社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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3章

15 驕り

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「それにしても、あなたあんなに自信満々にしていたのに、ケンちゃんは少しも」
(ぐっ)
「これっぽっちも」
(うぐっ)
「かけらだって、あなた自身に好意なんてなさそうよ」
(ぐはっ)

 完全に普段通りの口調に戻った少し高めの声で、ゾイは容赦なくサイベリアンに精神を抉ってくる。まったくもって容赦がない。
 その場でうずくまって叫び出したい気持ちであったが、帝国の皇子としての矜持がかろうじてそれを踏みとどまらせた。
 先ほどから自分でも気づいていたが、他人から客観的に指摘されるそのダメージたるや計り知れない。ぐさぐさと胸にナイフが突き刺さる。
 これ以上は過剰殺傷オーバーキルだというのに、ゾイはサイベリアンの様子に気づいているのか気づいていて無視しているのかそのまま続ける。
「あの、『出張プレイですよね?』とあたしに聞いてきたときの、ケンちゃんの曇りなき眼」
「ぐうっ」
 サイベリアンはとうとう堪えきれずに、呻き声を漏らした。
「あら、ごめんなさい」
「い、いえ。あ、はい……」
 少しも悪びれる様子のない謝罪にサイベリアンも生返事を返し、ただただ死んだ魚のような目で虚空を眺める。
 あぁ、ちょっと目から汗が出そうだ……。
「ちょっと、ちょっと。なんだかあなたが可哀想になってきちゃったじゃない……」
 これだけ、人の心臓を抉っておいてこの言い草……とは思ったが、自業自得なので、サイベリアンは何もいえなかった。
「んー、まずはお友達から始めたら?」
 ゾイは片手を頬にあてて、少し悩んでから、哀れみに満ちた目でサイベリアンを見つめて言った。
「っえ?」
「いきなり『俺の番になってくれ』とか言われても、ケンちゃんだって困惑するでしょう。というか、完全に変な人よ」
 サイベリアンは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
(変な……人)
 確かに言われてみれば、そうかもしれない。冷静に考えれば、知り合って数回会ったばかりの人から「あなたは私の運命の相手です」とか告げられたら、サイベリアンだって、「あぁ、こいつはヤバいヤツだ」と思う。それがなぜ自分だけが例外だと考えられるのか。完全に驕っていた。
 百歩譲って、獣人なら相手の匂いで、「もしや番か?」と思うことはあるかもしれない。ただ、「いいな、この人」と思ったからといって、すぐに「番になってくれ」とはならないだろう。普通は相手との関係性を構築することから始める。よく考えなくても、当たり前のことだ。
 サイベリアンは好意を向けられることには慣れきっていたが、好意を向けることに全くもって不慣れだった。初めてのことで、気が急いたとはいえあまりにも愚かな振る舞いだった。
 サイベリアンは自分の身勝手な行動を思い出して、その場で項垂うなだれる。
「だーかーらー、これから関係を構築したら? まぁ、ケンちゃんがいいって言ったらだけど」
 サイベリアンはケンが自分の側にいることを……ここに残ることを選ぶと考えていた。そうはならなかった時点で、もうケンにが会えなくてなると思っていた。勝手に連れ出したことを激怒していたゾイがケンに再び会うこと許すとは思えなかったから。
 だが、会っていい……と?
 サイベリアンは下げていた顔を上げて、ゾイに視線を合わせた。
「ただし、必ずハウスの中で会うこと。次に無断で連れ出したら……わかってるな?」
 ゾイは最後だけ急に声を低くした。
 サイベリアンはしっかりとゾイの目を見て、ゆっくりとうなずく。
「あと、執務を疎かにしないこと。確認はそこに立ってるもう一人の甥っ子に確認するからね」
 そう言って、ゾイはサイベリアンの後ろに視線をやって、その相手を捉えて、口だけを弓なりにしてにっこりと凄む。
 自分の後ろから小さく蛙がつぶれされたようなうめき声が聞こえた。 
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