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2章
31 それはちょっと……
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(命令!?)
何もこんなことにまで命令を使わなくてもいいではないか──。
健介のSubの部分は今すぐにでもサイベリアンの命令に従って、グラスに口の中のものを出してしまえと囁く。
だが、健介の理性は今までの数十年に渡る常識で至って冷静に尋ねてくる。
このグラスを片付けるのは誰か──と。
過去二回、健介はサイベリアンとプレイをしているが、その二回ともに途中で意識を失って、気づいたら朝を迎えていた。なんなら、社畜だったころの本能なのか、寝れるときに寝ておけと言わんばかりに、一度眠りに落ちるとまあたいていのことがない限り起きない。そう、運ばれ移動されたとしても……。
ということは、このままグラスに吐き出したとして、それを片付けるのは健介が寝りこけている間にサイベリアンが部屋に呼ぶメイドさんだ。
よく考えてほしい。グラスの中に明らかに水ではない何か濁った液体が入っていたとして、それを洗いたいやつがいるか?
百パーいない。
本能ゆえに命令に従いたい自分と理性ゆえに命令に背きたい自分がせめぎ合う。
ぐるぐると悩んだ末、健介は意を決して「ごくり」と口の中の水を勢いよく飲みほした。
うがいした水を飲むことも憚られるが、吐き出したものを他人に片付けさせることのほうがはるかに健介は嫌だと思ったのだ。
ようやく口の中に何もなくなって、ふぅっと息をつくと、頭上のサイベリアンが「お仕置きが必要だな」と低い声で言う。
(り、理不尽!)
どうしてだ、とサイベリアンを見上げるが、ただただ小さく首を振られる。
「命令を聞けなかったからね」
酷い、あんまりだ。
と思う一方で、「お仕置き」という言葉に反応している自分もいた。これから一体何をされるのだろう……。
少し期待をしている自分を悟られないように、健介はサイベリアンから視線を逸らした。
「じゃあ、まずは……。『脱いで』」
健介はサイベリアンの機嫌を損ねなように、素直に命令に従って着ていた寝間着を脱ぐ。すると、例の謎紐の下着姿になってしまうわけだが、それもすぐに脱いでしまうのでかまわない。この下着姿を晒すのは真っ裸でいるより恥ずかしい気がするのだ。もう、裸は見られているわけだし、男同士なわけだし、尻を強調するような変な紐を履いているより全然ましだ。
健介はサイベリアンの目に留まらないように、さっと下着を脱ごうと紐に手をかけた。
「『待て』」
サイベリアンが命令を発して、健介の動きを止めて、腰の紐に親指をかけたまま、固まった。
(な、な、何で!?)
何故、この状況で留められたのか健介には全く理解できない。この間は「下着まで脱ぐんだよ」と命令していたではないか、とサイベリアンに非難めいた視線をむける。
見つめた先のサイベリアンは健介が想定していたとは全く別の表情をして、こちらを見つめていた。
そう、何故かとても嬉しそう。
意味が分からない。
このおっさんの綺麗でもない尻が強調されている下着姿の何がサイベリアンを喜ばせているのか。健介にはわけがわからなかった。
「あ、の……」
「『しっ』」
静かにするように命令を下されて、健介は「んぐっ」と口をつぐむ。
腰紐に手をかけたままの中途半端な格好で、じっとサイベリアンを見つめる。かたやサイベリアンはサイベリアンで健介の様子を上から下へしげしげと眺める。
「うちの使用人は優秀だな」
顎に手をあてて、ひとしきり健介を観察したのちに、なにかサイベリアンが呟いたがあまりに小さな声で健介には何と言ったのか聞こえなかった。
「ベッドに上がって『仰向けに』」
健介は釈然としないが、言われた命令通りにベッドに近づく。尻を丸出しどころか、紐が強調している状態で後ろに突き出すようにベッドによじ登った。その様子を後ろからサイベリアンがまじまじと眺めていたことに健介は全く気づかなかった。
何もこんなことにまで命令を使わなくてもいいではないか──。
健介のSubの部分は今すぐにでもサイベリアンの命令に従って、グラスに口の中のものを出してしまえと囁く。
だが、健介の理性は今までの数十年に渡る常識で至って冷静に尋ねてくる。
このグラスを片付けるのは誰か──と。
過去二回、健介はサイベリアンとプレイをしているが、その二回ともに途中で意識を失って、気づいたら朝を迎えていた。なんなら、社畜だったころの本能なのか、寝れるときに寝ておけと言わんばかりに、一度眠りに落ちるとまあたいていのことがない限り起きない。そう、運ばれ移動されたとしても……。
ということは、このままグラスに吐き出したとして、それを片付けるのは健介が寝りこけている間にサイベリアンが部屋に呼ぶメイドさんだ。
よく考えてほしい。グラスの中に明らかに水ではない何か濁った液体が入っていたとして、それを洗いたいやつがいるか?
百パーいない。
本能ゆえに命令に従いたい自分と理性ゆえに命令に背きたい自分がせめぎ合う。
ぐるぐると悩んだ末、健介は意を決して「ごくり」と口の中の水を勢いよく飲みほした。
うがいした水を飲むことも憚られるが、吐き出したものを他人に片付けさせることのほうがはるかに健介は嫌だと思ったのだ。
ようやく口の中に何もなくなって、ふぅっと息をつくと、頭上のサイベリアンが「お仕置きが必要だな」と低い声で言う。
(り、理不尽!)
どうしてだ、とサイベリアンを見上げるが、ただただ小さく首を振られる。
「命令を聞けなかったからね」
酷い、あんまりだ。
と思う一方で、「お仕置き」という言葉に反応している自分もいた。これから一体何をされるのだろう……。
少し期待をしている自分を悟られないように、健介はサイベリアンから視線を逸らした。
「じゃあ、まずは……。『脱いで』」
健介はサイベリアンの機嫌を損ねなように、素直に命令に従って着ていた寝間着を脱ぐ。すると、例の謎紐の下着姿になってしまうわけだが、それもすぐに脱いでしまうのでかまわない。この下着姿を晒すのは真っ裸でいるより恥ずかしい気がするのだ。もう、裸は見られているわけだし、男同士なわけだし、尻を強調するような変な紐を履いているより全然ましだ。
健介はサイベリアンの目に留まらないように、さっと下着を脱ごうと紐に手をかけた。
「『待て』」
サイベリアンが命令を発して、健介の動きを止めて、腰の紐に親指をかけたまま、固まった。
(な、な、何で!?)
何故、この状況で留められたのか健介には全く理解できない。この間は「下着まで脱ぐんだよ」と命令していたではないか、とサイベリアンに非難めいた視線をむける。
見つめた先のサイベリアンは健介が想定していたとは全く別の表情をして、こちらを見つめていた。
そう、何故かとても嬉しそう。
意味が分からない。
このおっさんの綺麗でもない尻が強調されている下着姿の何がサイベリアンを喜ばせているのか。健介にはわけがわからなかった。
「あ、の……」
「『しっ』」
静かにするように命令を下されて、健介は「んぐっ」と口をつぐむ。
腰紐に手をかけたままの中途半端な格好で、じっとサイベリアンを見つめる。かたやサイベリアンはサイベリアンで健介の様子を上から下へしげしげと眺める。
「うちの使用人は優秀だな」
顎に手をあてて、ひとしきり健介を観察したのちに、なにかサイベリアンが呟いたがあまりに小さな声で健介には何と言ったのか聞こえなかった。
「ベッドに上がって『仰向けに』」
健介は釈然としないが、言われた命令通りにベッドに近づく。尻を丸出しどころか、紐が強調している状態で後ろに突き出すようにベッドによじ登った。その様子を後ろからサイベリアンがまじまじと眺めていたことに健介は全く気づかなかった。
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𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
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