社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

文字の大きさ
84 / 192
2章

35 今回も無理そう

しおりを挟む
                * * *

 さすがに今日の朝くらいはケンと一緒に食事が取れるだろうとサイベリアンは考えていた。毎朝は無理だとしても……、せめて今日くらい。なにせ初日だ。やっと見つけて、自分の屋敷に連れて来たのだ。これからはしようと思えばいつだって一緒に食事ができるが、そういうことではない……。
 最初は、肝心だと思う。
 それに、前回のように明け方に起きたケンが勝手に屋敷を抜け出さないように、部屋の前には護衛とメイドを待機させるようにした。これで万が一ケンが部屋から出たとしても、やんわりと部屋に戻される。
 万全だったのだ。準備だけは。

 今朝も早くに目が覚めたケンが、キョロキョロと部屋の中を見回し、彷徨き始める様子もベッドから眺めた。小首を傾げて困惑しつつも、天井のシャンデリアを見て感嘆を漏らし、ベッドから降りて床に足をつけ、絨毯の毛足の長さと感触に「わっ」っと小さく感動の声をあげる。
 警戒しているのに好奇心が抑えられない小動物のようで……。
 実に可愛かった。
 着るものがなくて、股間のものをぶらぶらさせながら歩き回るケンに自分の前は朝の生理現象からはっきりと意思を持って立ち上がる。
 ちょっと戯れに誘ってみたが思ったよりきっぱりと断られ、落ち着かない前の気を逸らす言い訳に部屋から出ただけだ。ちょっと、仕事をしておけばゆっくり朝食をケンと取れると思っただけなのだ……。はなから仕事の話を聞くために、ケンの眠る横から出てきたわけではない。
 それなのに。
 
 自分を呼びに来たレオンに出会いがしら、これ幸いと執務室につれていかれた。
「レオンがわざわざ、それもこんな時間から呼びに来る要件が思い浮かないんだが?」
「いや、あるだろう。いくつか」
 そう言われて、早々にゾイにバレて抗議の連絡も入っているのかと思ったが、様子からするにそうではないようだ。
「あの件か?」
「そうだよ、その件だ」
 詳しい内容は執務室で話すといった通り、レオンは核心には触れない。それでも、二人の間では何の件か話が通じる。
「それは……」
 サイベリアンは心の中でため息をついた。
 その内容を考えれば、自分を早朝から呼びに来るほどに進展したことは喜ばしいことだった。そして、それは朝食の前にことが済むような内容では無いことはわかっている。
 それでも、朝食をとってからことが動いたってよかったのではないか!?と恨めしく思うくらいは許してほしい。実際にはことは急を要し、悠長に朝食をとってからと後回しにできることではないことは十分に理解しているのだ。

 執務室に入って、机の前に並んだ見慣れた面々に若干うんざりした気持ちになったが、自分以上に目の前の二人の方がうんざりしていることだろうと、思わずつきそうになるため息をぐっとのみこんだ。サイベリアンは待っていた近衛騎士団長と帝国第二騎士団の副団長に状況の説明を求める。
 最初に口を開いたのは、第二騎士団の副団長の方だ。
「殿下、お待ちしておりました。ご報告申し上げます。二カ所の拠点の場所を押さえて、見張りもつけています。現在、相手には気付かれておりません」
「そうか。背後関係はどうなっている?」
「ごろつきを直接動かして、人狩りをしているのは地方の男爵です」
「その男爵に指示を出して、裏で糸を引いているのは例の侯爵です」
 第二騎士団副団長の言葉のあとを近衛騎士団長が引き継ぐ。
「やはりハエニダエ侯爵か……」
 忌々しげにレオンが呟いた。
「続けろ」
「男爵は自領の領民にはほぼ手を付けず、むしろ周辺の領の農村の民をさらっています。人目のない森や山に薬草や薪といった生活資源を取りに出ているところを狙って、攫っているようです」
 どうりで──。
 サイベリアンは帝国に報告される失踪の件数がここ数年で多くなっているということを思い出した。それも、どこか限られた場所ではない。帝国のいたる所で発生していた。
 それは、「山に狩りに行った家族が家に戻らない」といったものだった。それだけなら、「あぁ、遭難したか野獣か魔獣に襲われたのだろう」と言うことで済んでしまう。野獣や魔獣に襲われていたら、遺体も見つかりはしない。実際、そうだった人もいるだろう。だが、一時期からその人数が少しずつ増えていっていた。
 訝しんだ領主もいたが、広い領土を治める領主にとって、村の隅々にまでは目が届かない。
 失踪にともなって、魔獣の被害が出ていれば、役人なり騎士なりを派遣していただろうが、失踪者は居ても、大きな魔獣の被害がでていたわけではなかった。
 いずれにせよ、領内の失踪者が少しばかり増えたくらいでは、帝国中枢に報告が上がってくるようなことではない。
 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...