詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です

三王子が揃いました③

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「わかっているのならいいのですが」

 釈然としないが、なんだかそのやり取りが生身というか、同年代なのだと思うと親しみが沸わいてくる。
 王子ということに気を取られていたけれど、王子だって一人の人間。
 彼らだって、王子だからと決めつけられた視線ばかりは嫌だろう。身分がどうとか窮屈すぎる。

 私自身もひっそりしたいからと、何も知らない王子たちのことを嫌厭していたが、王子という肩書きを本人が喜んでいるかどうかは別の話だ。
 少なくとも二人は、私が多少無礼を働いて変な行動を取っても、驚きはするが嫌な顔はしなかった。

 ルイなんかはあれこれと付き合ってくれており、王子という身分をひけらかすことはなかった。
 むしろ、すごく寛容であり、王族としての務めと、個人はできることなら別にしたいと思って名を使い分けていたこともあり、その考え方は私に通じるものがあった。同士意識が芽生えてくる。
 
 なら、少なくともこれも縁なので私は友人として彼らと接しようと思った。
 これが真の友情かしら? と頬が緩んでしまう。
 ほくほくする気持ちで二人を見ていると、ルイが怪訝な眼差しでそっと私の手を握ってきた。

「エリー。僕は男だよ」
「? ……わかってるけど?」

 ついでに王子で、良き友人だ。それはあの日に倒れてから何度も確認したフレーズだ。
 握られた手は男のもので、長い指にすべすべな肌は自分のものより少し大きく手のひらは硬い。何を当たり前のことを今更言い出すのかと、大きく目を見開いて彼を見る。

「頭が痛くなってきた。道のりは遠いな」
「熱でもあるの?」

 掴まれていない手でルイのおでこの熱を計ろうとすると、なぜかその手はサミュエルに掴まれる。

「おい」
「えっ? 何?」
「……ああ、えっと、そのだな。二人が仲がいいのはわかっているが、あまり気軽に触れるものでもないかと思ってだな」

 ぼそぼそと告げられ、意味を理解しようと眉根を寄せてはっとした。
 初心を忘れるなかれ、ここがどこかを忘れるなかれ。

 親しいルイがいることで少し気が緩んでしまったが、ここは王立学園。
 ほとんどの有力貴族たちが通う学園であり、最高クラスはその中でも将来有望な者たちということになる。そんな中でこの状況は抜け駆けだと妬みを買う案件である。

 ──危なっ! そして、おっそろしぃぃ。

 そして、ナイスなサミュエル。
 ルイと二人きりだったら、ついつい気づかぬ間に親しい空気を出していたかもしれないと思うと、彼がいてくれて今回ばかりは助かった。
 
 ほっと息を吐く私とは反対に、盛大な溜め息をつき手を離すルイ。
 幸せ逃げちゃうよってほど何度も溜め息をついて、やっぱり今日のルイは調子が悪いのかもしれない。
 心配だと見つめると、「わかっていたけど、やっぱり先は長そうだ」とまたもや溜め息。そして、やや厳しい面持ちでサミュエルを見た。

「サミュエルも手を離そうか?」
「あ? ああ」

 サミュエルはぼんやりとその言葉に返事をしたあと、私と視線が合うとばっと手を離した。その頬はわずかに赤い。
 うーむ。女性の手を握っていることにびっくりという感じかな。
 武道派という感じだから、女性と話すのは慣れていないのかもしれない。実際、女生徒に捕まり目的もなくだらだらと話すというのを面倒くさそうにしていたし、私たちのところに逃げてきたことから、おべっかとか社交辞令など苦手そうだ。

 初対面は怖かったが、そんなところを見ると親しみが沸いて好ましい。
 そう思ってくふふっと内心で笑っていると、ルイがこれでもかと言うほどふわふわと美しくほんわかするような笑顔を私に向けた。

「エリー。週末楽しみだね」
「? ええ。そうね」

 学園は寮生活。初めての週末は一緒に王都でショッピングしようと約束をしている。
 けれども、今なぜそれを言ったのか?
 はて、と首を傾げると、ねっと念を押され、楽しみは楽しみだったので私はにこっと笑った。


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