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3章
22 森のなか
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人も建物も多く賑わっていた帝都から、どのくらい離れたのかわからない。畑や家々が点々とする郊外の開けた長閑な眺めから変わって、窓の外は森の中を走っているようだった。
魔石のおかげで、いま走っている道が整備されているものなのか、人の行き交う街道から外れているのかもわからない。
正直なところ、健介は森にはいい思い出がなかった。
この世界に来て早々に酷い目にあったのは、このような森の中だったから。
あの森がどこかはわからないし、ここが同じ場所だとは思わないが、人気がないという点では同じだった。人も街を警備する騎士もいない森の中で、襲われたらすぐに助けを求めることも難しい。かつての自分がそうであったように。
車窓を過ぎていく木々に不安を感じる。
ふと窓の外に騎乗した騎士のような人が見えた。健介の心臓がドクンと大きく鼓動を打つ。
(あの人は……いつからいた?)
わからない。街中からずっと一緒だったのだろうか。
というか、本当に騎士なのだろうか。
騎士だとして、なぜこの馬車に並走しているのか。
この馬車はとても豪華な作りで、貴族が乗っていることは誰が見ても明らかだった。もしかしたら、騎士に扮した物盗り……なのでは?
悪い想像をし始めるときりがなかった。健介の中で不安がどんどん大きくなっていく。
先ほどまでの出ていたゾイへの緊張の冷や汗は、何か悪いことが起こるのではないかという恐怖のものへと変わって背中を伝う。
ゾイは気づいていない。
ここで休憩のために馬車を止めたりしたら、盗賊への格好のチャンスになってしまう。
「あ、あの! きゅ、休憩は……」
「ケンちゃん、どうしたの? お顔が真っ青よ?」
「い、いえ、だ……」
健介は大丈夫と言おうとして、状況が全く大丈夫ではないことを伝えなくてはならないと気づき、続く言葉を止めた。
「あ、あの」
「酔ったのかしら? 少し外の空気を吸った方がよさそうだわ」
ゾイは健介の顔色が悪いのを馬車酔いと勘違いしたのか、いますぐにでも馬車を止める勢いだ。
急いでゾイに伝えなくてはと、焦る気持ちで「い、いえ、あの、このまま」と、ゾイは心配そうな表情で健介を見て首をかしげる。
「そう? もう少し我慢できるかしら。この先に休める場所があるから」
(休める場所!)
ゾイには休憩する場所のあてがあるのだとわかり、健介は安堵した。ここで馬車をとめるより、安全な場所に着いてからの方がいいに決まっている。
「はい!」
健介は勢いよく返事をした。
ゾイはそれ以上何もいわず、御者さんに指示をだすこともしない。
勢いを落とすことなく走り続ける馬車に、心の中でほっと息をついた。だが、根本的な解決には至っていない。
ゾイに並走する不審者について、話すべきと思った。しかし、いまここでむやみに騒ぎ立てても仕方がない。騒いだところで自分ではどうすることもできないのだ。
ぐっと押し黙って、ズボンの太ももをぎゅっと握り締める。
馬車を走らせること数刻、車窓の景色は変わらず森の中だった。どこかの街に着く気配はない。にもかかわらず、馬車の速度はゆっくりとなり、とうとう停車する。
健介は手のひらにじっとりかいている汗を握り締めた。
ゾイはなぜ、こんな森の中で馬車を止めたのだろう。てっきり、しばらく走ったら次の街か村に着くものだと思ったのに──。
「あ、あ、あの……ここ……」
健介がゾイにこの場所で休憩をするつもりなのか尋ねようとした瞬間、がちゃりと馬車の扉のドアノブが何者かによって掴まれた音がした。
「ひっ」
魔石のおかげで、いま走っている道が整備されているものなのか、人の行き交う街道から外れているのかもわからない。
正直なところ、健介は森にはいい思い出がなかった。
この世界に来て早々に酷い目にあったのは、このような森の中だったから。
あの森がどこかはわからないし、ここが同じ場所だとは思わないが、人気がないという点では同じだった。人も街を警備する騎士もいない森の中で、襲われたらすぐに助けを求めることも難しい。かつての自分がそうであったように。
車窓を過ぎていく木々に不安を感じる。
ふと窓の外に騎乗した騎士のような人が見えた。健介の心臓がドクンと大きく鼓動を打つ。
(あの人は……いつからいた?)
わからない。街中からずっと一緒だったのだろうか。
というか、本当に騎士なのだろうか。
騎士だとして、なぜこの馬車に並走しているのか。
この馬車はとても豪華な作りで、貴族が乗っていることは誰が見ても明らかだった。もしかしたら、騎士に扮した物盗り……なのでは?
悪い想像をし始めるときりがなかった。健介の中で不安がどんどん大きくなっていく。
先ほどまでの出ていたゾイへの緊張の冷や汗は、何か悪いことが起こるのではないかという恐怖のものへと変わって背中を伝う。
ゾイは気づいていない。
ここで休憩のために馬車を止めたりしたら、盗賊への格好のチャンスになってしまう。
「あ、あの! きゅ、休憩は……」
「ケンちゃん、どうしたの? お顔が真っ青よ?」
「い、いえ、だ……」
健介は大丈夫と言おうとして、状況が全く大丈夫ではないことを伝えなくてはならないと気づき、続く言葉を止めた。
「あ、あの」
「酔ったのかしら? 少し外の空気を吸った方がよさそうだわ」
ゾイは健介の顔色が悪いのを馬車酔いと勘違いしたのか、いますぐにでも馬車を止める勢いだ。
急いでゾイに伝えなくてはと、焦る気持ちで「い、いえ、あの、このまま」と、ゾイは心配そうな表情で健介を見て首をかしげる。
「そう? もう少し我慢できるかしら。この先に休める場所があるから」
(休める場所!)
ゾイには休憩する場所のあてがあるのだとわかり、健介は安堵した。ここで馬車をとめるより、安全な場所に着いてからの方がいいに決まっている。
「はい!」
健介は勢いよく返事をした。
ゾイはそれ以上何もいわず、御者さんに指示をだすこともしない。
勢いを落とすことなく走り続ける馬車に、心の中でほっと息をついた。だが、根本的な解決には至っていない。
ゾイに並走する不審者について、話すべきと思った。しかし、いまここでむやみに騒ぎ立てても仕方がない。騒いだところで自分ではどうすることもできないのだ。
ぐっと押し黙って、ズボンの太ももをぎゅっと握り締める。
馬車を走らせること数刻、車窓の景色は変わらず森の中だった。どこかの街に着く気配はない。にもかかわらず、馬車の速度はゆっくりとなり、とうとう停車する。
健介は手のひらにじっとりかいている汗を握り締めた。
ゾイはなぜ、こんな森の中で馬車を止めたのだろう。てっきり、しばらく走ったら次の街か村に着くものだと思ったのに──。
「あ、あ、あの……ここ……」
健介がゾイにこの場所で休憩をするつもりなのか尋ねようとした瞬間、がちゃりと馬車の扉のドアノブが何者かによって掴まれた音がした。
「ひっ」
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