28 / 185
第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です
三王子が揃いました③
しおりを挟む「わかっているのならいいのですが」
釈然としないが、なんだかそのやり取りが生身というか、同年代なのだと思うと親しみが沸わいてくる。
王子ということに気を取られていたけれど、王子だって一人の人間。
彼らだって、王子だからと決めつけられた視線ばかりは嫌だろう。身分がどうとか窮屈すぎる。
私自身もひっそりしたいからと、何も知らない王子たちのことを嫌厭していたが、王子という肩書きを本人が喜んでいるかどうかは別の話だ。
少なくとも二人は、私が多少無礼を働いて変な行動を取っても、驚きはするが嫌な顔はしなかった。
ルイなんかはあれこれと付き合ってくれており、王子という身分をひけらかすことはなかった。
むしろ、すごく寛容であり、王族としての務めと、個人はできることなら別にしたいと思って名を使い分けていたこともあり、その考え方は私に通じるものがあった。同士意識が芽生えてくる。
なら、少なくともこれも縁なので私は友人として彼らと接しようと思った。
これが真の友情かしら? と頬が緩んでしまう。
ほくほくする気持ちで二人を見ていると、ルイが怪訝な眼差しでそっと私の手を握ってきた。
「エリー。僕は男だよ」
「? ……わかってるけど?」
ついでに王子で、良き友人だ。それはあの日に倒れてから何度も確認したフレーズだ。
握られた手は男のもので、長い指にすべすべな肌は自分のものより少し大きく手のひらは硬い。何を当たり前のことを今更言い出すのかと、大きく目を見開いて彼を見る。
「頭が痛くなってきた。道のりは遠いな」
「熱でもあるの?」
掴まれていない手でルイのおでこの熱を計ろうとすると、なぜかその手はサミュエルに掴まれる。
「おい」
「えっ? 何?」
「……ああ、えっと、そのだな。二人が仲がいいのはわかっているが、あまり気軽に触れるものでもないかと思ってだな」
ぼそぼそと告げられ、意味を理解しようと眉根を寄せてはっとした。
初心を忘れるなかれ、ここがどこかを忘れるなかれ。
親しいルイがいることで少し気が緩んでしまったが、ここは王立学園。
ほとんどの有力貴族たちが通う学園であり、最高クラスはその中でも将来有望な者たちということになる。そんな中でこの状況は抜け駆けだと妬みを買う案件である。
──危なっ! そして、おっそろしぃぃ。
そして、ナイスなサミュエル。
ルイと二人きりだったら、ついつい気づかぬ間に親しい空気を出していたかもしれないと思うと、彼がいてくれて今回ばかりは助かった。
ほっと息を吐く私とは反対に、盛大な溜め息をつき手を離すルイ。
幸せ逃げちゃうよってほど何度も溜め息をついて、やっぱり今日のルイは調子が悪いのかもしれない。
心配だと見つめると、「わかっていたけど、やっぱり先は長そうだ」とまたもや溜め息。そして、やや厳しい面持ちでサミュエルを見た。
「サミュエルも手を離そうか?」
「あ? ああ」
サミュエルはぼんやりとその言葉に返事をしたあと、私と視線が合うとばっと手を離した。その頬はわずかに赤い。
うーむ。女性の手を握っていることにびっくりという感じかな。
武道派という感じだから、女性と話すのは慣れていないのかもしれない。実際、女生徒に捕まり目的もなくだらだらと話すというのを面倒くさそうにしていたし、私たちのところに逃げてきたことから、おべっかとか社交辞令など苦手そうだ。
初対面は怖かったが、そんなところを見ると親しみが沸いて好ましい。
そう思ってくふふっと内心で笑っていると、ルイがこれでもかと言うほどふわふわと美しくほんわかするような笑顔を私に向けた。
「エリー。週末楽しみだね」
「? ええ。そうね」
学園は寮生活。初めての週末は一緒に王都でショッピングしようと約束をしている。
けれども、今なぜそれを言ったのか?
はて、と首を傾げると、ねっと念を押され、楽しみは楽しみだったので私はにこっと笑った。
72
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる