詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第四章 忍び寄る影

前触れ①

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 私が驚き固まっている間に、王子たちは機敏に動く。
 私の状態を見て眉根を寄せながらもほっと息を吐き出し、即座に状況を判断した彼らの動きは見事だった。

「ルイ」
「わかってる」
「任せた」

 シモンがルイの名を呼ぶとルイは言葉とともに頷き、サミュエルがルイの肩を叩く。
 それを合図に一番早く動いたのが、大型動物に乗った双子のジャックとエドガー。
 私を守るように駆けつけると、シモンとユーグとその護衛たちが、黒包帯男と対峙する。
 サミュエルとルイが、転がったままのニコラとマリアへと駆け寄り、彼らの身体を起こした。

「お前、メーストレか。大丈夫か?」
「こっちは大丈夫。それよりもエリザベスちゃんのほう」
「ああ。後ろに下がってろ」

 サミュエルはニコラの拘束を解くと、ちらっと私のほうを見てシモンたちに加勢すべく彼のほうへと行く。

「マリア嬢もご無事ですか?」
「ええ。私は大丈夫ですから、エリーをお願い」
「わかってます。ラングル、彼女をお願いします」
「わかりました」
「頼みましたよ」

 ルイが近くにいたマリアを起こし袋から出し近くにいた護衛に指図すると、すぐに私のところに駆け寄ってきた。

「エリー。心配したよ」

 ジャックとエドガーに袋から出してもらい、大きな動物たちに心配するように、ベロベロ、すりすりと懐かれていた私は、ルイにぎゅっと抱きしめられた。

『キュッ』
『リリン』

 そんなルイに文句を言うように大きな動物は唸ったが、しぶしぶルイに場所を明け渡す。
 その聞き覚えのある鳴き声にもしかしてと思ったが、それどころではない。
 まるで手を離せば消えるのではないかと思うほどの力で抱きしめられ、その苦しさが『今』ここにいる証みたいでほっとする。

「ルイ……」
「エリー。気持ち悪いところとか痛いところはない?」
「ん、大丈夫」
「本当?」
「みんなが来てくれたから。心配かけて、ごめん」

 ルイ、そしてジャックとエドガーに伝えると、彼らはふるふると首を振った。

「当たり前だよ」
「無事でよかった」

 よくよく見ると、双子はスラックスにシャツ一枚と寝衣姿だ。
 王城にいたはずの彼らがどうしてここにやってきたのか疑問であるが、慌てて駆けつけて来てくれたようだ。

「エリー」

 涙目になって訴えてくる双子に同じく涙ぐみそうになっていると、ルイに呼ばれ今度は両頬に手を這わされる。
 そっと触れられた手の冷たさに驚き、見上げた先のエメラルドの瞳に囚われる。

 いつもの優しげな空気は一掃され、じっと私の瞳を覗き込んでいたかと思うと、コツンッと額を合わす。
 ルイはすりっと一度左右に首を振り擦り付けるように動いて、はぁっと息を吐き出した。

「……生きた心地がしない」

 小さな小さな呟きが、吐息とともに私にかかる。
 抱きしめられたルイの腕は震えていて、空気に紛れるようなその呟きの温もりに、私はようやく心の鎧を解いた。

「ルイ……」
「うん」
「……こわかっ、た…」
「うん。よく頑張ったね」

 その言葉が、胸に、落ちた。

「……んっ、こわかった」
「うん」
「こわっ……」
「エリー。もう大丈夫だよ」
「……っ」

 自分でははっきり声を出したつもりであったが、その声は喉に張り付いたように擦れていた。身体は正直だ。
 怖かったと繰り返す私に、瞳を覗き込み大丈夫だと優しく頷きぽんぽんっと背中を叩かれまた抱きしめられる。

 いつの間にか自分より大きくなった手に優しくなだめられ、私は抑えようと思っていた涙が流れ、「ひくっ」っと声が出た。
 自分でも制御できない感情に、くしゃっと顔を歪ませる。

 ルイの、王子たちの姿を見て、助けを確信して、ガチガチに固めて守っていた殻がぺりっと剥がれてしまった。
 今までの法則で頭を強く打たないと死なないとわかっていても、今世は違うことも多く絶対ではない。それに怖いものは怖いのだ。

 圧倒的に不利な状況に体格差。そして未知の力。
 マリアとともに私がさらわれた時に、すでにテレゼア家に伝わる独自の魔力操作で自分たちのピンチは伝えていた。
 一人ではないことで心をもたせていたが、必ず助けがくることはわかっていても、本当はそれまで気が気でなかった。

 まだ、完全に脱したわけではないけれど、拘束は解かれ、マリアもニコラも無事だ。
 張り詰めていたものがじわじわと違うものに変わっていき、身体の強張りがなくなり今度は力が入らずくたりと全身をルイへ預けた。

「エリー!」

 すかさずルイの力強い腕に抱かれる。先ほどよりさらに遠慮なくがっしり抱きしめられ、身体と身体がぴったりとくっつく。
 ルイの優しく爽やかな香りが私を包み込み、トクトクトク、と自分よりも速いルイの心臓の音にほうっと息を吐き出した。

 ルイの温もり、眼差し、ジャックとエドガーの心配そうな瞳。そして、大きな動物が私のそばを離れずそばにいる。
 シモンとサミュエルは私たちに恐怖を与えた黒包帯男と対峙している。
 登場時に心配そうな眼差しを見せたが、私から遠ざけるべく問題と対峙してくれていた。

 マリアがずっとぴとっとくっついてくれたこと。変わらないままいてくれたこと。どれだけ心強かったか。
 心配して探してくれたニコラを巻き込んでしまったが、それぞれが繋がりここにいる。

 『ひとりではない』

 守られている。心配してくれている人がいるだけで強くなれるようだ。
 私は体重を預けたまま、そっとルイの背に手を回した。

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