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5話
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ルイ達との食事であっという間に音を上げた俺は、その後レイモンに付き添われて大いにリバースし、自宅で屍のようにソファーに倒れ込んだ。
レイモンは介抱のために泊まっていってもいいよと言ってくれたが、あの場から連れ出してくれただけで、十分に助けられた。
「一人で大丈夫そうだ」と言った俺に、レイモンは何も聞かず「いつでも呼んで」と言って、帰っていった。
レイモンに救われた。
冷たい暗闇に突き落とされそうになっても、レイモンの心配そうな顔が浮かんで、俺は一人じゃないと思えた。
俺はいつの間に、こんなにいい友人を持ったのだろう……
明けて使節団来訪三日目は、王都を出て近隣の領地を案内する工程になっていた。
昨日の今日だが、揺れる馬車に耐えられるくらいには、俺の体調は回復していた。
気になるのは、今朝見たルイの様子がどこか具合が悪そうだったことだ。
どうしたというのだろうか?
あの店に限って、食当たりなんてことはないと思うのだが……
それからルイと話す機会もなく、使節団最終日の四日目になってしまった。
ガルムナンドの国王も参加するこの晩餐会で、俺の通訳の仕事も完了だ。
大ホールのシャンデリアの光の下、エブラの白い騎士装束に身を包んだルイは、それはもう、かっこいい。
余裕のある佇まいに色気が相まって、ゆったりとグラスを持つその手に、思わず抱かれたいという衝動が込み上げる。
でもよく見ていると、ルイはふとした瞬間に硬い顔で宙を見つめている。
もしかして、あの後エディトさんと喧嘩でもしてしまったのだろうか?
何となく、二人がよそよそしい気もする。
俺、二人が喧嘩して、ちょっと喜んでいる?
醜いな……
次から次へと使節団に挨拶に来る人々の通訳をしていたら、あっという間に晩餐会は終了し、俺は使節団の方々をホールの出口でお見送りした。
お辞儀を上げると、目の前に一人、ルイが残っていた。
素直に嬉しいと思う。
この後二週間の休暇をとっていると言っていたが、何も聞いていない。きっとエブラに帰るのだろう。
これで本当に、ルイと話すのは最後になるかもしれない。
「サシャ、ちょっと話してもいいか?」
そう言ったルイの表情が硬くて、少し心配だ。
「庭園でも歩こう」
俺達は、そのまま月明かりの庭園に足を進めた。
少し遠ざかったホールから漏れ出る光がぼんやりと輝き、夜露を纏い始めた庭園はしっとりとして、すごくロマンチックな雰囲気だ。
性懲りも無く俺の頭は、この薄暗闇でルイと手を繋げたら……などと、虚しい妄想を繰り返す。
俺は、ルイの友情をずっと裏切り続けている。
あいつが真っ直ぐに差し出す手をやましい目で見、あげく耐えられなくなって逃げた。
なんで俺は男が好きなんだろうな。
俺が女性を愛せたら、きっとルイとは最高の友人でいられただろうに。
蔦の這うガゼボのところまで来ると、隣を歩いていたルイが立ち止まった。
「……サシャ」
こちらを見るルイの目が、何か思い詰めているようにも見える。
「……サシャは、本当は俺のことが嫌いだったのか?」
「え?」
思いもかけない言葉に、頭が混乱する。
どうしてそんな勘違いが起きる?
……そうか……
俺がルイから逃げたから。
そうだよな……
避けられるルイの気持ちなんて、考えたことも無かった。
「そんなことは絶対ない! 俺がルイのことを嫌うなんて、ありえない」
俺の必死な言葉を、ルイは訝しげな表情で見返した。
「じゃぁ、何でエブラから消えた?」
「……それは、お前には話せない……」
言える訳がないだろう。
俺はお前をそういう目で見ている。いやらしい目で見ているんだ。
恋人に嫉妬するし、何ならお前を裸のまま拘束して、快楽に勃ち震えるペニスを見たいとも思ってしまう。
俺の頭はポンコツなんだ。
どんなに律しようとしても、この衝動は抑えられない。
こんな俺の劣情がお前に向いていることがバレたら、それこそこの世の終わりだ。
どうしようもないジレンマに苦しむ俺に、ルイは爆弾を落とした。
「サシャ、お前男が好きなんだってな」
ルイが放ったその一言は、俺の頭を殴打し、全ての思考がストップした。
――何でバレた?
――この国で噂を聞いてしまった?
咄嗟のごまかしもできず、怯え固まる俺を、ルイは真剣な表情で見つめた。
「俺はそんなことは気にしない。何で話てくれなかった?」
…………
あれ? 気にしない?
……もしかして、ルイはこの気持ちがルイに向くなんてことを全く想定してないのか?
え? 助かった?
助かったのか?
「……気持ち悪くないか? こんなの……」
「俺がサシャを否定するなんて、そんなことありえない」
そう自信満々に言うルイに、ずっと抱えてきた重いものがスッと消えていくのを感じた。
「ルイ……悪かった。何も言わずにエブラを去って……」
「……サシャは結構、臆病だからな」
ルイが泣きたいのか笑いたいのか分からない変な顔で、俺の肩をギュッと引き寄せた。
あぁ、よかった……
俺のこと、気持ち悪くないって……
そうか、初めから話しておけばよかったのか……
そうだよな。ルイだったら、大丈夫だったんだ……
あぁ、よかった……
これからも俺は、ルイの友人でいられる……
「……? サシャ、お前なんか甘い香りがする?」
ルイは俺を引き寄せていた腕をほどき、不思議そうな顔をした。
俺は笑顔でルイを見返した。
「あぁ。俺の魔力は甘いらしい」
レイモンは介抱のために泊まっていってもいいよと言ってくれたが、あの場から連れ出してくれただけで、十分に助けられた。
「一人で大丈夫そうだ」と言った俺に、レイモンは何も聞かず「いつでも呼んで」と言って、帰っていった。
レイモンに救われた。
冷たい暗闇に突き落とされそうになっても、レイモンの心配そうな顔が浮かんで、俺は一人じゃないと思えた。
俺はいつの間に、こんなにいい友人を持ったのだろう……
明けて使節団来訪三日目は、王都を出て近隣の領地を案内する工程になっていた。
昨日の今日だが、揺れる馬車に耐えられるくらいには、俺の体調は回復していた。
気になるのは、今朝見たルイの様子がどこか具合が悪そうだったことだ。
どうしたというのだろうか?
あの店に限って、食当たりなんてことはないと思うのだが……
それからルイと話す機会もなく、使節団最終日の四日目になってしまった。
ガルムナンドの国王も参加するこの晩餐会で、俺の通訳の仕事も完了だ。
大ホールのシャンデリアの光の下、エブラの白い騎士装束に身を包んだルイは、それはもう、かっこいい。
余裕のある佇まいに色気が相まって、ゆったりとグラスを持つその手に、思わず抱かれたいという衝動が込み上げる。
でもよく見ていると、ルイはふとした瞬間に硬い顔で宙を見つめている。
もしかして、あの後エディトさんと喧嘩でもしてしまったのだろうか?
何となく、二人がよそよそしい気もする。
俺、二人が喧嘩して、ちょっと喜んでいる?
醜いな……
次から次へと使節団に挨拶に来る人々の通訳をしていたら、あっという間に晩餐会は終了し、俺は使節団の方々をホールの出口でお見送りした。
お辞儀を上げると、目の前に一人、ルイが残っていた。
素直に嬉しいと思う。
この後二週間の休暇をとっていると言っていたが、何も聞いていない。きっとエブラに帰るのだろう。
これで本当に、ルイと話すのは最後になるかもしれない。
「サシャ、ちょっと話してもいいか?」
そう言ったルイの表情が硬くて、少し心配だ。
「庭園でも歩こう」
俺達は、そのまま月明かりの庭園に足を進めた。
少し遠ざかったホールから漏れ出る光がぼんやりと輝き、夜露を纏い始めた庭園はしっとりとして、すごくロマンチックな雰囲気だ。
性懲りも無く俺の頭は、この薄暗闇でルイと手を繋げたら……などと、虚しい妄想を繰り返す。
俺は、ルイの友情をずっと裏切り続けている。
あいつが真っ直ぐに差し出す手をやましい目で見、あげく耐えられなくなって逃げた。
なんで俺は男が好きなんだろうな。
俺が女性を愛せたら、きっとルイとは最高の友人でいられただろうに。
蔦の這うガゼボのところまで来ると、隣を歩いていたルイが立ち止まった。
「……サシャ」
こちらを見るルイの目が、何か思い詰めているようにも見える。
「……サシャは、本当は俺のことが嫌いだったのか?」
「え?」
思いもかけない言葉に、頭が混乱する。
どうしてそんな勘違いが起きる?
……そうか……
俺がルイから逃げたから。
そうだよな……
避けられるルイの気持ちなんて、考えたことも無かった。
「そんなことは絶対ない! 俺がルイのことを嫌うなんて、ありえない」
俺の必死な言葉を、ルイは訝しげな表情で見返した。
「じゃぁ、何でエブラから消えた?」
「……それは、お前には話せない……」
言える訳がないだろう。
俺はお前をそういう目で見ている。いやらしい目で見ているんだ。
恋人に嫉妬するし、何ならお前を裸のまま拘束して、快楽に勃ち震えるペニスを見たいとも思ってしまう。
俺の頭はポンコツなんだ。
どんなに律しようとしても、この衝動は抑えられない。
こんな俺の劣情がお前に向いていることがバレたら、それこそこの世の終わりだ。
どうしようもないジレンマに苦しむ俺に、ルイは爆弾を落とした。
「サシャ、お前男が好きなんだってな」
ルイが放ったその一言は、俺の頭を殴打し、全ての思考がストップした。
――何でバレた?
――この国で噂を聞いてしまった?
咄嗟のごまかしもできず、怯え固まる俺を、ルイは真剣な表情で見つめた。
「俺はそんなことは気にしない。何で話てくれなかった?」
…………
あれ? 気にしない?
……もしかして、ルイはこの気持ちがルイに向くなんてことを全く想定してないのか?
え? 助かった?
助かったのか?
「……気持ち悪くないか? こんなの……」
「俺がサシャを否定するなんて、そんなことありえない」
そう自信満々に言うルイに、ずっと抱えてきた重いものがスッと消えていくのを感じた。
「ルイ……悪かった。何も言わずにエブラを去って……」
「……サシャは結構、臆病だからな」
ルイが泣きたいのか笑いたいのか分からない変な顔で、俺の肩をギュッと引き寄せた。
あぁ、よかった……
俺のこと、気持ち悪くないって……
そうか、初めから話しておけばよかったのか……
そうだよな。ルイだったら、大丈夫だったんだ……
あぁ、よかった……
これからも俺は、ルイの友人でいられる……
「……? サシャ、お前なんか甘い香りがする?」
ルイは俺を引き寄せていた腕をほどき、不思議そうな顔をした。
俺は笑顔でルイを見返した。
「あぁ。俺の魔力は甘いらしい」
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