社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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3章

14 不思議なひと

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 帰るのを待っていたと、はにかんだ笑顔は全部、全部、「仕事」だと思っていたからだと言うのか──。
 サイベリアンは頭が真っ白になり、しばし呆然とした。

「ケンちゃんも記憶がないにしたって、一般常識がなさすぎよぉ! あなたがそう言って騙くらかしたんじゃないの? リアン!」
 その上、目の前の叔父には騙したと疑われ、踏んだり蹴ったりだ。
 そうでなくてもよく通るゾイの声が執務室内に響き渡る。
「いえ、叔父上、私は決して騙してなど!」
 ゾイは大げさなほどの身振りで、サイベリアンを非難してから、ハッと気づいて、大きく咳払いをした。居住まいを正し、努めて低く威厳のある声を出した。
「お前が言ったのでなければ、どうしてケンがそんなふうに思うんだ」
「私には全く身に覚えがありません!」
 サイベリアンは自分の無実を声を大にして訴える。
「んもう! 本当に?」
「誓って」
 握り締めた両手の拳を振り下ろすゾイを逸らすことな真剣な眼差しで真っ向から見返した。
 そんなことはケンに言っていない。サイベリアンは神と祖先に誓える。
「ならどうしてよ?」
 そんなの、むしろこっちが知りたい。
 出張プレイだなんて……。自分の大いなる勘違いに哀しみを通り越して、もはや虚しさを感じる。
「ハウスは知らないのに娼館は知ってるってなによ。ダイナミクスがない国なんて、周辺にあったかしら?」
 サイベリアンは少し考えたものの、答えはわかりきっていた。
 ダイナミクスがない国はこの大陸には存在しない。
 どこか辺境にある小さな島ならなくもないかもしれないが、それにしては帝国語が流暢だった。
「それにいくつか別の地域の言葉も話せるのに、読み書きはできないのよ」
 これにはサイベリアンも驚いた。
 サイベリアンはケンが記憶喪失なだけで、育ちは良いと思っていたからだ。
 遠慮がちにつっかえながら話すことも多いが、基本的に言葉遣いが綺麗だ。猫背ぎみではあるが、立ち振る舞い、歩き方も美しい。
 この三日間ケンを身近に世話をしていたメイド長にどのような様子かを聞いたときも、世話をされることに慣れていない様子だが、食事をとる姿は教育を受けている者のそれだと言っていた。
 始終部屋の中にメイドや使用人がいることに最初は戸惑っていたが、次第にそれも気にしない様子になったが、横柄な態度をとることもなく、なにかするたびに使用人にも礼を言う。「お優しいかたです」と滅多に無いほど褒めちぎっていた。いつもの無表情で。
「不思議な人だ……」
「なんかおとぎ話の聖女様みたいよね、黒髪で黒眼なんて」
 帝国に限らず、この大陸で広く知られているお伽話。種類も様々で、「人に虐げられていた獣人を憐れに思って第二の性、ダイナミクスを授けた」というものや、「動物と人種が手を取り合えるように、最初の獣に人の姿を与えた」というもので、獣人には馴染みが深い。
 話の種類は多数あれど、どれも聖女は美しい漆黒の髪と煌めくような黒曜石の瞳、乳白色の肌で描かれている。
 とはいえ、黒髪や黒眼の人種や獣人種がいないわけではない。ただ、どちらも黒髪、黒目で肌が白いというのは少しばかり珍しかった。そのため、そのような子供が産まれると、「聖女の祝福を受けた」などと言われて、大切にされる。
 
 とはいえ、ケンの魅力は髪や瞳の色ではない。聖女もかくやという純粋さと愛らしさではないか。
「叔父上もそう思われますか!? ケンは本当に純粋無垢で愛らしく……も、もしや叔父上も!」
 ケンがいかに可愛いかを熱く語ろうとして、はたと気づく。目の前の叔父もケンに好意を抱いているのか──。
 いくら敬愛する叔父相手でも、譲ることなど考えられない。
 挑む気概で視線を向けると、
「恋って人を馬鹿にするのね……」
 となにか残念なものを見る目を向けられた。
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