詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第一章 新たな始まり

遭遇①

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 木漏れ日が草花を優しく撫で、さわさわと緩い風に小さく揺れる。
 ここは女子寮敷地内。男子寮との間には共同スペースの大きな庭があり、その周辺もぐるりと緑に囲まれる。
 その女子寮側、女生徒が好んで行くこともないだろう離れた一角で響く声。

「こぉの~雌ブ○が~」

 ぷらぷらと下を向きながら歩いていた私は、思わず顔を上げて声のするほうに目を凝らした。

 ──えっ? ここ乙女ゲームの世界じゃなかったっけ?

 思わず、我が耳を疑う。
 何、その低次元のののしり。
 むしろ罵っている人恥ずかしくない? 恥ずかしいよね? ここほぼほぼ貴族が通う学園ですけど?
 違う女性の声が聞こえる。

「先ほどから申し上げておりますが、バシュ様とは一度お話をしただけです」
「白々しい。あなたが媚びたのはわかっているんですからね」
「媚びていませんし、何もしていません」
「なら、なぜバシュ様からあなたの名前が出るのですか?」
「それはわかりません」
「だから、雌ブ○って言っているよっ!」

 どうやら恋愛がらみのいざこざみたいだ。せめて、調子に乗らないでとかさ、近づかないでとかさ、もっと言い方あるじゃない?
 何? そのワードチョイス。

 その勇気ある罵りに乾ぱーいと引き気味になりながら、その剣幕に相手側が心配になる。
 しかもこうして人通りがない場所を選んでのそれは嫌な予感しかしない。
 私自身も少し一人になりたい気持ちと、変わったものが落ちてない(生えてない)かなぁなんてぷらぷらとあえて人目につかない場所を求めてきたのだ。

 ──タイミング悪いよね。

 互いにまだ姿は見えない位置にいるのだけど、なんとなくこそこそと身をかがめてみる。

「あっ、見っけ」

 その際にアロエを発見し、私は目を輝かせた。
 スカートの下にしまってあるナイフを取り出してアロエを素早く採取すると、袋を数個取り出しまた仕舞い込む。
 アロエは食べても湿布薬としても役立つので使いやすくて重宝する。

 すでに持ってきた袋はもちろんのこと、ポケットもパンパンに膨れ上がっていた。しっかり役に立ちそうな薬草は採取済みだ。
 十薬、いわゆるどくだみは、皮膚炎、鼻炎、便秘に効くとされ重宝するし、ヨモギは大体の者が知っているだろう。

 ヒマワリとか、スイカ、米、麦、大豆など、咲く時期、収穫時期が一般的に広く知られているものは、その季節になったら見られるのだが、クコ、アマチャヅルとかこういった薬草は季節や場所に関係なくあちこちに生えている。
 さすがゲームの世界といったところか。それとも魔法が関係しているのか。

 私自身が本来の生育する季節や場所を知らない植物もあるが、明らかに季節混同しているよねというモノや、この世界独自のモノも多数存在し知らないモノも多い。探究心がくすぐられる。
 この薬草取り放題システム(勝手に命名)は、私にとってありがた面白システムだ。

 その中で、この学園でいまだに使い道がわからない『実みたいなモノ』をいくつか拾っていた。
 植物なのだとは思うのだけど、周囲を探せどそれっぽい木はなく、どこから落ちてきたものかわからない。

 実と言い切るには微妙なそれは、最初は新種かと喜んだけれど何度かお目にかかると喜びは減る。
 結局何かわからないまま、なんとなく拾っている。

 どうしても理解できないところにコロリと落っこちていたりするので、私はこれをこの学園の七不思議の一つとしてカウントしていた。
 刻んだり、煮たり、ごりごりしているがさっぱりそれの正体がわからないので、出処や活用方法を知りたいと密かに思っている。

 まあ、七不思議の真実を! というノリみたいな好奇心である。
 この一年間散策したおかげで、学園でのテリトリーはかなり増えた。
 そして、まだまだ散策したいところはたくさんある。学園自体が一つの街と森をくっつけたみたいになっているので、いくら時間があっても足りないくらいだ。

「何か言ったらどうなのよ」
「ですから、先ほどからバシュ様とは何の関係もないと」
「何よ、偉そうに」
「きゃっ」
「かわい子ぶらないで!」

 あ~、まだ揉めている、と私は小さく嘆息した。

 散策がちょっとした息抜きに隠密行動よろしくあちこちに出向いていると、こういう現場もたまに見かける。
 こそこそする人は案外多いのだ。

 やましいことがあるからこそこそするのであって、やってることも陰湿なことが多かったりする。
 だからといって、公開処刑みたいな、わざと人前で恥をかかせる行為も見ていられないが、争う現場を目の当たりにすると気が重くなる。

 今、ここには自分たちだけ。
 彼女の行動がエスカレートするなら止められるのは自分だけである。さすがにこのままスルーするのはいただけない。

 ──確率を呪うべきか、この学園で行われる頻度を嘆くべきなのか、微妙なとこなのよね。

 そう半ば諦めの溜め息をついて、這いつくばるように身を屈めると音を立てないように私は木々の間からそっと覗き込んだ。

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