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2章
35 今回も無理そう
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* * *
さすがに今日の朝くらいはケンと一緒に食事が取れるだろうとサイベリアンは考えていた。毎朝は無理だとしても……、せめて今日くらい。なにせ初日だ。やっと見つけて、自分の屋敷に連れて来たのだ。これからはしようと思えばいつだって一緒に食事ができるが、そういうことではない……。
最初は、肝心だと思う。
それに、前回のように明け方に起きたケンが勝手に屋敷を抜け出さないように、部屋の前には護衛とメイドを待機させるようにした。これで万が一ケンが部屋から出たとしても、やんわりと部屋に戻される。
万全だったのだ。準備だけは。
今朝も早くに目が覚めたケンが、キョロキョロと部屋の中を見回し、彷徨き始める様子もベッドから眺めた。小首を傾げて困惑しつつも、天井のシャンデリアを見て感嘆を漏らし、ベッドから降りて床に足をつけ、絨毯の毛足の長さと感触に「わっ」っと小さく感動の声をあげる。
警戒しているのに好奇心が抑えられない小動物のようで……。
実に可愛かった。
着るものがなくて、股間のものをぶらぶらさせながら歩き回るケンに自分の前は朝の生理現象からはっきりと意思を持って立ち上がる。
ちょっと戯れに誘ってみたが思ったよりきっぱりと断られ、落ち着かない前の気を逸らす言い訳に部屋から出ただけだ。ちょっと、仕事をしておけばゆっくり朝食をケンと取れると思っただけなのだ……。はなから仕事の話を聞くために、ケンの眠る横から出てきたわけではない。
それなのに。
自分を呼びに来たレオンに出会いがしら、これ幸いと執務室につれていかれた。
「レオンがわざわざ、それもこんな時間から呼びに来る要件が思い浮かないんだが?」
「いや、あるだろう。いくつか」
そう言われて、早々にゾイにバレて抗議の連絡も入っているのかと思ったが、様子からするにそうではないようだ。
「あの件か?」
「そうだよ、その件だ」
詳しい内容は執務室で話すといった通り、レオンは核心には触れない。それでも、二人の間では何の件か話が通じる。
「それは……」
サイベリアンは心の中でため息をついた。
その内容を考えれば、自分を早朝から呼びに来るほどに進展したことは喜ばしいことだった。そして、それは朝食の前にことが済むような内容では無いことはわかっている。
それでも、朝食をとってからことが動いたってよかったのではないか!?と恨めしく思うくらいは許してほしい。実際にはことは急を要し、悠長に朝食をとってからと後回しにできることではないことは十分に理解しているのだ。
執務室に入って、机の前に並んだ見慣れた面々に若干うんざりした気持ちになったが、自分以上に目の前の二人の方がうんざりしていることだろうと、思わずつきそうになるため息をぐっとのみこんだ。サイベリアンは待っていた近衛騎士団長と帝国第二騎士団の副団長に状況の説明を求める。
最初に口を開いたのは、第二騎士団の副団長の方だ。
「殿下、お待ちしておりました。ご報告申し上げます。二カ所の拠点の場所を押さえて、見張りもつけています。現在、相手には気付かれておりません」
「そうか。背後関係はどうなっている?」
「ごろつきを直接動かして、人狩りをしているのは地方の男爵です」
「その男爵に指示を出して、裏で糸を引いているのは例の侯爵です」
第二騎士団副団長の言葉のあとを近衛騎士団長が引き継ぐ。
「やはりハエニダエ侯爵か……」
忌々しげにレオンが呟いた。
「続けろ」
「男爵は自領の領民にはほぼ手を付けず、むしろ周辺の領の農村の民をさらっています。人目のない森や山に薬草や薪といった生活資源を取りに出ているところを狙って、攫っているようです」
どうりで──。
サイベリアンは帝国に報告される失踪の件数がここ数年で多くなっているということを思い出した。それも、どこか限られた場所ではない。帝国のいたる所で発生していた。
それは、「山に狩りに行った家族が家に戻らない」といったものだった。それだけなら、「あぁ、遭難したか野獣か魔獣に襲われたのだろう」と言うことで済んでしまう。野獣や魔獣に襲われていたら、遺体も見つかりはしない。実際、そうだった人もいるだろう。だが、一時期からその人数が少しずつ増えていっていた。
訝しんだ領主もいたが、広い領土を治める領主にとって、村の隅々にまでは目が届かない。
失踪にともなって、魔獣の被害が出ていれば、役人なり騎士なりを派遣していただろうが、失踪者は居ても、大きな魔獣の被害がでていたわけではなかった。
いずれにせよ、領内の失踪者が少しばかり増えたくらいでは、帝国中枢に報告が上がってくるようなことではない。
さすがに今日の朝くらいはケンと一緒に食事が取れるだろうとサイベリアンは考えていた。毎朝は無理だとしても……、せめて今日くらい。なにせ初日だ。やっと見つけて、自分の屋敷に連れて来たのだ。これからはしようと思えばいつだって一緒に食事ができるが、そういうことではない……。
最初は、肝心だと思う。
それに、前回のように明け方に起きたケンが勝手に屋敷を抜け出さないように、部屋の前には護衛とメイドを待機させるようにした。これで万が一ケンが部屋から出たとしても、やんわりと部屋に戻される。
万全だったのだ。準備だけは。
今朝も早くに目が覚めたケンが、キョロキョロと部屋の中を見回し、彷徨き始める様子もベッドから眺めた。小首を傾げて困惑しつつも、天井のシャンデリアを見て感嘆を漏らし、ベッドから降りて床に足をつけ、絨毯の毛足の長さと感触に「わっ」っと小さく感動の声をあげる。
警戒しているのに好奇心が抑えられない小動物のようで……。
実に可愛かった。
着るものがなくて、股間のものをぶらぶらさせながら歩き回るケンに自分の前は朝の生理現象からはっきりと意思を持って立ち上がる。
ちょっと戯れに誘ってみたが思ったよりきっぱりと断られ、落ち着かない前の気を逸らす言い訳に部屋から出ただけだ。ちょっと、仕事をしておけばゆっくり朝食をケンと取れると思っただけなのだ……。はなから仕事の話を聞くために、ケンの眠る横から出てきたわけではない。
それなのに。
自分を呼びに来たレオンに出会いがしら、これ幸いと執務室につれていかれた。
「レオンがわざわざ、それもこんな時間から呼びに来る要件が思い浮かないんだが?」
「いや、あるだろう。いくつか」
そう言われて、早々にゾイにバレて抗議の連絡も入っているのかと思ったが、様子からするにそうではないようだ。
「あの件か?」
「そうだよ、その件だ」
詳しい内容は執務室で話すといった通り、レオンは核心には触れない。それでも、二人の間では何の件か話が通じる。
「それは……」
サイベリアンは心の中でため息をついた。
その内容を考えれば、自分を早朝から呼びに来るほどに進展したことは喜ばしいことだった。そして、それは朝食の前にことが済むような内容では無いことはわかっている。
それでも、朝食をとってからことが動いたってよかったのではないか!?と恨めしく思うくらいは許してほしい。実際にはことは急を要し、悠長に朝食をとってからと後回しにできることではないことは十分に理解しているのだ。
執務室に入って、机の前に並んだ見慣れた面々に若干うんざりした気持ちになったが、自分以上に目の前の二人の方がうんざりしていることだろうと、思わずつきそうになるため息をぐっとのみこんだ。サイベリアンは待っていた近衛騎士団長と帝国第二騎士団の副団長に状況の説明を求める。
最初に口を開いたのは、第二騎士団の副団長の方だ。
「殿下、お待ちしておりました。ご報告申し上げます。二カ所の拠点の場所を押さえて、見張りもつけています。現在、相手には気付かれておりません」
「そうか。背後関係はどうなっている?」
「ごろつきを直接動かして、人狩りをしているのは地方の男爵です」
「その男爵に指示を出して、裏で糸を引いているのは例の侯爵です」
第二騎士団副団長の言葉のあとを近衛騎士団長が引き継ぐ。
「やはりハエニダエ侯爵か……」
忌々しげにレオンが呟いた。
「続けろ」
「男爵は自領の領民にはほぼ手を付けず、むしろ周辺の領の農村の民をさらっています。人目のない森や山に薬草や薪といった生活資源を取りに出ているところを狙って、攫っているようです」
どうりで──。
サイベリアンは帝国に報告される失踪の件数がここ数年で多くなっているということを思い出した。それも、どこか限られた場所ではない。帝国のいたる所で発生していた。
それは、「山に狩りに行った家族が家に戻らない」といったものだった。それだけなら、「あぁ、遭難したか野獣か魔獣に襲われたのだろう」と言うことで済んでしまう。野獣や魔獣に襲われていたら、遺体も見つかりはしない。実際、そうだった人もいるだろう。だが、一時期からその人数が少しずつ増えていっていた。
訝しんだ領主もいたが、広い領土を治める領主にとって、村の隅々にまでは目が届かない。
失踪にともなって、魔獣の被害が出ていれば、役人なり騎士なりを派遣していただろうが、失踪者は居ても、大きな魔獣の被害がでていたわけではなかった。
いずれにせよ、領内の失踪者が少しばかり増えたくらいでは、帝国中枢に報告が上がってくるようなことではない。
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