上 下
125 / 179
試練の塔

空を自由に

しおりを挟む
「空なんてどうやって飛ぶのよ!!」

「飛びたいと念じてみて下さい、えいって」

 半信半疑ながらも、ラミッタは空を飛ぶイメージを持ち、魔力を込めてみる。

「って、うわぁ!?」

 ラミッタの体が1メートルほどスゥーッと空へ浮いてフワフワ漂っていた。

「なっ!?」

 マルクエンは驚いて言葉を失っていたが、我に返るとこう言った。

「ず、ずるいぞラミッタ!! 私も空を飛んでみたい!!」

「ずるいって言われても……」

 ラミッタは困惑しながらも更に高度を上げる。

「女神様!! 私も空を自由に飛びたいのですが!!」

 目をキラキラと輝かせながら言うマルクエンに、女神は残念そうな顔して答えた。

「マルクエンさんは、空を飛ぶ適性がありませんね。代わりに覚醒した際の力は、今のところ普段の数十倍。慣れれば数百倍程になります」

「私こそ宿敵の能力の方が欲しいわ!!」

「困りましたね。人間は何故人の物を欲しがるのでしょうか……」

 女神が苦笑しながら言う。

「あなた方は、自分に無い物を互いに補い合うのです」

「補い合う……、か」

 マルクエンは小さく呟いた。

「さぁ、行きなさい勇者と成りし人の子よ!! 魔王を倒すのです!!」

 そう言って女神の姿はスゥーッと薄くなり、消える。

「だいぶ分かってきたわ」

 そんな事を言いながらラミッタは空を左右にフワフワ飛ぶ。

「やっぱり、羨ましいぞ!! 空を飛べるの!!」

 悔しそうなマルクエンを見て得意げに笑うラミッタ。

「それじゃ、私はこの窓から帰るから、宿敵は頑張って階段ね」

「大丈夫なのか?」

 地上がはるか彼方に見えるので、マルクエンは流石に心配する。

「大丈夫、平気よ!!」

 フワフワと窓の外へ飛ぶラミッタは、ゆっくりと地上に降りていった。

「やっぱりずるい!!!」

 マルクエンは来た道を全力疾走して帰っていく。

 途中の雪原や草原が普通の部屋になっており、階段を降りれば良いだけなのが救いだったが。




「遅いわよ、宿敵」

 塔の外ではラミッタと、勇者パーティーが待っていた。

「マルクエンさんも到着しましたか」

 勇者マスカルがマルクエンを見て言う。

 塔の中では、長い時間を過ごしたように感じていたが、外の太陽の傾きはそれほど変わっていなかった。

「お待たせしました」

「ラミッタさんが空から降りてきた時は、何事かと思いましたが、ご無事でなにより」

 魔道士の女、アレラが少し笑いながら言う。

 勇者マスカルは少しの悔しさを胸に秘めて、名残惜しそうに試練の塔を見る。

「そう言えば、魔人はどうなりましたか?」

「えぇ、お二人が塔へ入ると同時に鐘が鳴り響き、退散していきました」

「そんな事が……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イケメン俳優パパ 『生田 蓮』に恋をして――。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,270pt お気に入り:38

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:5,151pt お気に入り:2,426

錬金術師始めました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:399pt お気に入り:1

婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,855pt お気に入り:1,988

そのスペックでよく婚約破棄しようと思ったな

恋愛 / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:4

[完結]婚約破棄されたわたしは、新世界に出航します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:21

処理中です...