社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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3章

16 馬車で帰るわ

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「じゃ、あたしはもう帰るわ。そう何日もハウスを閉めておくわけにもいかないから」
 ゾイはそう言うと、やにわにソファから立ち上がり、さっと身をひるがえす。
 帝都からボルハウンド領までは足の速い馬車でも一日強はかかる。これから出たとしても、帰り着くのは明日以降になるだろう。三日か四日はハウスを閉じていることになる。領にハウスは一つしかない。急なダイナミクスの不調を起こした者がいたとしても、ハウスではない、非合法なプレイルームに行かなくてはならない。
 入っていた予約をキャンセルしたことによる損害も相当なものだろう。
 だが、ゾイ以外にここに来てケンを連れて帰る交渉をサイベリアンにできるものはハウスにはいなかった。
(そんなことも考えられなかった……)
 自分の身勝手な行動で多くの人に迷惑をかけた。ケンを他のDomの目に触れさせたくない、ケンが欲しい、自分の側にいてほしいという自分の私欲で完全に目が曇っていた。
 その結果、叔父からの信頼を大きく損ね、その上ケンを留めておくこともできなかった。
 手痛い結果だった。
「申し訳ございません」
 サイベリアンは決して人に下げることのない頭を下げて、ゾイに心から謝罪する。
「転移陣を使われますか?」
「いいわよ。馬車でケンちゃんとおしゃべりしながら帰るから」
 ゾイはひらっと片手を振り払い、最後の最後まで意趣返しをして執務室を後にした。

「巻き込むなよ」
 つぶれた蛙が声をかけてくる。
「仕方がないだろう」
「仕方がないものか、ったく。見たか? あの笑顔。怖っ」
 レオンが心底恐ろしいものを見たという顔で、両手で自身を抱きしめてぶるっと体を震わせる。
「……申し訳ない」
「叔父貴も言っていたが、本当に恋は盲目だな。お前に限ってはないと思っていたが」
 一転して、レオンはからからと笑いながら、サイベリアンをからかった。
「『運命』に会ったらお前だって」
「俺にはわからんよ。祖先は獣人たって、血が薄すぎる」
 サイベリアンはレオンの言葉には答えなかった。
 ゾイはハウスでなら会ってもいいと言っていた。転移陣を使えば確かに一瞬でボルハウンド領に行くことは出来る。だが、月に何度も行くことはサイベリアンの執務状況を考えたら難しい。取り逃したハエニダエと違法奴隷の件も早急に手を打たなくてはならない。
 しかも、執務を疎かにしたら絶対にゾイはケンに会わせてはくれないだろう。
 レオンに確認すると言っていたが、レオンと口裏をあわせたところでゾイにはばれるに決まっている。信頼を取り戻すためにも、ここは真面目に取り組まなければならなかった。
(やるしかない)
 サイベリアンは気持ちを切り替えて、やるべきことを頭の中で整理することにした。

             * * *

 いつものようにゆっくりと朝食をとっていたが、その間にゾイが温室に戻ってくることはなかった。ふかふかのホットケーキ(パンケーキと言われたが……)が懐かしく、図々しくもおかわりまで頼んだのにも関わらず。
 フォークとナイフもおいて食後の紅茶を飲みながら、このまま温室でゾイを待つのかと思っていたら、メイドさんに促されて自分が寝起きをしていた部屋へと連れて帰られた。
(何の話をしているんだろう……)
 ゾイも帰ってこない、サイベリアンも部屋を訪れないとあって、部屋の中で身の置き所がない。立って部屋の中をうろうろしようにも、室内に待機しているメイドさんに「何かお探しですか?」と声をかけられ、「あ、いえ……ごにょ」とあいまいに返して、窓際の椅子におとなしく座っているしかなくなる。
 窓の外に見るともなしに視線をやれば、陽の光を受けた木々が青々と美しい。整えられた庭がどこまでも広がっていた。
 ぼーっと外を眺める。
 敷地が相当広くて、隣の建物が見えないのか、建物が低くて見えないだけか。それすらも、自分にはわからなかった。この世界には、元いた世界のような高い建物がない。
 元の世界ではこんなにゆっくりと緑を眺めたり、何もしない時間を過ごしたことはなかった。

 コン、コン、コン。
 突然扉をノックする音で意識が引き戻される。
「はい」
 サイベリアンが挨拶に来たのかと思って、椅子から立ち上がり扉へと向かった。
 だが、メイドによって開けられた扉の前に立っていたのはゾイだった。
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