28 / 179
1章
28 プレイヤーという選択肢
しおりを挟む
「ケンちゃん、あなたもプレイヤーになる?」
プレイヤー……とは?
きっと、この「ハウス」でお客さんを相手にプレイをするシュナやワイラー、バーニーのような人たちのことをそう呼ぶのだろう。
健介は色子呼ばわりをずっとしていて、少し申し訳ない気持ちになる。彼らの本業は性的なサービスではなく、あくまでダイナミクスのストレスを解消するためのプレイなのだから。
ただ、ゾイの質問の意図がわからない。何故にその「プレイヤー」に健介がなるかどうかを聞かれるのか。
「あの、えっと……?」
イエスかノーかを答える前にその意図を知りたい。
「えぇ? そんな不思議そうなお顔をしないでよ。あなたSubなんでしょう。プレイヤーになったら定期的にダイナミクスのストレスの発散も出来るし、お賃金もいまに比べたら随分良くなるのよ?」
おちんぎん。
給料については今だって下男にしては勿体無いのではないかというほどにいただいている。何度も言うが、家賃もかからない、食費もほぼかからないので、支払われた給与は貯まる一方で使い道もない。いつかはここの下男を辞める日が来るとしても、それが明日……とかでないなら、全く問題ない。
それにたとえ健介が「はい! プレイヤーになります」と意気込んだところで、客がつくとも思えない。ここで働くみんなは体格も良く、見た目も美しく、振る舞いも洗練されている。そもそも給与体系はよくわからないが、ゾイがお給料が良くなると言っても、歩合制なら客が付かなければ、変わらない。たとえ客が付かなくっても、いくらかプレイヤーとしての固定給がもらえるなら、それはそれで客も付かない自分に支払われるのは申し訳ない気持ちになる。
みんなが待機しているサロンで、一人また一人とプレイルームに消えていくのを毎日居残ってただただ見送るのは「お前はお呼び出ない」と言われ続けるようできっと悲しいだろう。
それに、人生初めてのプレイではあったものの、リアンとしたような行為を見知らぬだれかとすることが自分にできるのか、というとそれも難しそうだった。
こんなにいろいろな言い訳……というか理由をあげなくても、健介は自分にプレイヤーが勤まるとは思えなかった。
「いえ、いまのままで大丈夫です」
「そう?」
ゾイを見ると、勿体ないというように残念そうな顔で健介を見てくる。
そもそも、プレイヤーは足りているようなことを先ほどはウンシアに言ってはいなかっただろうか。いや、それはDomの方だけなのか。
まあ、どちらにしても、ゾイがいくら残念に思おうが健介には全く惜しくはなかったのだからこれでいいのだ。
「はい。これからもお掃除とお洗濯を頑張ります」
プレイヤーを断ったことで下男としても雇止めにあってはことだと、これからもここで仕事をする意気込みを伝えておく。
「わかったわ」
ゾイはその場で両手をぱちんと胸の前で鳴らして、「じゃあ、お洗濯はケンちゃんに教えてもらって、お部屋のお掃除指南は申し訳ないけどワイラーにお願いすることにしようかしら」と言った。
「じゃあ、ワイラー呼んでくるね!」
シュナは誰の指示も返事も待たず、一目散に部屋から出ていく。
「ちょ、待ちなさい。シュナ! もう!」
ゾイの叫びも空しく、シュナはもう部屋にいない。
「とりあえず、書類を整えるからちょっと待っててくれる?」
ウンシアに向かって言うと、ゾイは再び執務机の前に座った。残された健介とウンシアはどうしたものかと見つめ合う。
くぅー……。
突然、自分の腹から情けない音がして、健介は咄嗟に腹を両手で抑えた。その様子を見て、目の前のウンシアはくすくすと笑う。
仕方がないではないか。昨日の朝ごはん以降、何も食事を取っていないのだ。朝帰ってから、洗濯の様子を確認して、少し作業をしたら朝食を取ろうと思っていた。それなのに、このような事態になってしまい、その朝食もまだ食べられていない。
窓を見ると、入ってくる日の光はまだ朝日のようだ。ウンシアも随分早い時間からゾイを訪ねてきたものである。ただ、ハウスは午前中が一番落ち着いているのは確かだ。一番忙しいのはもちろん夜だが、早い客は昼過ぎには来る。だが、午前中から来る客はほぼいない。通常は夜通しの客が帰ったあとは、客が一時的にいない時間帯になる。みんなは休憩したり、食事をとったりと、空き時間となるのだ。逆に健介にとってはメインの仕事時間だ。
どのくらいの時間が経ったがわからないが、早いところ食堂に行かなくては朝食を食べ損ねる。それはさすがに少しつらい。それに、早く仕事に戻らなくてはワイラーに任せきりなのも申し訳なかった。
「お腹減ったんですか?」
聞かなくてもわかるだろうに、小さな声でウンシアが尋ねる。
「う、うん」
「さっきも言いましたが、会えてうれしいです」
「う、うん」
気まずい。
いつまでここにいなくてはいけないのか、自分はもうこの部屋を出て行ってもいいのではないかと考えるが、そうゾイに尋ねるために声をかけることは健介には難しかった。
元の世界で社畜をしていたころ、何かをやっている同僚や上司に声をかけては罵倒されていた記憶が身体に染みついてしまっているのだ。
邪魔をしないように、気配を消して待っていることしかできない。そう思っていたのに、ウンシアが「ゾイさん、あとどのくらいかかりますか?」と声をかけた。
(新人んん!!)
温和なゾイが怒るとは思わないが、新参者がそんな急かすようなことをいうなんて、「どうかしている」と健介は思う。
「もうちょっとよ、どうかした?」
「おじさ……」
「大丈夫です! 待ってます」
ウンシアを遮って、健介はいつになく大きな声を上げた。
「そう?」
「はい!」
ウンシアは「お腹減ってるんでしょ?」と小声で言って、怪訝な顔で健介を見つめる。
放っておいてほしい。自分の腹の虫など、鳴かせておけばいいのだ。
「いいから」と小声で返して、そわそわとゾイの方を見やる。書類を見ており、こちらのことは気づいていないようだったことにほっと一安心した。
プレイヤー……とは?
きっと、この「ハウス」でお客さんを相手にプレイをするシュナやワイラー、バーニーのような人たちのことをそう呼ぶのだろう。
健介は色子呼ばわりをずっとしていて、少し申し訳ない気持ちになる。彼らの本業は性的なサービスではなく、あくまでダイナミクスのストレスを解消するためのプレイなのだから。
ただ、ゾイの質問の意図がわからない。何故にその「プレイヤー」に健介がなるかどうかを聞かれるのか。
「あの、えっと……?」
イエスかノーかを答える前にその意図を知りたい。
「えぇ? そんな不思議そうなお顔をしないでよ。あなたSubなんでしょう。プレイヤーになったら定期的にダイナミクスのストレスの発散も出来るし、お賃金もいまに比べたら随分良くなるのよ?」
おちんぎん。
給料については今だって下男にしては勿体無いのではないかというほどにいただいている。何度も言うが、家賃もかからない、食費もほぼかからないので、支払われた給与は貯まる一方で使い道もない。いつかはここの下男を辞める日が来るとしても、それが明日……とかでないなら、全く問題ない。
それにたとえ健介が「はい! プレイヤーになります」と意気込んだところで、客がつくとも思えない。ここで働くみんなは体格も良く、見た目も美しく、振る舞いも洗練されている。そもそも給与体系はよくわからないが、ゾイがお給料が良くなると言っても、歩合制なら客が付かなければ、変わらない。たとえ客が付かなくっても、いくらかプレイヤーとしての固定給がもらえるなら、それはそれで客も付かない自分に支払われるのは申し訳ない気持ちになる。
みんなが待機しているサロンで、一人また一人とプレイルームに消えていくのを毎日居残ってただただ見送るのは「お前はお呼び出ない」と言われ続けるようできっと悲しいだろう。
それに、人生初めてのプレイではあったものの、リアンとしたような行為を見知らぬだれかとすることが自分にできるのか、というとそれも難しそうだった。
こんなにいろいろな言い訳……というか理由をあげなくても、健介は自分にプレイヤーが勤まるとは思えなかった。
「いえ、いまのままで大丈夫です」
「そう?」
ゾイを見ると、勿体ないというように残念そうな顔で健介を見てくる。
そもそも、プレイヤーは足りているようなことを先ほどはウンシアに言ってはいなかっただろうか。いや、それはDomの方だけなのか。
まあ、どちらにしても、ゾイがいくら残念に思おうが健介には全く惜しくはなかったのだからこれでいいのだ。
「はい。これからもお掃除とお洗濯を頑張ります」
プレイヤーを断ったことで下男としても雇止めにあってはことだと、これからもここで仕事をする意気込みを伝えておく。
「わかったわ」
ゾイはその場で両手をぱちんと胸の前で鳴らして、「じゃあ、お洗濯はケンちゃんに教えてもらって、お部屋のお掃除指南は申し訳ないけどワイラーにお願いすることにしようかしら」と言った。
「じゃあ、ワイラー呼んでくるね!」
シュナは誰の指示も返事も待たず、一目散に部屋から出ていく。
「ちょ、待ちなさい。シュナ! もう!」
ゾイの叫びも空しく、シュナはもう部屋にいない。
「とりあえず、書類を整えるからちょっと待っててくれる?」
ウンシアに向かって言うと、ゾイは再び執務机の前に座った。残された健介とウンシアはどうしたものかと見つめ合う。
くぅー……。
突然、自分の腹から情けない音がして、健介は咄嗟に腹を両手で抑えた。その様子を見て、目の前のウンシアはくすくすと笑う。
仕方がないではないか。昨日の朝ごはん以降、何も食事を取っていないのだ。朝帰ってから、洗濯の様子を確認して、少し作業をしたら朝食を取ろうと思っていた。それなのに、このような事態になってしまい、その朝食もまだ食べられていない。
窓を見ると、入ってくる日の光はまだ朝日のようだ。ウンシアも随分早い時間からゾイを訪ねてきたものである。ただ、ハウスは午前中が一番落ち着いているのは確かだ。一番忙しいのはもちろん夜だが、早い客は昼過ぎには来る。だが、午前中から来る客はほぼいない。通常は夜通しの客が帰ったあとは、客が一時的にいない時間帯になる。みんなは休憩したり、食事をとったりと、空き時間となるのだ。逆に健介にとってはメインの仕事時間だ。
どのくらいの時間が経ったがわからないが、早いところ食堂に行かなくては朝食を食べ損ねる。それはさすがに少しつらい。それに、早く仕事に戻らなくてはワイラーに任せきりなのも申し訳なかった。
「お腹減ったんですか?」
聞かなくてもわかるだろうに、小さな声でウンシアが尋ねる。
「う、うん」
「さっきも言いましたが、会えてうれしいです」
「う、うん」
気まずい。
いつまでここにいなくてはいけないのか、自分はもうこの部屋を出て行ってもいいのではないかと考えるが、そうゾイに尋ねるために声をかけることは健介には難しかった。
元の世界で社畜をしていたころ、何かをやっている同僚や上司に声をかけては罵倒されていた記憶が身体に染みついてしまっているのだ。
邪魔をしないように、気配を消して待っていることしかできない。そう思っていたのに、ウンシアが「ゾイさん、あとどのくらいかかりますか?」と声をかけた。
(新人んん!!)
温和なゾイが怒るとは思わないが、新参者がそんな急かすようなことをいうなんて、「どうかしている」と健介は思う。
「もうちょっとよ、どうかした?」
「おじさ……」
「大丈夫です! 待ってます」
ウンシアを遮って、健介はいつになく大きな声を上げた。
「そう?」
「はい!」
ウンシアは「お腹減ってるんでしょ?」と小声で言って、怪訝な顔で健介を見つめる。
放っておいてほしい。自分の腹の虫など、鳴かせておけばいいのだ。
「いいから」と小声で返して、そわそわとゾイの方を見やる。書類を見ており、こちらのことは気づいていないようだったことにほっと一安心した。
218
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた
無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる