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黒と獣人奴隷
9.黒髪の少年
しおりを挟む屋敷に戻った私は、たっぷりと両親に怒られるはめになった。
心配をかけさせることをした自覚はあるので肩身が狭く、言われるたびに身を小さくする。
インドラは「私はお嬢様を怒りきれないので」と報告だけして助けてくれず、猫獣人の子供たちのこともあり早々に部屋を出ていった。
「怪しい男たちがいる場所、スキルを得てすぐの魔法発動。少年たちを助けるためとはいえ、どれだけ危険なことかわかっているか?」
「ごめんなさい」
ある程度の確信はあったが、一つ間違えれば危ないとも理解していたので大人しくお叱りを享受した。
一時間、さらに長引きそうだと思ったところで、黒髪の少年が目を覚ましたとの報告で終了となる。
「もう危ないことはしないこと。ただ、数日遅ければ命を落としていた可能性がある子もいると聞いた。彼らの命を救ったのはエレナだ。よくやったね」
「はい」
最後に父に頭を撫でられ、私はぐすりと鼻をすすった。
「誇り高い行いでした。ですが、あなたを心配する私たちのことも考えて。インドラはあなたに忠誠を誓っており、余程の危険がなければあなたの気持を優先するでしょう。ですが、彼女も万能ではない。何かあった場合、彼女が責任を問われることも考えなければいけません」
「わかりました」
母に優しく抱かれながら諭され、その温もりと言われた内容を心に刻み付ける。
私なりにその辺りも考えできると思ったからだが、見張りが二人だけであったこと、追加要員がこなかったことはただ運がよかっただけなのだ。
改めて、母が言うようなことにならなくてよかったと安堵した。
後のことは任せておきなさいと告げる両親に大きく頷き、様子とできれば黒髪の少年からも事情を聴きたいと、両親とともに彼を寝かせている部屋へと向かう。
部屋に入ると、少年は本調子ではなさそうだがベッドの上でクッションに支えられる形で座っていた。
目鼻立ちがはっきりとした少年は、金と黒とオレンジが混ざり合った不思議な色をした瞳をゆっくりとこちらへと向けた。
――おおぉ、美少年!
死に戻り前でも、これほどの美貌は見たことがない。
少年の頃からすでにできあがった造詣は、確実に美しく育つことが見て取れた。
しかも、病み上がりというよりはまだ弱っている段階でこれだ。肌や髪の艶など整ったとき、いったいどこまでのレベルになるのか。
「まあ!」
保護した少年の美貌に、母が感嘆の声を上げた。
私も確かに驚いたが、どちらかというと私は洞窟での異様さを見ているため、彼の双眸に目を奪われる。
弱っていて儚げだが瞳からは生気が溢れ力強さを感じさせるもので、性別関係なく魅了する美しさがあった。
瞳が魅惑的でつい私が見入ってしまったというのもあるが、黒髪少年の視線が私から離れない。ぱちぱちと瞬きをしても、相手はそれすらなく一心に私を見ている。
「あの、大丈夫?」
私が話しかけると、威圧するほどの視線が途端に蕩けだす。
あまりの急変に驚きとともに、全開の信頼を見せられて思わず和む。助けられてよかったなと、改めて嬉しくなった。
「助けていただきありがとうございます。苦しみのなか、あなたに救われました」
「様子がおかしかったけど、今はどうかな?」
「とても楽になりました」
「まだ、しんどさはあるのね……」
楽になったということは、まだ完全ではないのだろう。
眉を寄せると、少年は小さく笑みを浮かべ瞳に穏やかな光を浮かべた。
「あの時は、俺が俺でいられるぎりぎりでした。ですが、おかげで命拾いし俺が俺のままでいることができました。ベッドの上で申し訳ありませんが、このご恩は一生かけて返したいと思います」
ちょっとふらふらしながら、指を合わせて最後に頭を深々と下げる。
黒髪少年の姿勢はいいがかなり無理しているようで、腕がぷるぷると震えている。
「まだ万全じゃないのだから、無理をしないで」
そう伝えても、そういうわけにはいかないとなかなか頭を上げようとしない。
両親に視線で確認してから私は彼のそばに行き、彼の身体をゆっくりと元に戻し顔を覗き込む。
先ほどの言葉通りとても私に恩を感じてくれているようで、少年は嬉しそうに口元を綻ばせながらもじっと私を見つめてくる。
あまりの近さに後ろに下がると、小さく、あっ、と声を上げ悲しそうに眦を下げる。試しに元の位置に戻ると、安堵したように笑みを浮かべた。
――わかりやすい反応。
がりがりに痩せているが、身長は私よりやや大きいくらいだろうか。
年齢もそう変わらないと思われるが、この反応は親鳥を見つけた雛鳥みたいだと微笑ましい気持ちになった。
「そうだ。エレナの言う通り安静にしていなさい」
少年の誠意に、彼を観察していた父が口を開く。
「ですが」
「エレナが君を助けた。君も、君と一緒にいた三人も責任を持って親御さんのもとへと帰そう」
父の言葉に少年は瞼を伏せた。
ふるふると肩を震わせた少年の手を握ると、ぴくっと躊躇うように動く。それからゆっくりと私の手を握り返し、最後はきゅっと力を入れた。
少年は大きく息をつくと、自分の境遇を述べた。
「俺は、――物心ついた時には一人だったので親はいません」
孤児だったのか。
獣人たちは親から離れたところを攫われたと言っていたが、彼には彼を気にかける者がおらず狙われたのかもしれない。
死に戻り前では知らなかった彼の境遇を思えば思うほど、腹立たしくて悔しくて、胸がしくしくする。
私が眉を寄せていると、ぽん、と父親に頭の上に手を置かれた。
「そうか。なら、その後のことはまずは回復してから話し合おう。悪いようにはしない」
「はい。よろしくお願いします」
少年は私の手を強く握ったまま、両親に深々と頭を下げた。
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