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 答えの出ない問いがぐるぐると頭をまわる。
 お腹はあまり空いていなかったが、とろりとした卵に誘われ一匙すくい口に入れる。
 甘じょっぱい味付けが舌に広がるのでパンも手にとり
 ちぎって口に放り込んだ。
 パンで卵の味が薄まったのでフォークでベーコンらしきものをさして齧る。
 肉の脂がパンと卵と合わさって。

 とても、おいしかった。

 漫然と咀嚼しながら佳奈は俯く。
 今のこの状況は、良い状況だろう。
 少なくとも、あのまま車で連れていかれるよりは、よほど。
 まぁ、今のところは、ではあるが。
 でも、それなら、奈々は。
 今、どうしているだろうか。
 佳奈と同じように、こんな場所でご飯が食べられていればよいが。
 もしも佳奈だけが逃げて、奈々だけがあそこに取り残されていたとしたら。
 佳奈はブルリと身震いした。


 そんなことは、考えたくもなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


「あれは何ですか。」
 入室の返事を待つこともなく開けられた扉に顔をしかめて視線を向けると、クライヴが信頼する執事がそこに立っていた。
 扉は音もなく既に閉められている。
「何、って?」
「だから、あれ、ですよ。」
 あの異人の女です、と眼鏡を押し上げる仕草をしながら、幼なじみの男は苛立たしげにそう答えた。
 幼少のころはもっと表情もコロコロと変わり、可愛いらしかったものを。
 4つ年下の無表情の銀髪を見返しながらクライヴはため息をついた。
 有能な男だが融通があまりきかないことと、クライヴとこの家の為にならぬものは徹底的に排除しようとすることだけが欠点だった。
「……触ったか?」
「何にですか?」
 片眉を跳ね上げて即座に返してくる男に、異人の女にだよ、と続けた。
「主人のものに触るわけないでしょう。」
「……俺のものってわけでもないんだけどな。」
 クライヴは頬杖をついて、真面目に答える執事を見返した。
 触れていないのは、この執事の態度を見ればわかる。
 こいつも、ザラも、魔術師だ。
 少しでもあの女に触れていれば、その異常性に気づかないわけはないし、気づいたとしたら、こんなに落ち着いていられるわけもないのだ。
「あなたのものでないのなら、あれは捨てても構わないので?」
 渋面を隠すことなくそう提案してくるザラに頭痛を覚える。
 捨てる、ときたか。
「彼女の今後はまだ未定だ。しばらくあのまま面倒見てくれるか?」
「……あれは、昨夜の商売女ではないのですか?」
「商売女という言い方はするなと、何度言えばいい?」
「……失礼しました。」
 本当に悪いとは思っていない表情で目礼してくるザラに、嘆息する。
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