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3章
13 話をしたのか
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* * *
ケンと話しを終えたゾイが執務室に向かっていると入ってきたメイドがサイベリアンに伝える。ほどなくして、執務室の扉がノックされた。
サイベリアンはこの部屋を訪れたときの怒髪天を衝く勢いだったゾイを思い返す。たとえケンが戻らないと言ったとしても、容易に納得はしないことは想像に難くない。正規の方法で連れて来たのではないことのお叱りを再び受ける覚悟で扉を自ら開けた。
「叔父上」
ドアの前に立つゾイの表情を見て、サイベリアンは困惑した。
「叔父上?」
未だに自分に対し怒りを露にすると思っていたがゾイは全く別の表情を浮かべている。怒りや失望よりむしろ憐憫? 哀憐? といったよくわからない表情で……。
(どういう感情ですか? 叔父上)
ゾイは眉を下げてあいまいにうっすらと微笑みながら、しかし何も言わずに部屋に入ってきた。サイベリアンはひとまず応接のソファに案内して、二人は向かい合って腰をかける。
「……」
ゾイはサイベリアンを眺めるだけで、口を開こうとしない。
部屋の中に気まずい沈黙が流れる。
居ても立っても居られずにサイベリアンは自ら口火をきった。
「叔父上。ケンはなんと?」
「リアン……、ケンは帰るそうだよ」
「!?」
(かえ……、る?)
一瞬何を言われたのかわからなかった。
ケンの居場所はここだ。どこに帰るというのだ。
ケンは自分の側にいることを選ぶと思っていた。不在を寂しく思い、帰宅を喜び、プレイをねだったではないか──。
それとも──内心はプレイなどしたくもなかったのだろうか。
サイベリアンは目の前が暗くなったように感じる。
わんわんと耳鳴りがして、ゾイが何かを言っているがひとつも頭に入ってこなかった。
「リアン……、リアン!」
「……はい」
絞り出すように返事をする。表情には一切ださないが、頭の中は恐慌状態に陥っている。
「サイベリアン、聞きなさい」
「はい」
「ケンを連れてきてから、彼ときちんと話しをしたのかい?」
「は……いいえ。連れてきてすぐに立て込みまして……」
「そうか……」
再び二人の間に重い沈黙が流れる。
あまりの静けさに普段は意識したって聞こえない魔道具が稼働している音すら聞こえてきた。
どういうことなのか、サイベリアンは頭の中で状況を整理しようとしたが全く考えはまとまらない。何かを口に出そうとして、何を口にすればいいのかわからず、口を開いては閉じ、閉じては開きかけ、また閉じるということを繰り返す。
日の光が部屋の中をうるさいほどに照らして明るい。温室で朝食をとるにはぴったりなほどに外は晴れ渡っていたが、サイベリアンの心は曇りきっている。
今頃、ケンと今後の話をしながら、二人で朝食を食べているはずだった。それが、どうしてこうなっているのか。
サイベリアンは両膝に肘をつき、両手を組んで俯いて額をあてた。
沈黙を破ったのはゾイの方だった。
「リアン、お前はケンに自分の気持や考えを何か伝えたのか?」
口に出して伝えたことはなかったかもしれない。だが、態度では……全身で伝えていた。
「リアン……。ケンはいま自分がここにいる理由を『プレイヤーとして出張している』といっていたよ」
「え?」
何を言われたのかわからず、顔を上げてゾイを見る。
「『出張プレイ』」
ゆっくりと、だがはっきりと完結にゾイは言いなおした。
「!?」
全身に冷や水を浴びせられた心地だった。
ケンには何一つ伝わっていなかった。
帰ってきたことを喜んでいたわけではない。
帰ってきた自分にプレイをねだったわけではない。
ケンはただ自分の仕事でそれをするべきだと思って、サイベリアンに尋ねていただけだった。
俺は……とんだ勘違い野郎だ。
ケンと話しを終えたゾイが執務室に向かっていると入ってきたメイドがサイベリアンに伝える。ほどなくして、執務室の扉がノックされた。
サイベリアンはこの部屋を訪れたときの怒髪天を衝く勢いだったゾイを思い返す。たとえケンが戻らないと言ったとしても、容易に納得はしないことは想像に難くない。正規の方法で連れて来たのではないことのお叱りを再び受ける覚悟で扉を自ら開けた。
「叔父上」
ドアの前に立つゾイの表情を見て、サイベリアンは困惑した。
「叔父上?」
未だに自分に対し怒りを露にすると思っていたがゾイは全く別の表情を浮かべている。怒りや失望よりむしろ憐憫? 哀憐? といったよくわからない表情で……。
(どういう感情ですか? 叔父上)
ゾイは眉を下げてあいまいにうっすらと微笑みながら、しかし何も言わずに部屋に入ってきた。サイベリアンはひとまず応接のソファに案内して、二人は向かい合って腰をかける。
「……」
ゾイはサイベリアンを眺めるだけで、口を開こうとしない。
部屋の中に気まずい沈黙が流れる。
居ても立っても居られずにサイベリアンは自ら口火をきった。
「叔父上。ケンはなんと?」
「リアン……、ケンは帰るそうだよ」
「!?」
(かえ……、る?)
一瞬何を言われたのかわからなかった。
ケンの居場所はここだ。どこに帰るというのだ。
ケンは自分の側にいることを選ぶと思っていた。不在を寂しく思い、帰宅を喜び、プレイをねだったではないか──。
それとも──内心はプレイなどしたくもなかったのだろうか。
サイベリアンは目の前が暗くなったように感じる。
わんわんと耳鳴りがして、ゾイが何かを言っているがひとつも頭に入ってこなかった。
「リアン……、リアン!」
「……はい」
絞り出すように返事をする。表情には一切ださないが、頭の中は恐慌状態に陥っている。
「サイベリアン、聞きなさい」
「はい」
「ケンを連れてきてから、彼ときちんと話しをしたのかい?」
「は……いいえ。連れてきてすぐに立て込みまして……」
「そうか……」
再び二人の間に重い沈黙が流れる。
あまりの静けさに普段は意識したって聞こえない魔道具が稼働している音すら聞こえてきた。
どういうことなのか、サイベリアンは頭の中で状況を整理しようとしたが全く考えはまとまらない。何かを口に出そうとして、何を口にすればいいのかわからず、口を開いては閉じ、閉じては開きかけ、また閉じるということを繰り返す。
日の光が部屋の中をうるさいほどに照らして明るい。温室で朝食をとるにはぴったりなほどに外は晴れ渡っていたが、サイベリアンの心は曇りきっている。
今頃、ケンと今後の話をしながら、二人で朝食を食べているはずだった。それが、どうしてこうなっているのか。
サイベリアンは両膝に肘をつき、両手を組んで俯いて額をあてた。
沈黙を破ったのはゾイの方だった。
「リアン、お前はケンに自分の気持や考えを何か伝えたのか?」
口に出して伝えたことはなかったかもしれない。だが、態度では……全身で伝えていた。
「リアン……。ケンはいま自分がここにいる理由を『プレイヤーとして出張している』といっていたよ」
「え?」
何を言われたのかわからず、顔を上げてゾイを見る。
「『出張プレイ』」
ゆっくりと、だがはっきりと完結にゾイは言いなおした。
「!?」
全身に冷や水を浴びせられた心地だった。
ケンには何一つ伝わっていなかった。
帰ってきたことを喜んでいたわけではない。
帰ってきた自分にプレイをねだったわけではない。
ケンはただ自分の仕事でそれをするべきだと思って、サイベリアンに尋ねていただけだった。
俺は……とんだ勘違い野郎だ。
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