朝焼けの女神

小笠原雅

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朝焼けの女神⑤

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朝焼けの女神、⑤
「契り」ではないセックス

 太郎は文子からのショートメールで住所が届いたのを頼りに、スマートフォンで検索してなんとかナビでたどり着いた。
 そこは築40年50年ぐらいのがっしりした作りのマンションだった。
 簡単な作りのエントランスの前で文子は待ってくれていた。
 三年前よりは痩せたのか腰回りが細くなった気がする。インドの高地は紫外線がキツイのだろう肌もずいぶん焼けている。
 駆け寄ってキスをしたい衝動が出た。
 何をするんだ、文子に結婚した事や、子どもが出来た事を伝えるために此処に来たのに。
 エレベーターがないので階段で三階まで上がった。そのあいだエスニックワンピースに包まれた文子のお尻の肉が太郎の目の前で揺れている。
 彼女は痩せ型で背が高く足の形が綺麗だ。ミニスカートを履かせて街を歩いたが、男達の視線に嫉妬してしまうことがあった。

 階段は角度がきつくやっと文子の部屋につき、文子はドア開をけて笑顔で中に招き入れてくれた。
 玄関に入り直ぐの所でクルッと振り返り、太郎に微笑んで来た。
 自然に太郎の手が文子の肩に手を回そうとしたが文子はしゃがみ自分の靴を揃えている。
 気にもとめず文子はキッチンにトコトコと歩き可愛いエプロンを付けて料理作りに夢中になっている。
「ごめんね。せっかく良い店に誘ってくれたのに、どうも人混みが苦手になってしまって」
 一瞬太郎が描いたラブシーンに気づかずいる文子を見て、こんな感じだから昔の就職先ではしっくりいかなたったのだろうと思わされた。
 文子は1人でつぶやく様に冷蔵庫に向かった。
「なんか休みの日に鳥の煮物が作りたくていっぱい作っちゃったの、誰か食べて欲しいって思ってた時にちょうど良かったわ」
「まさか残飯処理か俺は」
「バカな事言わないでよ、一生懸命作ったのに!まぁあなただとは思って無かったけどね」

「なんだよー悲しいなぁ」

 インドの話しから始めて、2人の思い出の話し最近のヨガのインストラクターの話とかあっという間に時間は過ぎた。
 文子の笑顔は昔のままで、大好きだった笑い声が部屋に響く、知らない世界の文子の様子を知って安心してしまう。

「お土産のワイン開けようか?」
 太郎が聞いた。

 文子は首を振り
「あなたは帰る場所がある、帰らなきゃいけないの、結婚も子どもが出来る事もお祝いが言いたかったのよ。だから呼んだの」

 少し文子は下に視線をずらして。
「あなたの口からそれを聞きたかった。言ってくれないのが悲しいと思った」
 また太郎の目を見て。
「私を抱きたいと思ったなら、それは私の嬉しい事なの。でも私には所有する欲がないの。セックスする事が「契り」じゃないの。尊敬して添い遂げたい人としか一緒に生活していけないの」

 文子は立ち上がり、ワンピースの肩紐を外した。
「でも、昔好きだった人のエネルギーがどんなものだったか知りたいわ、悲しい思いもさせちゃったし今日で許してくれる?」

 文子は盛り上がった乳房に張り付いているワンピースの柔らかい生地の引っ掛かりを外した。
 ブラは付けていない。身体を締め付けるものは付けてない、腰の括れに紐を巻き、女性用のふんどしを付けている。
 長い髪は頭上に括られお団子のように纏めて居る。その髪の毛を縛る紐を外して長い髪を背中に流した。
 文子の女の匂いが太郎の周りを包み圧倒する。
 じっと手をテーブルの上に置いて、握り拳を作って、固まっている太郎の、側に立ち。頭を抱く様に引き寄せた。
 髪を撫で下ろしながら、
「ありがとう」って文子はつぶやいた。
 抱き寄せられたまま太郎は考えている。

 探しに行く事も出来ただろう。
 連れて帰る努力もしなかった。
 絵葉書で「探さないで」と、
 一言書いて送られてたきり連絡も無い。
 ただ、絵葉書には住所が書いてあった。
 行こうと思えば行けたはずなのに。
 太郎の中ではせっかく居場所を見つけた文子を連れて都会に連れて帰る気がしなかった。

「お世話をしてた導師が[おまえの国に帰れって]いうの!不思議に思っていたら、その3日後に交通事故で死んだわ。
 日本に帰る事になって、一緒にお世話したシスター達と別れた時、太郎に感謝の言葉を伝えて無かったと思い出したの、良かったわこうして会えて嬉しいね、ありがとう」

 太郎は泣いた。
 文子を待てない自分を、文子を裏切ってしまったと思って苦しかった。
 今文子は何をして居るのだろうと思うと眠れない日があんなに続いたのに。
 ただ時間の流れに揉まれて心の大事な事まで流してしまった気がする。

 泣いてる太郎の口に文子は乳房を持ち上げて口に含ませた。
 優しく後頭部を撫でながら頭を胸に押しつけている。太郎の空いている手を取って、添える様に片方の乳房に運び、自由にさせている。
 太郎は少し落ち着き舌を這わせて胸の先端を舐める。胸の谷間に流れる文子の汗の匂いを嗅ぎ、興奮している息遣いに変わっていく。
 優しく笑い、太郎から少し離れて女ふんどしの紐をほどき、太郎をまたぐ様に椅子に座った。
 細かくキスをした。
 おでこに頬にくちびるに。
 太郎はきゅうくつになりながらカッターシャツを脱ごうとボタンを外している。
 
 文子はおでこを太郎のおでこに当てて太郎のくちびるの先を舐めている。
 太郎はYシャツを脱いで上半身裸になった。その肌を文子が背中から首に撫で上げる様に触れている。
 背中にゾクゾクと快感が走る、ググっと背中を伸ばしたくなるような快感の塊が背骨を登ろうとしている。
 文子は優しい笑顔で楽しんでいる。
 この人にとってはこれも聖なるアーサナの一つなのだろうか?
 指を少し曲げて口元にあてて恥じらいながら快感に夢中になっている文子はいない。
 男の征服欲望を横に置いておけばこれほど良い女は居ない。
 三年という時間はこの女を熟成させたのか?
 太郎は一度文子を立たせて胸を揉んだ。そのあいだにズボンを下ろしシンボルを剥き出しにした。
 太郎をもう一度イスに座らせて、文子は優しくシンボルに手を当てて自分の中に導く様に角度を合わせた。
 椅子ごと抱きしめる様に、太郎の腰の上に乗りかかり、自分の中に深く導いた。
 2人同時に深い息をして喜びあっている事を確かめ合った。
 そこには太郎の知らない文子の女があった。蛇のようにゆっくり動く甘い腰使い、女芯の通り道は潤って温かい物で包まれた幸せな締め付けがある。
 太郎の太ももを大きく広げさせて、女芯の突起を太郎の恥骨に押し当てる様に前後に動くと、可愛い声が耳元で聴こえて我慢ならないほど興奮してしまう。
 ゆっくりゆっくり文子が動く。
 そのあいだ中もキスを繰り返して、太郎の歯並びに合わせて舌で優しく刺激してくる。
 文子の腰使いはますます激しくなっている。
 太郎はお尻に手を添えてシンボルが抜けない様に抱えた。
 こんな感じになるとは思わなかった。
ゴム無しで挿れてる、そのまま出してしまうと新婚の生活が壊れてしまう。
 嫁の親戚には太郎の務める会社の重役がいる。奥さんの顔がよぎった。

 その時文子は太郎の腰から降りて手でシンボルをこすり出した。
 先端をくわえて舌先を裏筋に当てて舐めあげる。安心した太郎はその快感のまま射精した。

 太郎はえたいのしれない気持ち良さを味わっていた。
 詰まっていたエネルギーが抜ける感覚が頭頂にある。
 妻が出産する事から始まる不満や、頼られる事からくるストレスを、文子に抜いて貰った気がする。
 
「あなたは帰らなければいけないよ。あなたの愛してるものが何かわかったわ。ありがとう。今日は来てくれて」
 太郎が身支度をしてるあいだも優しく手伝ってあげて。手土産に酢で付けた野菜を手渡した。
 その間、身体に何も付けず文子は太郎を玄関まで送った。

 ドアノブに手をかけて笑顔の太郎を見送りながら文子は思った。
 導師の言葉で都会の生活に戻った。お慕いした導師を亡くした寂しさを埋めるために日本に慣れようとしているのに気持ちは晴れない。
 仲の良かったシスター達はどうしているのかと気にかかる。
 気持ちにケジメを付けるために太郎と会ったのだが、他の女の夫となったことを実感すると寂しさが文子を苦しめている。

 日本のインストラクターとの違和感は消えない。インド帰りはブランドになっているがヨガの本質を知りたかっただけでそれが目的では無い。
 

 尊師が言った言葉を思い出す。
「フミ、おまえは若くて美しい。優しい笑顔を失うのは悲しいが、おまえはおまえの国に帰らなきゃいけないよ。お導きはそのうちあるだろう。知らない男に会いなさい。おまえの人生を作る人に会うのだ。
 そう私の夢にお告げがあったのだ」
「尊師私を捨てないで下さい。尊師に添わせて頂ける場所が私の住む国です」
「フミ、良い心だ。でも大きな力で人は動くのだ、運命は人の心も押し流すよ。あるがままに行きなさい」
 その3日後に尊師は大きな町にヨガの指導で呼ばれ街を移動する時に、強引な運転のトラックにはねられ頭の打ちどころが悪くそのまま眠る様に神々の所に行ってしまったのだ。

 大勢の弟子とシスター達はばらばらになり文子は父親に連絡を取って日本に帰る事にした。
 
 帰って来たのは尊師が夢を見たからだ。本当ならそのままインドで仲間達とコロニーを維持出来ていたかもしれない。

 都会から離れて自然の中で瞑想をしたい、そんな時に知り合いのプライベートなビーチのあるペンションを紹介されたのだ


 文子は浅い眠りの中でハッとした。
ここは新幹線駅近くのホテルのベットの中だ。その部屋に響き渡る声があった。

「知らない男に会いなさい。おまえの人生を作る人に会うのかもしれないよ。
 そう私の夢にお告げのような物があったのだ」

 尊師私は神に会いました。

 窓に目を向けると日は高く遠くのお城は輝くように見えている。
 明るい明日はきっと来る。心が真っ直ぐで有ればそこに。
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