はボロボロで泥だらけだし、エイダン様は髭だらけになってるし、ハンナ様も疲れ果てていて唇も紫だし……ぱっと見ただけじゃ誰だかわからなかった……。
ハンナ様は私を認識すると、目に大量の涙を浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
「――来てくれて、ありがとぉぉぉ」
――あまりに泥だらけなので思わず飛びのいて避けると、ハンナ様はそのままドンっと壁に突っ込んだ。
「――ど、どうされたんですか? キアーラにお帰りになったんじゃ」
壁に寄り掛かったままのエイダン様が消え入りそうな声で答えた。
「――途中で、捨てら……れた――国外追放……だそうだ……」
今にも消え入りそうな声で、真っ青な唇はフルフル震えている。
「腕に獣に噛まれた傷がありまして、そちらが化膿しているようで……、一応応急処置はしましたが……」
門番さんは困ったように私とナターシャさんの顔を見た。
「どうしましょう。街に入れてもよろしいでしょうか」
「――レイラが良いなら、アタシが許可を出すよ」
ナターシャさんは私を見た。
「も、もちろんです。早く教会か治療院へ……っ」
私はエイダン様に駆け寄ると、ぐるぐる包帯を巻かれた腕を見た。かなり熱を持っていて、腕全体が熱いのに、他の部分は冷たくなっている。こういうとき満足な回復魔法が使えない自分が嫌になる。
私は胸の前で手を組むと、祈りの言葉を唱えた。回復はできないけど、痛みの緩和はできるはず。
「光の女神様、この者の痛みと苦痛を取り除き、安らかな平穏をもたらし……」
すーっと光がエイダン様を包んでエイダン様は立ち上がった。
「エイダン様ぁぁぁ」
さっきからずっと泣いているハンナ様はエイダン様に駆け寄った。エイダン様は自分の腕をじっと見た。
「これは――痛みがなくなった……?」
「傷は治ってないですからね、あんまり動かないでくださいね。とりあえず、治療院へ」
「後はやっておくから」とナターシャさんが言ってくれたので、私は二人を治療院へ連れて行った。
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