社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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1章

28 プレイヤーという選択肢

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「ケンちゃん、あなたもプレイヤーになる?」
 プレイヤー……とは?
 きっと、この「ハウス」でお客さんを相手にプレイをするシュナやワイラー、バーニーのような人たちのことをそう呼ぶのだろう。
 健介は色子呼ばわりをずっとしていて、少し申し訳ない気持ちになる。彼らの本業は性的なサービスではなく、あくまでダイナミクスのストレスを解消するためのプレイなのだから。
 ただ、ゾイの質問の意図がわからない。何故なにゆえにその「プレイヤー」に健介がなるかどうかを聞かれるのか。
「あの、えっと……?」
 イエスかノーかを答える前にその意図を知りたい。
「えぇ? そんな不思議そうなお顔をしないでよ。あなたSubなんでしょう。プレイヤーになったら定期的にダイナミクスのストレスの発散も出来るし、お賃金ちんぎんもいまに比べたら随分良くなるのよ?」
 おちんぎん。
 給料については今だって下男にしては勿体無いのではないかというほどにいただいている。何度も言うが、家賃もかからない、食費もほぼかからないので、支払われた給与は貯まる一方で使い道もない。いつかはここの下男を辞める日が来るとしても、それが明日……とかでないなら、全く問題ない。
 それにたとえ健介が「はい! プレイヤーになります」と意気込んだところで、客がつくとも思えない。ここで働くみんなは体格も良く、見た目も美しく、振る舞いも洗練されている。そもそも給与体系はよくわからないが、ゾイがお給料が良くなると言っても、歩合制なら客が付かなければ、変わらない。たとえ客が付かなくっても、いくらかプレイヤーとしての固定給がもらえるなら、それはそれで客も付かない自分に支払われるのは申し訳ない気持ちになる。
 みんなが待機しているサロンで、一人また一人とプレイルームに消えていくのを毎日居残ってただただ見送るのは「お前はお呼び出ない」と言われ続けるようできっと悲しいだろう。
 それに、人生初めてのプレイではあったものの、リアンとしたような行為を見知らぬだれかとすることが自分にできるのか、というとそれも難しそうだった。
 こんなにいろいろな言い訳……というか理由をあげなくても、健介は自分にプレイヤーが勤まるとは思えなかった。
「いえ、いまのままで大丈夫です」
「そう?」
 ゾイを見ると、勿体ないというように残念そうな顔で健介を見てくる。
 そもそも、プレイヤーは足りているようなことを先ほどはウンシアに言ってはいなかっただろうか。いや、それはDomの方だけなのか。
 まあ、どちらにしても、ゾイがいくら残念に思おうが健介には全く惜しくはなかったのだからこれでいいのだ。
「はい。これからもお掃除とお洗濯を頑張ります」
 プレイヤーを断ったことで下男としても雇止めにあってはことだと、これからもここで仕事をする意気込みを伝えておく。
「わかったわ」
 ゾイはその場で両手をぱちんと胸の前で鳴らして、「じゃあ、お洗濯はケンちゃんに教えてもらって、お部屋のお掃除指南は申し訳ないけどワイラーにお願いすることにしようかしら」と言った。
「じゃあ、ワイラー呼んでくるね!」
 シュナは誰の指示も返事も待たず、一目散に部屋から出ていく。
「ちょ、待ちなさい。シュナ! もう!」
 ゾイの叫びも空しく、シュナはもう部屋にいない。
「とりあえず、書類を整えるからちょっと待っててくれる?」
 ウンシアに向かって言うと、ゾイは再び執務机の前に座った。残された健介とウンシアはどうしたものかと見つめ合う。

 くぅー……。
 突然、自分の腹から情けない音がして、健介は咄嗟に腹を両手で抑えた。その様子を見て、目の前のウンシアはくすくすと笑う。
 仕方がないではないか。昨日の朝ごはん以降、何も食事を取っていないのだ。朝帰ってから、洗濯の様子を確認して、少し作業をしたら朝食を取ろうと思っていた。それなのに、このような事態になってしまい、その朝食もまだ食べられていない。
 窓を見ると、入ってくる日の光はまだ朝日のようだ。ウンシアも随分早い時間からゾイを訪ねてきたものである。ただ、ハウスは午前中が一番落ち着いているのは確かだ。一番忙しいのはもちろん夜だが、早い客は昼過ぎには来る。だが、午前中から来る客はほぼいない。通常は夜通しの客が帰ったあとは、客が一時的にいない時間帯になる。みんなは休憩したり、食事をとったりと、空き時間となるのだ。逆に健介にとってはメインの仕事時間だ。
 どのくらいの時間が経ったがわからないが、早いところ食堂に行かなくては朝食を食べ損ねる。それはさすがに少しつらい。それに、早く仕事に戻らなくてはワイラーに任せきりなのも申し訳なかった。
「お腹減ったんですか?」
 聞かなくてもわかるだろうに、小さな声でウンシアが尋ねる。
「う、うん」
「さっきも言いましたが、会えてうれしいです」
「う、うん」
 気まずい。
 いつまでここにいなくてはいけないのか、自分はもうこの部屋を出て行ってもいいのではないかと考えるが、そうゾイに尋ねるために声をかけることは健介には難しかった。
 元の世界で社畜をしていたころ、何かをやっている同僚や上司に声をかけては罵倒されていた記憶が身体に染みついてしまっているのだ。
 邪魔をしないように、気配を消して待っていることしかできない。そう思っていたのに、ウンシアが「ゾイさん、あとどのくらいかかりますか?」と声をかけた。

(新人んん!!)
 温和なゾイが怒るとは思わないが、新参者がそんな急かすようなことをいうなんて、「どうかしている」と健介は思う。
「もうちょっとよ、どうかした?」
「おじさ……」
「大丈夫です! 待ってます」
 ウンシアを遮って、健介はいつになく大きな声を上げた。
「そう?」
「はい!」
 ウンシアは「お腹減ってるんでしょ?」と小声で言って、怪訝な顔で健介を見つめる。
 放っておいてほしい。自分の腹の虫など、鳴かせておけばいいのだ。
 「いいから」と小声で返して、そわそわとゾイの方を見やる。書類を見ており、こちらのことは気づいていないようだったことにほっと一安心した。
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