詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第一章 新たな始まり

接触①

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 二人の前に登場した私は若干腰が引けていた。

 ──うわぁ、めっちゃ視線が痛い。逃げたい。

 これ絶対不審者扱いだしと思いながら、出てしまったものは仕方がないと引きかけた腰を戻して堂々と言い切った。

「入学早々、もめるには早すぎないでしょうか? と聞いているのですが」

 喋るたびに顔の周りがピラピラ揺れる。
 私の顔辺りをじっと見つめながら罵倒令嬢も、一歩前に出てきた。おっ、やっぱりあんな罵倒をするぐらいだから好戦的だ。

「……関係ないです。……というか誰ですか? それ、ふざけてます?」
「いいえ。いたって本気です。これは諸事情あってこうしているだけですのでお気になさらず。私のことよりも、今はあなたたちの現状について聞いているのですが」
「あなたには関係ないっ、で、しょ、う」

 語尾が不自然に足される。相手は私がどのような立場かわからないから、一応敬語にしたみたいだ。
 その反応はとてもわかりやすく、身分上等って感じが伝わってくる。
 まあ、育った環境からそのような思想になることはある意味仕方がないのだが、やっぱり顔を隠しておいてよかった。

 私がほっと息を吐くと、相手はじろじろとこちらを検分する。
 制服のカスタマイズ具合でそれなりの身分であると推測しながら、ちょっとふざけた感じだから態度を決めかねているようだ。
 私の制服はシンプルなのだけど、持ち物など細々と姉やカミラに手をかけられている。

 ソフィアもまだ口を少し開けながら、じっとこちらを見つめていた。なぜか、その瞳が熱っぽいと思うのは気のせいか。
 気のせいにしてしまえないほどその視線の熱さは火傷しそうなほどだが、それだけ乱入者に戸惑っているのだろう。

 うんうん。迷って迷って~。
 それこそが目的なのだから。ここまでしておいて、意味をなさなかったらへこむ。

 なぜ、彼女たちがこんな微妙な反応をするかというと、

 ――これはあれです。葉っぱレディ登場です。イェーイ。

 ちょっとヤケだ。顔を覆いかぶさるくらいの葉っぱをツタを使って繋ぎ留め顔を隠し、ピンクの髪は特徴があるのでアップにして帽子を深々と被っております。
 二人が不審に思うのも仕方がなく、自分でも変質者っぽい出で立ちだと思うけれど、誰かわからなければいいということで割り切った。

 そこで私はにこっと笑みを浮かべた。
 相手には見えていないだろうけれど、雰囲気が伝わればいい。

「感心しないですね。お相手の方すごく困っておられますし、現場を見たわけではないのですが言いがかりっぽいですよ? 彼女に当たる前にその男性に確認すれば確かなのでは?」
「……そんな簡単にできる方ではない、の、で……す」
「へえぇ。できないから彼女にあたるんですか?」

 男性の前では自分のことを良く見せておきたいのだろうけれど、好きな男性に嫌われたくなくて裏でやるって性格が悪い。

「あたっているのではなくて、正当な抗議です」
「ふーん。だとしたら、こんなところでしなくても。それにさっきメスなんとかという言葉も聞こえていましたけれど。あれだけ罵れる方が不審者っぽい私に敬語というのは、やはり身分が、学年がわからないからなんですよね? 彼女があなたの身分より下だからそこまで言えるのではないのですか?」

 もちろん嫌味だ。
 身分が高いからといって、すべてが上だと思うべき行動は愚昧だ。話にならない。それありきの、その先というのを知っていかねばならない。
 案の定、図星を指された罵倒令嬢はかっと顔を赤くして否定する。

「違います」
「でしたら、私にもそういった言葉使いでどうぞ。ただし、その後はどうなるかは知りませんけど」

 私何もする気はないけれど、正直その後は知らない。
 正体をバラすつもりはないけれど、バレた時に私よりも周囲を見て震え上がるのはこの令嬢だ。

 なんか、悪いことしていないのに、身分や交友関係を使って脅しているようでこっちが悪役みたいだと苦笑する。
 このような場面でその辺のお嬢様のようにふわふわしたり、物怖じしないのが問題なのか。

 でも、気になったら、そして自分でできることならちゃっちゃと動くほうが早い。誰かが手を差し伸べるのを待ったり、変わりを探していたら不効率だ。
 そんなことを考えていたら、罵倒令嬢がキッと睨みつけてくる。つり上がった目がさらに上がり、毛を逆立てた猫のようだ。

「っ、…そもそもあなたはいったい誰なのですか?」
「誰って、見たまんまですけど」

 私は仕方がないなと相手をする。
 分が悪いと感じたようで、論点をこちらの正体に持ってくることにしたようだ。

「……えっ、そんなおかしな格好で誰かなんてわかりません」
「いえいえ。そのまんま。葉っぱレディです」
「葉っぱ、レディ……」

 言い切ると、罵倒令嬢は戸惑いながらまじまじと私を見た。そして、その横ではふよっと口元を動かすソフィア。
 笑いかけたそれを見てしまい、思ったほどソファイが緊迫していないことに安堵し、そのまま相手をする。

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