クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡

濃子

文字の大きさ
13 / 29

ー13ー 弱虫なぼく

しおりを挟む
 瞬間、頭を殴られたような、そんな衝撃がぼくの全身を襲った。ショック、とかそれよりももっときつくて苦しいものだ。

「……う、うん……、そうだよね……」
 胸がつぶれて、ゴミが詰まってしまったように、息がしづらい。
「教えたほうがよかった?」
「………あ、……うん。ーー知りたかった、かな……」
 震えてくる声が情けなくて、ぼくは拳をギュッと握る。あーー、涙がこらえきれない、どうしよう……。


「ーー実律達は、3人で仲良くやってるのに?」
「えっ……」

 不機嫌な言い方に、ぼくは呆然となる。しばらくの間、目を見開いたままかたまってしまった。


 キュッ。

 信号が赤だ。景君は停まるときも丁寧で、父さんみたいに変な揺れがない。それでも沈んだシートから抜け出せないような、身体にかかってくる圧迫感に、ぼくは動くことができない。


 ーー景君は優しい。いつだって、どんなときでも優しいーー。怒ることなんか滅多にないーー。




 その景君が、いまは不機嫌だ。何かぼくがしたから怒ってしまったんだ。

「ーー景君……」
「………ごめん」
 ゆっくりと走りだした車が、見慣れた場所を通る。葉がすべて落ちてしまったイチョウ並木、ここもランニングできたことがある。

 ……1ヶ月毎にコースを変えて、「今度はどこを走ろうか」ってふたりで話し合ってーー、景君は5キロ走りたいのに、ぼくが遅いから3キロで我慢してくれてーー………。


「景君……」
「ーーー何?」
「景君は……ぼくのこと、ーーー嫌い?」
「え?」

 ポタっ、と涙が落ちた。




 落ちてしまったら、次から次へとあふれてしまって、涙がとまらなくなってしまう。ーーボロボロボロボロ勝手に落ちないでよーーーッ。景君が、ーー困ってるーー、困ってるじゃないかっ!



「……うっ、ぐすっ……」
 ああ、ばかなぼく。弱っちくて、情けなくて、頼りないし、ーーもう全部がダメだよーーー!

「………はぁ」
 小さなため息が聞こえる。怒らせて、あきれられて、もう……終わりだ。

 ぼくが終わらせてしまったんだーーー。





 車は停まることなく走り続ける。ぼくが泣きやまないから家に帰れないんだよね?ごめんね、景君ーー……。









「ーー実律」
 景君が凛とした声でぼくの名前を呼んだ。力強い声に、ぼくはハッと顔をあげる。その拍子にメガネについていた水滴が、ポタッとズボンの上に流れてしまった。

 ーーかなり泣いてたんだ、……恥ずかしい……。

 メガネをはずして鼻をすすっていると、景君がティッシュの箱を差し出してくれる。ーー優しい、何もかもが優しい景君を怒らせてしまうなんて、ぼくってひと的に大丈夫かな……。

「ごめんね……」
 何が悪かったのかはわからないけど、絶対に原因はぼくだ。とりあえず謝る、ってつもりはないけど、ふたりきりの車の中、気まずい思いをしたままでいるのはつらいよ……。

「ーー寒いだろうけど、暖房下げるから」
「え?ーー……」
 景君は後部座席からブランケットを取って、ぼくにかける。それは、ふわっと景君の匂いがして、思わず強く握りしめてしまった。


 拭いたメガネをかけ、フロントガラス越しにまわりを見てみる。だけど、ぼくにはまったく心当たりがない、はじめて見る場所、だよね?

 どこかの公園だと思うんだけど、その駐車場のすぐ横に花壇があって、薄暗い中なのにひとがたくさん歩いている。


「……?」
 車の時計を見ると4時50分を表示していた。暗くなるのが早い時期だけど、まだ5時前だーー……。

 戸惑うぼくの隣りで、景君がスマホを操作しだした。何もいわずに彼の行動をじっと見る。じっと見ているだけでも、ぼくは景君のことが大好きって、ハートが主張してくる。

 迷惑でも、嫌われても、やっぱり好きーー……。


 ーー穏やかな声が好き、優しい性格も好き、面倒見がいいところも好き、がんばりやなのにそこを見せないところも好き、勝負にはこだわるところも好き、ーー切れ長のきれいな目も好き、高い鼻も好き…、右の端が少しあがった唇も好きーー、ううん、顔がカッコいいところも含めて、全部が大好きーーー……。

 
「ーー深山の作詞で、動画用の曲をつくってる」
「……景君が?」
「戸隠には頼れないしな……、倉内は話にならないし……。ーー深山の歌だけど、俺も、共感するところがあるから……」
「共感……」
「ギターしかはいってないし、俺の声で悪いけど……、聴いてくれるか?」
「ーーう、うん」
「『あたしのトリセツ』だってーー」

 軽快なイントロがスマホから流れてきた。景君の赤いギターの音だ。流れるように弾いているのに、クリアな音色ーー、久しぶりに聴けてすごくうれしいな……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...