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ー13ー 弱虫なぼく
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瞬間、頭を殴られたような、そんな衝撃がぼくの全身を襲った。ショック、とかそれよりももっときつくて苦しいものだ。
「……う、うん……、そうだよね……」
胸がつぶれて、ゴミが詰まってしまったように、息がしづらい。
「教えたほうがよかった?」
「………あ、……うん。ーー知りたかった、かな……」
震えてくる声が情けなくて、ぼくは拳をギュッと握る。あーー、涙がこらえきれない、どうしよう……。
「ーー実律達は、3人で仲良くやってるのに?」
「えっ……」
不機嫌な言い方に、ぼくは呆然となる。しばらくの間、目を見開いたままかたまってしまった。
キュッ。
信号が赤だ。景君は停まるときも丁寧で、父さんみたいに変な揺れがない。それでも沈んだシートから抜け出せないような、身体にかかってくる圧迫感に、ぼくは動くことができない。
ーー景君は優しい。いつだって、どんなときでも優しいーー。怒ることなんか滅多にないーー。
その景君が、いまは不機嫌だ。何かぼくがしたから怒ってしまったんだ。
「ーー景君……」
「………ごめん」
ゆっくりと走りだした車が、見慣れた場所を通る。葉がすべて落ちてしまったイチョウ並木、ここもランニングできたことがある。
……1ヶ月毎にコースを変えて、「今度はどこを走ろうか」ってふたりで話し合ってーー、景君は5キロ走りたいのに、ぼくが遅いから3キロで我慢してくれてーー………。
「景君……」
「ーーー何?」
「景君は……ぼくのこと、ーーー嫌い?」
「え?」
ポタっ、と涙が落ちた。
落ちてしまったら、次から次へとあふれてしまって、涙がとまらなくなってしまう。ーーボロボロボロボロ勝手に落ちないでよーーーッ。景君が、ーー困ってるーー、困ってるじゃないかっ!
「……うっ、ぐすっ……」
ああ、ばかなぼく。弱っちくて、情けなくて、頼りないし、ーーもう全部がダメだよーーー!
「………はぁ」
小さなため息が聞こえる。怒らせて、あきれられて、もう……終わりだ。
ぼくが終わらせてしまったんだーーー。
車は停まることなく走り続ける。ぼくが泣きやまないから家に帰れないんだよね?ごめんね、景君ーー……。
「ーー実律」
景君が凛とした声でぼくの名前を呼んだ。力強い声に、ぼくはハッと顔をあげる。その拍子にメガネについていた水滴が、ポタッとズボンの上に流れてしまった。
ーーかなり泣いてたんだ、……恥ずかしい……。
メガネをはずして鼻をすすっていると、景君がティッシュの箱を差し出してくれる。ーー優しい、何もかもが優しい景君を怒らせてしまうなんて、ぼくってひと的に大丈夫かな……。
「ごめんね……」
何が悪かったのかはわからないけど、絶対に原因はぼくだ。とりあえず謝る、ってつもりはないけど、ふたりきりの車の中、気まずい思いをしたままでいるのはつらいよ……。
「ーー寒いだろうけど、暖房下げるから」
「え?ーー……」
景君は後部座席からブランケットを取って、ぼくにかける。それは、ふわっと景君の匂いがして、思わず強く握りしめてしまった。
拭いたメガネをかけ、フロントガラス越しにまわりを見てみる。だけど、ぼくにはまったく心当たりがない、はじめて見る場所、だよね?
どこかの公園だと思うんだけど、その駐車場のすぐ横に花壇があって、薄暗い中なのにひとがたくさん歩いている。
「……?」
車の時計を見ると4時50分を表示していた。暗くなるのが早い時期だけど、まだ5時前だーー……。
戸惑うぼくの隣りで、景君がスマホを操作しだした。何もいわずに彼の行動をじっと見る。じっと見ているだけでも、ぼくは景君のことが大好きって、ハートが主張してくる。
迷惑でも、嫌われても、やっぱり好きーー……。
ーー穏やかな声が好き、優しい性格も好き、面倒見がいいところも好き、がんばりやなのにそこを見せないところも好き、勝負にはこだわるところも好き、ーー切れ長のきれいな目も好き、高い鼻も好き…、右の端が少しあがった唇も好きーー、ううん、顔がカッコいいところも含めて、全部が大好きーーー……。
「ーー深山の作詞で、動画用の曲をつくってる」
「……景君が?」
「戸隠には頼れないしな……、倉内は話にならないし……。ーー深山の歌だけど、俺も、共感するところがあるから……」
「共感……」
「ギターしかはいってないし、俺の声で悪いけど……、聴いてくれるか?」
「ーーう、うん」
「『あたしのトリセツ』だってーー」
軽快なイントロがスマホから流れてきた。景君の赤いギターの音だ。流れるように弾いているのに、クリアな音色ーー、久しぶりに聴けてすごくうれしいな……。
「……う、うん……、そうだよね……」
胸がつぶれて、ゴミが詰まってしまったように、息がしづらい。
「教えたほうがよかった?」
「………あ、……うん。ーー知りたかった、かな……」
震えてくる声が情けなくて、ぼくは拳をギュッと握る。あーー、涙がこらえきれない、どうしよう……。
「ーー実律達は、3人で仲良くやってるのに?」
「えっ……」
不機嫌な言い方に、ぼくは呆然となる。しばらくの間、目を見開いたままかたまってしまった。
キュッ。
信号が赤だ。景君は停まるときも丁寧で、父さんみたいに変な揺れがない。それでも沈んだシートから抜け出せないような、身体にかかってくる圧迫感に、ぼくは動くことができない。
ーー景君は優しい。いつだって、どんなときでも優しいーー。怒ることなんか滅多にないーー。
その景君が、いまは不機嫌だ。何かぼくがしたから怒ってしまったんだ。
「ーー景君……」
「………ごめん」
ゆっくりと走りだした車が、見慣れた場所を通る。葉がすべて落ちてしまったイチョウ並木、ここもランニングできたことがある。
……1ヶ月毎にコースを変えて、「今度はどこを走ろうか」ってふたりで話し合ってーー、景君は5キロ走りたいのに、ぼくが遅いから3キロで我慢してくれてーー………。
「景君……」
「ーーー何?」
「景君は……ぼくのこと、ーーー嫌い?」
「え?」
ポタっ、と涙が落ちた。
落ちてしまったら、次から次へとあふれてしまって、涙がとまらなくなってしまう。ーーボロボロボロボロ勝手に落ちないでよーーーッ。景君が、ーー困ってるーー、困ってるじゃないかっ!
「……うっ、ぐすっ……」
ああ、ばかなぼく。弱っちくて、情けなくて、頼りないし、ーーもう全部がダメだよーーー!
「………はぁ」
小さなため息が聞こえる。怒らせて、あきれられて、もう……終わりだ。
ぼくが終わらせてしまったんだーーー。
車は停まることなく走り続ける。ぼくが泣きやまないから家に帰れないんだよね?ごめんね、景君ーー……。
「ーー実律」
景君が凛とした声でぼくの名前を呼んだ。力強い声に、ぼくはハッと顔をあげる。その拍子にメガネについていた水滴が、ポタッとズボンの上に流れてしまった。
ーーかなり泣いてたんだ、……恥ずかしい……。
メガネをはずして鼻をすすっていると、景君がティッシュの箱を差し出してくれる。ーー優しい、何もかもが優しい景君を怒らせてしまうなんて、ぼくってひと的に大丈夫かな……。
「ごめんね……」
何が悪かったのかはわからないけど、絶対に原因はぼくだ。とりあえず謝る、ってつもりはないけど、ふたりきりの車の中、気まずい思いをしたままでいるのはつらいよ……。
「ーー寒いだろうけど、暖房下げるから」
「え?ーー……」
景君は後部座席からブランケットを取って、ぼくにかける。それは、ふわっと景君の匂いがして、思わず強く握りしめてしまった。
拭いたメガネをかけ、フロントガラス越しにまわりを見てみる。だけど、ぼくにはまったく心当たりがない、はじめて見る場所、だよね?
どこかの公園だと思うんだけど、その駐車場のすぐ横に花壇があって、薄暗い中なのにひとがたくさん歩いている。
「……?」
車の時計を見ると4時50分を表示していた。暗くなるのが早い時期だけど、まだ5時前だーー……。
戸惑うぼくの隣りで、景君がスマホを操作しだした。何もいわずに彼の行動をじっと見る。じっと見ているだけでも、ぼくは景君のことが大好きって、ハートが主張してくる。
迷惑でも、嫌われても、やっぱり好きーー……。
ーー穏やかな声が好き、優しい性格も好き、面倒見がいいところも好き、がんばりやなのにそこを見せないところも好き、勝負にはこだわるところも好き、ーー切れ長のきれいな目も好き、高い鼻も好き…、右の端が少しあがった唇も好きーー、ううん、顔がカッコいいところも含めて、全部が大好きーーー……。
「ーー深山の作詞で、動画用の曲をつくってる」
「……景君が?」
「戸隠には頼れないしな……、倉内は話にならないし……。ーー深山の歌だけど、俺も、共感するところがあるから……」
「共感……」
「ギターしかはいってないし、俺の声で悪いけど……、聴いてくれるか?」
「ーーう、うん」
「『あたしのトリセツ』だってーー」
軽快なイントロがスマホから流れてきた。景君の赤いギターの音だ。流れるように弾いているのに、クリアな音色ーー、久しぶりに聴けてすごくうれしいな……。
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