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第二部 第一章 新たな始まり
遭遇②
しおりを挟む──…ん?……げっ!?
あっ、げっなんて、それだけびっくりしたからなのだが、貴族の娘としてあるまじき言葉だ。
でも、声に出さなかっただけまだマシ。
そんなことよりも、まだ叫び足りない。地団駄踏みたい。
──ちょおっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~!!!!
まさかのまさか。視界の先にはどう対応すべきか決め切れていないあのソフィアがいるではないか。
会話からも身分差があるなとは思っていたけど、罵られていたのが彼女だなんて……。
――やっぱり絶対、呪縛よ。呪縛っ!
私は眉間にしわを寄せながら、彼女たちの様子を盗み見た。
キャラメル色の髪と瞳を持つソフィアは、柔らかな雰囲気を持つ美貌の持ち主だ。
例えるなら、姉のマリアが白薔薇で近づきがたくそれでいて華がある美貌に対し、彼女は優しいピンクの薔薇で愛らしさと親しみやすさがある。
だけど、薔薇は薔薇である。
そこにはしっかり棘があり、その棘に刺されたものは魅了されるか反発する。ソフィアは平民出身だということもあり、人々を惹きつけるとともにその身分に強く当たる者も多い。
そういった苦労のなかで、彼女に寄り添うヒーロー登場というのがソフィアの設定だ。
同じくヒロイン枠のマリアにもライバルは出てきていたが、もともと身分と美貌と実力と人望もあったので、結構簡単にそれらをいなす。
その分、選り取り見取りの令息が登場してくる。選びたい放題設定だ。
なのに、なぜかその中に私も結構な頻度で巻き込まれていた。
──くぅぅ、今、思い出すだけでも苦労の日々よね。
入れ喰い状態であっても、私との時間を優先しようとする姉の対処に苦戦していた頃は、イジメかと思うほど日々大変であった。
今となっては懐かしい話である。特に今生はそっち方面では穏やかで何よりだ。そう思う外ない。
話を戻すが、ソフィアのほうのライバル、つまり悪役令嬢は結構エグいのだ。その分、助けようとする子息も情が厚くなる傾向にあった。
実際、転生を余儀なくされる私は彼女が誰かと結ばれたところは見ていないけれど、いい感じなのではと思う人は何度かいた。
ソフィアの表情を見ると決して理不尽な言いがかりに屈している様子ではないが、身分というものは時に無情である。
立場上、平民出身のソフィアは強く出られないため反撃も弱い。
──うーん、本当にどうしよう……。
怒鳴っている令嬢のスカートをえいってめくっちゃう?
この一年で風魔法の精度も上がったので、それくらい簡単だ。
でも、それをして後でやったのが自分だってバレたら困る。一度それで巻き込まれて散々だったから可能な限り避けたい。
なら、どうすればいいのか。
明らかに言いがかりであるし、この場で私が出れば当然その場は落ち着く。
ただし、その場だけであることは予想がつく。
現在そこそこ有名なエリザベス・テレゼア公爵令嬢が安易に一人の味方をしてはいけない。
自分の今の立ち位置を考えると、この場合ソフィアの負荷が大きい。
それに、ソフィアとどう接していいのかわかっていないのが問題だった。私にとってのソフィアはなんとも微妙な人であった。
だから、現状、彼女と接点を作る気になれない。
別に彼女自身が私に何かするとかでもない。
どちらかというと、彼女と対する位置にいる悪役令嬢に問題がある。でも、それらが十七歳を超えられない理由かと言われればわからない。
だから、彼女に対しては試行錯誤中だ。でも、十七歳を超えられないのは彼女が原因であった。
だって、マリアの呪縛を超えたのに、頭に物がぶつかってぶっ倒れる時は必ずといっていいほどソフィアがいる。
そして、どこか何か言いたげな表情だけが記憶に残るのだ。
──だから、どうしろって?
前生までは自分はモブだと信じきっていたから、主人公クラスの人物とはなるべく接点を持たないようにしてきた。
それでも、何かと目についてしまう。
それはそうだ。相手は主人公なのだから様々なイベントで注目の的であり、見かけることも情報が入ってくることもある。
姉のマリアに対しては親近者であるのでそれゆえの対策をしていたのだが、彼女の場合はとんとわからない。
そして、今みたいなことも多々あった。
今までは彼女が入学してきて最初の一年間は少し関わる程度、次の一年間は二年生も実地体験があるので見かけることもあったが、大した接触はなかった。
だけど、今世もそうあるべきなのか、積極的に接点を作って打開策を見つけていくべきか。
すごく悩む案件だった。そして、悩んだまま今日に至る。
──誰かに相談するわけにもいかないし……。
と思っていての、今である。
遭遇するの早すぎない?
しかも、今日は入学式。初日に遭遇ってどういうこと? 一年生は寮に引っ込んでうきうきそわそわしときなよ、と言いたい。
だから、多少の愚痴は許してほしい。
そして、態度を決めかねているが、見てしまったものは素通りできない。
制服のスカートの下に隠した戦利品を思い浮かべ、助けたいがまだ接点を作る勇気もなくて私はごそごそと制作した。
──よし、これならいいかな。
ガサゴソと音を立てて覗いていたところから、あえて大きな音を立てて二人に近づく。
決して触れられない場所に立つと、私は声を張った。
「何やら物騒な話し合いですね」
そう告げると、「何よっ」と言おうとした罵倒令嬢が目を見開いた。ソフィアも、えっ? とぽかんと口を開けたままこっちを見ている。
多少の反応は覚悟の上だったので、私は素知らぬふりして一歩前に出た。
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