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最後の春 9
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さてとりあえず。
皆にどう言って誤魔化そうかと、考えた結果。
殆どが俺の部屋でのやりとりだったから、皆はサヤが部屋に篭ってしまった経緯については知らない。
だから色々がはっきりするまでは、何も問題となることは無かったとしてしまう方が良いかなと、そう思ったのだ。
「貴方……最低ね……」
「そりゃまぁ……不安にも思いますよねぇ」
クララの冷たい視線と、ユストの非難の声……。
「いや、いつまで伏せてるつもりだろうとは思っていたが、まさか当日までのつもりだったとはな……」
「それは些か……準備は何も、道具類に関することばかりではありませんからね」
呆れたように言うギルに、心の準備が一番重要ですよと、やんわり苦言を呈してきたクロード。
「まぁ、一式ちゃんと揃えてからって思ってたのは仕方がないのじゃないかしら?」
「色々とやらなきゃいけないことが急に増えて、バタバタしてましたしねぇ」
とりあえず擁護してくれたヨルグとエヴェラルド。
「喧嘩になっては本末転倒では?」
容赦しないハイン……。
サヤが部屋に引きこもってしまった原因。
それを、ちょっとした些細な言葉のやり取りで引っ掛かり、婚姻に向けての不安が高まったためということにしたのだ。
そうしたらこれだ……。俺が、サヤとの婚礼は当日まで内緒だと思い込んでいたというのもあり、非難の嵐である。
いやだって、サプライズって言ったじゃん……。皆も乗り気だったくせに!
「要するに、婚姻前の憂鬱に襲われていたわけですね!」
「あー、それね。本当にあるのねそういうの」
訳知り顔でうんうんと頷きつつの、ルーシーとクララのやり取り。婚姻前の憂鬱とはなんぞや? と、耳を傾けてみたところ……。
婚姻が近付くにつれ、本当にこの人と結婚して良いものか……夫婦になれるのかと不安が高まってしまうことで、婚姻を目前にした女性が襲われる心境であるそう……何それ、知らないんですけど。
すると、執務室を訪れていたナジェスタが……。
「よくあるよー。婚姻前の、女性特有の気の病気。貴族様だと医師にかかる人も多いもん」
「え、そうなの?」
そんなことで? と、顔に書いてあったのか、ナジェスタの視線まで冷たくなる……。甘く考えてるんじゃないわよと言わんばかり。
「そう。でも馬鹿にできないんだよ。拗れて自殺未遂とかにまで発展する場合もあるし……」
「じ、自殺⁉︎」
「仕方ないよ。家同士の契約的な婚姻だと特にそうだけど、女性の意思って誰の眼中にも無いんだもの」
「あぁ……憂鬱にもなりますよね……」
苦笑するウーヴェの隣でリタがうんうんと訳知り顔で頷く。
リタも結婚していないのだから、分かるわけもないのだが……。
ていうか、同居だし仕事も一緒だし……もう夫婦同然だと思うのに、何故婚姻を結ばないのか……。
「サヤさんは大丈夫だと思ってたけど、生活環境の変化はやっぱりあるし、不安になったのね。
良かったら、気持ちが落ち着く薬湯とか、処方するよ?」
「い、いえ……そこまででは……」
なんでこんな話になってるんだろう? と、目を白黒させていたサヤは、いまいち状況についていけていない様子。
いや、俺もサラッと済ませて終わるつもりで口にした言い訳だったのに……まさかの大惨事である。
と、そこでずいと口を挟んできたのは、ルーシー。
「いやいや、ここはもっと効果的な処方箋がありますよ!」
とても自信があるのだと、鼻高々に言う。
「婚姻の不安が吹き飛ぶ処方箋?」
「そうです! レイ様がいかにサヤさんを大切に想っているかが身に染みるので、効果抜群だと思います!」
サプライズは今! とばかりに鼻息が荒いルーシー。これはつまり、あれが完成した?
「ええ! 全部完成しましたから、お持ちしましょう! 是非着ていただきたいです。大きさも確認したいですし!」
と、いうわけで。
研修生らが到着したら忙しくなってそれどころではないだろうと、急遽婚儀の衣装合わせとなった。
え、嘘。本気? と、俺も混乱の渦中に放り込まれる。
「俺は当日だけで良いんじゃ⁉︎」
「当日は感動なんてしていられませんよ。儀式ごとに追われるんですから。
サヤの麗しい姿を堪能するのすら無理ですよ」
「真横にいるのに⁉︎」
婚姻ってそんなに結構な儀式⁉︎
決まっているじゃありませんか。と、呆れ声のハインに引き摺られて、俺は着付け会場と化した会議室に設置された小部屋に押し込まれた。
えええぇぇぇ、麗しいサヤは当日の楽しみに取っておきたかったのに……。
「それもそうですね。そうしましょうか。
我々は見させていただきますが、レイシール様は当日までおあずけということで」
「い、嫌だ! 俺も見るっ!」
そんな会話をしている間にも、衣服を剥ぎ取られ、用意された白一式の礼服に、俺も袖を通す。
若干の濃淡はあるけれど、上着から靴に至るまで、悉く白い。サヤが着飾る分には美しいけれど、俺が白一色って奇天烈過ぎではなかろうか?
「ほぅ。サヤだけ真っ新から始めさせると?」
「ごめんなさい。俺が間違ってました……」
俺たち二人の婚姻だものな。当然そうあるべきだった。
そんなやりとりをしている間に、俺の着替えは順調に進んだ。
ギルがやって来て、細々とした部分を確認していく。
「大きさは問題無いか……。
けど、お前の方に関しては、多少金系で刺繍を施した方が良いかもな。
髪も銀だし……メリハリが無いというか、少々ぼやける」
「白一色に拘るべきなのでしょう?」
「刺繍や差し色程度なら色を使うって話だぞ。まぁあまり目立たないものであるようだから、……縁取り程度にするけどな」
「ならば襟飾を金にしてはどうですか。当日も飾るのでしょうし」
「うん……それくらいなら良いかな」
ギルとハインに挟まれ、正直俺は蚊帳の外という状態での会話……。
俺の婚姻なのに、誰も俺の意見を求めない……。いや、どうせ任せるしか言わないって分かってるんだろうけども、なんかなぁ……。
そんなやりとりをしていた俺たちの所に、「キャー!」「凄い、本当に真っ白なのね!」といった、何やら賑やかなのが聞こえてくる。
同じく小部屋に連れ込まれたサヤたちだろうが、全然関係ないナジェスタの声まで聞こえてくるのはどういうことだろう……。
そのうち、綺麗! とか、良いわねー! とか、なんだか盛り上がっている女性陣の声が聞こえてきだした。
因みに良いわねー! は、男性の声……ヨルグだ。くそっ、先を越された……っ。
そうこうしてる間に、昼食できてるよーと、当番のテイクまでやって来て……。
「嘘ーっ、やだーっ、超似合ってるかわいいいぃぃ!」
という、些か如何わしい奇声まで聞こえてきた。何故か裏声。
「なぁ、まだ⁉︎」
「もうちょっとくらい待て馬鹿野郎。ほら、両腕肩の高さに上げる」
「早くしないとサヤ脱いじゃうんじゃ⁉︎」
「早く済ませたいなら指示に従ってください」
お前ら俺に冷た過ぎだろ⁉︎
結局、俺の衣装をああでもないこうでもないと言い合う時間は更に続き……。
サヤが純白の花嫁衣装を着ている姿を、俺は見逃した…………。
「酷過ぎる!」
「当日の楽しみができたではないですか」
ハインの鬼!
皆にどう言って誤魔化そうかと、考えた結果。
殆どが俺の部屋でのやりとりだったから、皆はサヤが部屋に篭ってしまった経緯については知らない。
だから色々がはっきりするまでは、何も問題となることは無かったとしてしまう方が良いかなと、そう思ったのだ。
「貴方……最低ね……」
「そりゃまぁ……不安にも思いますよねぇ」
クララの冷たい視線と、ユストの非難の声……。
「いや、いつまで伏せてるつもりだろうとは思っていたが、まさか当日までのつもりだったとはな……」
「それは些か……準備は何も、道具類に関することばかりではありませんからね」
呆れたように言うギルに、心の準備が一番重要ですよと、やんわり苦言を呈してきたクロード。
「まぁ、一式ちゃんと揃えてからって思ってたのは仕方がないのじゃないかしら?」
「色々とやらなきゃいけないことが急に増えて、バタバタしてましたしねぇ」
とりあえず擁護してくれたヨルグとエヴェラルド。
「喧嘩になっては本末転倒では?」
容赦しないハイン……。
サヤが部屋に引きこもってしまった原因。
それを、ちょっとした些細な言葉のやり取りで引っ掛かり、婚姻に向けての不安が高まったためということにしたのだ。
そうしたらこれだ……。俺が、サヤとの婚礼は当日まで内緒だと思い込んでいたというのもあり、非難の嵐である。
いやだって、サプライズって言ったじゃん……。皆も乗り気だったくせに!
「要するに、婚姻前の憂鬱に襲われていたわけですね!」
「あー、それね。本当にあるのねそういうの」
訳知り顔でうんうんと頷きつつの、ルーシーとクララのやり取り。婚姻前の憂鬱とはなんぞや? と、耳を傾けてみたところ……。
婚姻が近付くにつれ、本当にこの人と結婚して良いものか……夫婦になれるのかと不安が高まってしまうことで、婚姻を目前にした女性が襲われる心境であるそう……何それ、知らないんですけど。
すると、執務室を訪れていたナジェスタが……。
「よくあるよー。婚姻前の、女性特有の気の病気。貴族様だと医師にかかる人も多いもん」
「え、そうなの?」
そんなことで? と、顔に書いてあったのか、ナジェスタの視線まで冷たくなる……。甘く考えてるんじゃないわよと言わんばかり。
「そう。でも馬鹿にできないんだよ。拗れて自殺未遂とかにまで発展する場合もあるし……」
「じ、自殺⁉︎」
「仕方ないよ。家同士の契約的な婚姻だと特にそうだけど、女性の意思って誰の眼中にも無いんだもの」
「あぁ……憂鬱にもなりますよね……」
苦笑するウーヴェの隣でリタがうんうんと訳知り顔で頷く。
リタも結婚していないのだから、分かるわけもないのだが……。
ていうか、同居だし仕事も一緒だし……もう夫婦同然だと思うのに、何故婚姻を結ばないのか……。
「サヤさんは大丈夫だと思ってたけど、生活環境の変化はやっぱりあるし、不安になったのね。
良かったら、気持ちが落ち着く薬湯とか、処方するよ?」
「い、いえ……そこまででは……」
なんでこんな話になってるんだろう? と、目を白黒させていたサヤは、いまいち状況についていけていない様子。
いや、俺もサラッと済ませて終わるつもりで口にした言い訳だったのに……まさかの大惨事である。
と、そこでずいと口を挟んできたのは、ルーシー。
「いやいや、ここはもっと効果的な処方箋がありますよ!」
とても自信があるのだと、鼻高々に言う。
「婚姻の不安が吹き飛ぶ処方箋?」
「そうです! レイ様がいかにサヤさんを大切に想っているかが身に染みるので、効果抜群だと思います!」
サプライズは今! とばかりに鼻息が荒いルーシー。これはつまり、あれが完成した?
「ええ! 全部完成しましたから、お持ちしましょう! 是非着ていただきたいです。大きさも確認したいですし!」
と、いうわけで。
研修生らが到着したら忙しくなってそれどころではないだろうと、急遽婚儀の衣装合わせとなった。
え、嘘。本気? と、俺も混乱の渦中に放り込まれる。
「俺は当日だけで良いんじゃ⁉︎」
「当日は感動なんてしていられませんよ。儀式ごとに追われるんですから。
サヤの麗しい姿を堪能するのすら無理ですよ」
「真横にいるのに⁉︎」
婚姻ってそんなに結構な儀式⁉︎
決まっているじゃありませんか。と、呆れ声のハインに引き摺られて、俺は着付け会場と化した会議室に設置された小部屋に押し込まれた。
えええぇぇぇ、麗しいサヤは当日の楽しみに取っておきたかったのに……。
「それもそうですね。そうしましょうか。
我々は見させていただきますが、レイシール様は当日までおあずけということで」
「い、嫌だ! 俺も見るっ!」
そんな会話をしている間にも、衣服を剥ぎ取られ、用意された白一式の礼服に、俺も袖を通す。
若干の濃淡はあるけれど、上着から靴に至るまで、悉く白い。サヤが着飾る分には美しいけれど、俺が白一色って奇天烈過ぎではなかろうか?
「ほぅ。サヤだけ真っ新から始めさせると?」
「ごめんなさい。俺が間違ってました……」
俺たち二人の婚姻だものな。当然そうあるべきだった。
そんなやりとりをしている間に、俺の着替えは順調に進んだ。
ギルがやって来て、細々とした部分を確認していく。
「大きさは問題無いか……。
けど、お前の方に関しては、多少金系で刺繍を施した方が良いかもな。
髪も銀だし……メリハリが無いというか、少々ぼやける」
「白一色に拘るべきなのでしょう?」
「刺繍や差し色程度なら色を使うって話だぞ。まぁあまり目立たないものであるようだから、……縁取り程度にするけどな」
「ならば襟飾を金にしてはどうですか。当日も飾るのでしょうし」
「うん……それくらいなら良いかな」
ギルとハインに挟まれ、正直俺は蚊帳の外という状態での会話……。
俺の婚姻なのに、誰も俺の意見を求めない……。いや、どうせ任せるしか言わないって分かってるんだろうけども、なんかなぁ……。
そんなやりとりをしていた俺たちの所に、「キャー!」「凄い、本当に真っ白なのね!」といった、何やら賑やかなのが聞こえてくる。
同じく小部屋に連れ込まれたサヤたちだろうが、全然関係ないナジェスタの声まで聞こえてくるのはどういうことだろう……。
そのうち、綺麗! とか、良いわねー! とか、なんだか盛り上がっている女性陣の声が聞こえてきだした。
因みに良いわねー! は、男性の声……ヨルグだ。くそっ、先を越された……っ。
そうこうしてる間に、昼食できてるよーと、当番のテイクまでやって来て……。
「嘘ーっ、やだーっ、超似合ってるかわいいいぃぃ!」
という、些か如何わしい奇声まで聞こえてきた。何故か裏声。
「なぁ、まだ⁉︎」
「もうちょっとくらい待て馬鹿野郎。ほら、両腕肩の高さに上げる」
「早くしないとサヤ脱いじゃうんじゃ⁉︎」
「早く済ませたいなら指示に従ってください」
お前ら俺に冷た過ぎだろ⁉︎
結局、俺の衣装をああでもないこうでもないと言い合う時間は更に続き……。
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