これは報われない恋だ。

朝陽天満

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227、寝ぼけてる姿も可愛い。好き

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「古代魔道語スキルゲットした」



 昼休み、雄太と増田からそう報告を受けた。

 さすがセイジさん。あの人が助言をくれるとそれがスキルになるからすごいよね。



「それにしてもさ、何で郷野はあんな「祈り」スキルなんて覚えてるの? あれ、一時掲示板で「取得がヤバいスキル」にランクインしてたんだよ。もしかして教会に通った?」

「馬鹿だな増田。健吾は教会をぶっ潰した本人だって言ったろ」

「そうなんだけどさ。だって「祈り」って基本教会でしか取れないスキルじゃん」

「あれじゃね? 健吾の事だからそこら辺の野良司祭でもたぶらかして教えて貰ったんじゃね?」



 なんか雄太酷いこと言ってる気がする。たぶらかすってなんだよ。

 野良司祭って。



「穢れた魔物が出たやつあったじゃん。クエストの。あれで村中の人が穢された場所があってさ、そこに手伝いに行ったら、そこで村の人を癒してる人がいたからその人を手伝ってたら報酬代わりに「祈り」を教えて貰っただけだよ。その人は前に教会の教えが合わなくなったからって抜けた人なんだけどね」



 祈りの経緯を教えると雄太と増田がすごく変な顔をした。「まさかの野良司祭たぶらかしが本当だったなんて……」とか呟いてるけど増田、野良司祭なんていないから。

 自分で調薬に必要な物とか作れるの、本当に便利なんだよ。



「でも普通は「祈り」って下位スキルだろ? 何であのダンジョンの主は浄化したんだろうな」

「そうだよな。不思議だよな」



 二人がうーんと唸ってるけど、それは俺も思った。

 「祈り」って解呪とか浄化とかよりずっとランクが落ちる取るのも簡単スキルじゃなかったっけ。

 魂の浄化とかそんなレベル高いことは出来なかったはず。でも穢れをとれる聖水を作れるから、実は効果は高いのかな?

 それとも昨日はなんか条件が重なって偶然あんな風になったのかな。なんかそれの方がしっくりくる。



「これからは郷野はあの短剣で魔物を倒すの?」



 俺はニコニコと訊いてくる増田に首を横に振ることで答えた。あの短剣、綺麗になる前の短剣より攻撃力が減ってるんだよ。何かの儀式用って書いてあったから、攻撃に使っちゃダメなやつじゃないのかな。

 攻撃力も俺が必死で振り回してる剣とそんなに変わりないし。でも俺、聖魔法を使う様な儀式ってしないんだけど。だって薬師兼錬金術師だよ。どこに儀式があるんだろう。これが司祭とか僧侶とかそっちの方なら話は別なんだけどね。



「でもこれで、俺らも変なもんをわんさか見つけられるかもな」



 ししし、と笑う雄太は、とてつもない期待を古代魔道語に抱いているらしい。

 見つかるといいね。古代魔道語ギミック。

 その後通常授業を受けてしっかり夕方まで学校にいた俺は、帰り道、雄太に今まで見つけた古代魔道語ギミックを一つ一つ説明しながら帰路に着いたのだった。







 ログインして、伸びをする。

 やりたいことレベル上げたいことが沢山ありすぎてどこから手を付けていいかわからないよ。

 って時はヴィデロさんの補充をして気力を溜めてから作業だよな。

 ヴィデロさんにプレゼントされたクリーム色のローブを羽織り、工房を出る。

 門に向かう途中、獣人アバターのプレイヤーが腰に大きな剣を下げて歩いているのが目に入った。

 ドーベルマン風の犬のアバターのプレイヤーは、隣に並んだ人族に耳だけ生やしたようなアバターのプレイヤーと楽しそうに話をしながら歩いている。

 街を歩く住人達も、すでに獣人アバターの姿を見慣れたのか、普段と変わらない態度ですれ違う。

 宰相の、異邦人で差別をなくすという目論見は、かなりいい感じで浸透しているらしい。きっとエミリさんが皆に姿を見せてフレンドリーに接しているっていうのも種族の壁を薄くしているのに一役買ってるのかもしれない。

 早く石像がいらない時代になればいいのに。

 そうすれば、堂々とユイルと遊べるのに。



 そんなことを考えてるうちに、いつの間にやら門の前に着いていた。

 今日の門番さんは、名前の知らない人だ。ヴィデロさんじゃない。



「ようマック。どうしたんだ? そんなにぼんやり歩いてたら転ぶぞ」

「こんばんわ。今日はヴィデロさんじゃないんですね」

「ヴィデロは昼で交代したよ。今部屋にいるから、行ってみるか?」

「そんなすんなり通していいんですか?」

「え、ダメなのか?」



 いや俺に訊かれても。

 ほらよ、と詰所に入るドアを開けてもらって、そっと中に入る。

 案内なく入るのってちょっとドキドキする。

 皆が休憩している食堂を通って勝手に奥の個室に通じるドアを潜っていいのかな。

 とそっと覗き込むと、ロイさんが他の人と談笑していた。



「ロイさん」



 そっと声を掛けると、すぐに気付いたロイさんが「お」と言って手招きしてくれた。



「今日は夜這いか? ヴィデロを呼び出す鐘が鳴らなかったけど」

「夜這いってなんだよ。来たらそのまま通してくれたから、いいのかなと思いつつ入ってきたんだけど、ダメだった?」

「ダメじゃねえよ。遠慮するなよ」



 周りの人もにこやかに招き入れてくれたので、安心する。

 でも、ここ座れよって椅子を引かれても、俺はヴィデロさんを見に来たわけで。



「ヴィデロは部屋だぜ」

「このままヴィデロさんの所に行っても大丈夫なの?」

「マックなら大歓迎だろ。部屋、わかるか?」

「うん、多分。何度か行ってるから」

「夜這い頑張れ」



 にこやかにそんなことを言うロイさんと、今度は俺らとも遊ぼうぜという名も知らぬ門番さんに手を振られながら、俺は奥に向かった。

 マップには通ったことのある道しか記されないから、マップを頼りに進めばヴィデロさんの部屋に直通なんだ。だから同じようなドアが並んでいても、ここだけは迷わないんだ。

 廊下を歩き、曲がって進み、そして、一つだけ表示された部屋の前に立つ。

 コンコン、とノックしても返事はなかった。



「ヴィデロさん……?」



 声を掛けても返事がない。

 あれ、いないのかな。それとも部屋が違う……ってわけじゃないよな。寝てるのかな。

 ドアノブを回すと、カチャ、と簡単にドアが開いた。これ、勝手に入ったら不法侵入?

 もしかして、何か後遺症とかあるのかな。

 ヴィデロさん、ちゃんと魔物の気配とかしたらすぐ目を覚ますはずなのに。

 少し心配になってそっとドアの中を覗いたら、ちらりと見えるベッドの横から、足が見えた。

 やっぱり寝てるのかな?



 そっと中に入って心の中で「ごめんなさい」と謝ってドアを閉め、奥に足を進めると、ヴィデロさんがベッドの上で寝ていた。横には本が置いてある。読んでて寝ちゃったのかな。可愛い。好き。

 しかも普通にベッドに転がってるんじゃなくて、横向きに、足を半分ベッドからはみ出して床に垂れ下げるように寝てるのが、なんか可愛い。

 光が眩しかったのか、腕で目元を隠しながらも寝息をたてているヴィデロさんの姿は、俺の胸を直撃した。

 規則的に上下してる胸筋、少しだけ乱れた金髪、本に片手を掛けたまま投げ出された腕、なんかもう、どれをとってもきゅんとする。

 俺はそっとヴィデロさんに近づくと、そっと顔を覗き込んだ。

 熟睡中かな。

 ベッドの横に立って、悶えながらヴィデロさんを見下ろす。

 流石にいたずらしたら起きちゃうかな。

 ロイさんが言ったように、夜這いしちゃおうかな。

 最近なかなか二人でゆっくりできなかったから。

 たまには俺がヴィデロさんを見下ろすのもいいかもしれない。ちょっと興奮する。

 細胞活性剤、持って来ればよかった。



 緩む顔をそのままに、俺はそっとブーツを脱いでヴィデロさんのベッドに登った。

 少しだけベッドが沈んだ瞬間、ヴィデロさんの腕が俺の腰を掴んでいた。



「……マック、まだ早い……」



 起きたと思ったヴィデロさんは、そんなことを呟いて俺を引き寄せ、横に転がした。その間、目はつぶったまま。

 ね、寝ぼけてる……!



「か、かわ……!」



 思わず叫びそうになって、ハッとして口を手で押さえる。

 でも、可愛い! 寝ぼけたヴィデロさんほんと可愛い! 好き!

 このまま横でヴィデロさんの胸筋と上腕二頭筋を堪能したい! 

 ヴィデロさんは手探りで毛布を掴み、そっと俺にかけて、そのまま俺の方に身体を向けて俺を抱きしめてからポンポンとすると、また規則正しい呼吸に戻った。

 ああもう! 可愛すぎてどうしよう。しかも抱き着かれたし。動けない。けど至福。

 俺もそっとヴィデロさんの背中に腕を回すと、間近な美形の寝顔を堪能すべく、荒くなった鼻息を必死で抑えることにした。





 いつの間にやら一緒に寝ちゃってたらしい俺は、「……マック?」という声と共に意識を浮上させた。

 目を開けると、驚いたように俺を見ているヴィデロさんが目の前にいた。



「……え、何で……?」なんて戸惑ってるヴィデロさんが可愛い、と目覚めの一発で顔をにやけさせた俺は、転がったままヴィデロさんの胸に顔を埋めた。



「顔を見に来たんだけど、何故か中に通して貰って部屋に不法侵入したら、ヴィデロさんが寝てたから夜這いしようと思ったんだけど、ぎゅっとされてついつい一緒に寝ちゃった」

「夜這い……?」



 ちらりと見える時間は、あと2時間もするとログアウトを知らせるタイマーが鳴る時間だった。俺、ヴィデロさんの胸に包まれて3時間くらい寝ちゃってたんだ。幸せでした。ログアウトしなくてよかった。

 ヴィデロさんは起きちゃったけど、まだあと2時間あるから、夜這い再開しようかな。

 自分の部屋であることを確認しているヴィデロさんは、もしかして俺と旅してた時の夢でも見てたのかな。あの毛布を掛けてくれる手つき、前にも何度も味わったもん。好き。

 まだ混乱しているらしいのをいいことに、俺はそっと伸びてヴィデロさんにキスをした。そのままグイッと身体に力を入れて、ヴィデロさんを仰向かせる。されるがままだったヴィデロさんの上に転がって、さらにキスを降らすと、ヴィデロさんの腕が俺の腰を抱きしめた。



「すごく幸せな夢を見た気がする」

「ヴィデロさん、俺に毛布かけてくれたの憶えてる? 『まだ早い』って」

「いや、俺、そんなこと言ってたか?」

「うん」



 にやけながら暴露すると、ヴィデロさんも苦笑して、キスを返してくれた。



「きっとマックと二人でいた時間が忘れられないんだな」

「俺も」



 最近一人で寝るのがちょっと寂しいんだ。隣に抱きしめてくれるこの腕があるだけで、こんなに満たされるのに。

 ほんとに、細胞活性剤を持ってこなかったのが悔やまれる。



「今日は俺が夜這いに来たんだから、俺が襲ってもいい?」



 少しだけ身を起こしてヴィデロさんにそう言うと、ヴィデロさんは楽しそうに「マックが俺を襲ってくれるのか?」と笑った。

 襲いますとも。下手くそだけど、口でヴィデロさんのヴィデロさんを可愛がってやるよ。

 そう呟くと、ヴィデロさんは楽しそうに悲鳴を上げた。



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