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黒と獣人奴隷
10.衝撃の事実
しおりを挟むそれから攫われた経緯や洞窟で何があったのか少年から話を聞くと、両親は事件に対応すべく部屋を出ていった。
私も一緒に出ようとしたが、何やら言いたげにじっと私を見つめる少年に根負けして残ることになった。
「聖女様……」
「ちょっと待って。聖女ではないからそう呼ばないで」
聖女なんて呼ばれ、それを万が一マリアンヌに知られれば彼女は嫉妬するに決まっている。
そういった危険要素は早めに摘んでおかなければとぴしゃりと否定すると、少年はがぁーんとショックを受けた顔をした。
「……俺はあなたの放つ光を覚えています。あのままでは精神を支配され、きっと自我を失っていたはず。あれほどの苦しみから解放してくださったあなたに相応しい呼び方が、ほかにあるのでしょうか」
仰々しい言動に眉をひそめる。
彼の境遇、苦しみは想像でしかないけれど、解放した私にすぐさま心を開くくらいものすごく苦痛だったのだろう。
温かさを感じたと言っているから、終わりの見えない苦痛から突然解放されたことが、彼にとって感銘を受けるほどのことだったのか。
もしくは、今私から離れることでまた元の状態に戻ることを恐れてか。
彼は藁にもすがりたい気持ちなのだと思うと、この必死さも悲しくなった。
――それだけ、一人でずっと頑張ってきたんだよね。
頼る人もおらず、いつまで続くかわからない苦行から見えた光が、私、なのだ。
そう思うとあまり強く言えないが、私にも譲れない理由があるので再度否定する。
「でも、聖女ではないわ」
「……そう、ですか」
しゅんと落ち込む少年の手を掴むと、少年はおずおずと視線を上げた。
温もりに安心するのか、光を湛え縋るような眼差しで見つめられる。私ははぁっと息を吐き、彼としっかりと話すべく瞳をのぞき込み考えを伝える。
「ごめんね。怒っているわけではないの。私はエレナという名前がある。それにあなたを助けられたのは偶然のようなものだし、聖女と呼ばれるのに抵抗があるの。わかってくれる?」
「はい」
「ありがとう」
私は安心させるように微笑んだ。
状況は違うけど私も自由を奪われ、スキルがあるとはいえ命を絶ったことがあるため、少年の気持ちはわかる。
精神支配されかけていたようなので、自分の身体なのに思い通りにならないのなら人によっては死んだ方がマシだと思うくらいのことかもしれない。
あと、今回救えた三人の獣人の子供たちの前にも犠牲になった子たちがいたようで、彼らの命を思うと悔しさとやるせなさは私にだってある。
だから、彼が私に恩義を感じることに関しては否定せず、受け止めようと思った。
今回のことで反省すべきことも多くあるが、それでも助かった命。手を差し伸べたからには、彼らが普通の生活を送れるようになるところまで見守るのが私の役目だ。
「なんとお呼びすればいいでしょうか?」
「エレナでいいわ。七歳よ。そういえば、あなたの名前は?」
「エレナ様。俺は、ベアティ。九歳です」
その名前を聞き、私は目を見張った。
――ああ~、もしかしてもしかしたりする?
私は動揺した。
黒髪の少年、ベアティは死に戻り前の聖女の取り巻きの一人、黒と私が心の中で勝手に呼んでいた人物。
死に戻り前は彼らの顔は靄がかかっていたためわからなかったが、マリアンヌが気に入るくらいの美貌の持ち主であることは知っている。
少年時代からこの整った顔立ちと彼女たちが彼を呼ぶ名前の一致、これは絶対そうだろうと私は頭を抱えたくなった。
「何か気を悪くさせてしまった?」
不安いっぱいに瞳を揺らしこちらを見つめるベアティを前に、私は気を取り直す。
「あっ。ごめんなさい。ほかの子たちの名前も聞いてなかったと思って。あと、様はいらないわ」
これだけの美貌の主に、しかも死に戻り前のマリアンヌのお気に入りに敬称をつけて呼ばれ続けたら、のちのち絡まれる要素が増える気がする。
これも予防策である。
なるべく関わらないように動くつもりではあるが、私がそのつもりでも向こうがどう動くのかわからないので、気づいたものはなるべく遠ざけるに限る。
しかもだ。死に戻り前はベアティ様と紫の殿下をマリアンヌは敬称をつけて呼んでいたので、孤児だと本人は言っているが実は身分が高い人という可能性もある。
両親がいないことは本当のことだろうけれど、彼の今後をどうするかも問題だ。
マリアンヌと紫の殿下がそれをよしとしていたのなら、子爵家子女の私に敬称をつけさせるなんて恐ろしいことなんてできない。
死に戻り前の後悔をなくすために動いたことから、とんでもない繋がりを得てしまった。
できたら彼自身を遠ざけたい。だが、縋るように見つめられると一度手を差し伸べたのは自分だしと、やはり彼の安全が確保されるまでは責任を持つべきだと気持ちを切り替えた。
にこっと笑みを浮かべて大丈夫だと安心させるように左手も重ねると、ほっと彼は安堵の息を吐いた。
それからぎゅっと握る手に力を込められる。
痛くはないが簡単には解けない絶妙な力加減に、彼の必死さが伝わってくる。
私は苦笑し、彼が安心するまで手を握らせることにした。
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