詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
87 / 185
第二部 第一章 新たな始まり

接触③

しおりを挟む
 
「ええ。そうしてください。しっかり考えてくださいね。ふふっ。あと、顔、覚えましたからね」

 それでも十分ではないが、ちょっと控えようと思ってくれたらいいことだ。
 何せ、学年も違うし、こういったことにすべて関われるわけではない。

 そこまで責任を持てないので、多少なりとも抑止力的なればいい。
 あとはソフィア自身が頑張るだろうし、彼女を慕う者が守っていくだろう。

「…………っ」
「さようなら」

 言葉もなくびくっと肩を揺らしこちらを見る罵倒令嬢に、さらに不安を煽るように葉っぱ仮面の下で笑う。
 すると、罵倒令嬢が顔を赤くしたり青くしたりして、その場を去っていった。
 まだまだお尻が青いようで、あの感じだとあれ以上のことはできなさそうだ。

 ──なんだかな……。

 親元を離れて、勘違いする者は多い。親の力をそのまま自分の力だと思う者。今までのような監視者がいないと羽目を外す者。
 むしろ、親から離れたからこそ、自分のしたことがそのまま己に返ってくることを考えなければならない。
 今までと同じように守ってもらえないことをわかっていないのだろうか。

 高い身分は強い盾となることは認めよう。だけど、ここはうじゃうじゃと同じような身分、はたまたさらに上の身分や権力がある者もいるのだ。
 それと同時に、魔力の高い者もそれ相応の位置にくることになる。

 少し考えれば、自分がどうたち振る舞うべきかわかると思うのに、わからない者のほうが多い。
 だから、あっちこっちで罵倒令嬢のような者が出てきて、そのうち頭角を現わす悪役令嬢というものが出てくるのだろうけど。

 ──ちょっと、やらかしちゃったかなぁ……。

 不安を胸に、私はちらっとソフィアに視線をやる。
 キャラメル色の瞳は、何か言いたそうにじぃぃ~とこちらを見ている。

 性格上無視はできなかったから後悔はしていないけれど、顔を隠しているとはいえソフィアに関わってしまった。
 私がここに姿を現してからこの含むような視線は私から外されることはなく、罵倒令嬢なんてもうどうでもいいとばかりのその態度はある意味度胸がある。

 ――う~ん、気まずい。

 その瞳は明らかに不審な出で立ちの私に対して、憧れるような好意のようなものを感じる。
 これ以上、接点は作りたくないので、私は彼女にも帰るように促すことにした。

「災難でしたね。言い返すことは難しいとは思いますが、人目につかないところに行くことはお勧めしません。気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
「いいえ。では、これから頑張ってください」
「はい」

 そう伝えると、元気よく返事したソフィアが周囲にふわふわと花が舞うかのよう嬉しそうに笑う。
 その瞬間、風が吹くかのように二人だけの空間ができあがった。

 実際、二人なのだが、この空間の密度が増す。
 葉っぱレディにはもったいないほどの笑顔。やっぱり、主人公なだけあって可愛らしい。男性たちが守りたいと思うのも頷ける。

「では。お気をつけてお戻りください」
「あの、あなたはどうされるのでしょうか?」

 おずおずと尋ねられ、私はゆっくりと瞬きをしてソフィアを見た。
 ぽわっと花が咲くような可愛らしい表情に真っ直ぐな眼差し。
 崇高のようなものすごい好意を惜しげもなく注がれているように感じて、たったこれだけの接触でのそれは過剰にも思え落ち着かない。

「そ、うですね……」
「…………」

 ──……何か、言いたそう……、だよね。

 私と話がしたいのだろうなという雰囲気は伝わってくる。
 この学園では一番下の身分である彼女から、気軽に貴族に話しかけることはできない。だから、それらは言葉にせず雄弁な瞳で語られている。
 でも、私は正体がばれたくないので、しっかり帰ったところを見送ってから戻りたい。

 向けられる眼差しはくすぐったい。そして可愛いと思う。
 立場をわきまえた上での行動は好ましく映り、こちらから手を差し伸べたくなる魅力。さすがソフィア。やっぱりヒロインは違う。
 でも、それは私じゃなくて、どこぞの貴公子がやったらいいことだ。

 自分の運命に彼女が関わっている以上、どう接するべきか気持ちが決まっていないので今日はこのまま退散だ。
 相手が帰らないなら、こちらから動くのみ。

「私はまだ用事があるので先に失礼しますね。くれぐれも気をつけてください」
「……はい。ありがとうございます」

 残念そうに視線が揺れたが、特に引き止めることもなくソフィアは大きく礼をした。私はそれに小さく頷いて、その場をさっさと退散する。
 植え込みから戻るからガサゴソと格好がつかないが、今日の収穫を放置はできない。

 しっかりそれらを手に取り、もう散策する気分でもなくなって寮に帰ることにする。振り返ることはしない。
 ニアミスもいいところだったが、ピンチは脱しただろう。後悔もない。
 一応、遠回りをして周囲に気を遣い、もう少し時間を置いて寮に戻ろうと中庭へと向かい、後悔はないと思ったばかりで後悔した。

「また、何かしてきたのですか?」

 その声とともにすっと現れた人影。嫌な予感に視線を上げ、ぴくりと頬が引きつった。

「…………先ほどぶりですね。ノッジ様」
「ええ。そうですね。エリザベス嬢」

 一難去って、また一難。

 私はおもむろに視線を泳がせた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...