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 それでわざと油断をさせておいて、とも考えられるが、女の態度やクライヴに向けられた戸惑いの強い視線を思うと、何か良くないことに巻き込まれてしまっただけの被害者であると言われた方が得心がいった。
 痛々しい腕をそっと両脇に下ろしてやり、乱れた薄いピンクのドレスを整えてから足元に畳まれてあった上掛けを胸まで引き上げてやった。
「あれ?ほどいちゃったの?」
 縛られてないと割と普通の子ね、と栗色の髪から雫をポタポタと垂らしながら、湯を浴びてきた女が言った。
 わしゃわしゃと粗雑にタオルで髪を拭く女がガウンを着ていないのにクライヴは首を傾げた。
「帰るのか?」
「帰るわよ。だってもうヤらないんでしょ?」
 ヤらないあんたなんて用なしよ用なし、と持ってきたバッグを手に取る。

「今からだったら、もう1人2人でも飛び入りで客取れるかもしんないし?」
「まだやるのか。」
 クライヴが呆れたように言うと、女は眉を釣り上げて返答してきた。
「当たり前でしょ!?足りないわよ全然!あたしが何のためにこの仕事してると思ってるの?有り余る性欲を満たすためよ!!」
「そ、そうか。」
 そういえば、いつもであれば朝までゆうに4、5回は致すところだ。クライヴからしてみれば、性欲、というよりも回数をこなさなければ魔力の凝りを解消出来ないからなのだが。
 しかし、女が嫌がるどころかむしろ喜んでいたとは。無理を強いているのではと申し訳なく思っていたがそんな心配など無用だったようだ。
「んー、髪は向こうで乾かそっかな?送ってくれる?」
 そう言うと、タオルでわしゃわしゃと髪を吹きながら部屋の隅にある陣の方へと歩きだした。
「何かすまないな。二度手間のようになってしまって。」
 女からしてみれば、クライヴ1人で性欲を満たすつもりだったのだろう。申し訳なく思う必要など全くないのだが、男として何やら情けなさも感じたりする。
 陣に入った女を確認すると、足元から魔力を極々微量流して転移陣を発動させた。
「じゃあ、また来週ね!」
 あっけらかんと笑う女には、こういう商売女に付き物の陰などは欠片も感じられない。
「あぁ。またな。」
 そう言うか言わないかの刹那で女の姿は跡形もなく消え失せた。
 クライヴはベッドに眠るもう一人の女を一瞥すると、部屋の出入り口へと向かって歩いた。扉を開けてしばし思案する。女が何かに巻き込まれた被害者であっても扉や窓に封はしておいた方がよいだろう。
 慣れた魔法を構築しながら、もう一つの問題にクライヴは頭を悩ませる。
 幼なじみでもあるクライヴ付の家令兼従者は容赦がない。この事態をどう説明したものか。
 眉間の皺を揉みほぐしながら翌朝に待ち受ける苦難を思いながらクライヴは大きくため息をついた。
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