144 / 744
連載
227、寝ぼけてる姿も可愛い。好き
しおりを挟む
「古代魔道語スキルゲットした」
昼休み、雄太と増田からそう報告を受けた。
さすがセイジさん。あの人が助言をくれるとそれがスキルになるからすごいよね。
「それにしてもさ、何で郷野はあんな「祈り」スキルなんて覚えてるの? あれ、一時掲示板で「取得がヤバいスキル」にランクインしてたんだよ。もしかして教会に通った?」
「馬鹿だな増田。健吾は教会をぶっ潰した本人だって言ったろ」
「そうなんだけどさ。だって「祈り」って基本教会でしか取れないスキルじゃん」
「あれじゃね? 健吾の事だからそこら辺の野良司祭でもたぶらかして教えて貰ったんじゃね?」
なんか雄太酷いこと言ってる気がする。たぶらかすってなんだよ。
野良司祭って。
「穢れた魔物が出たやつあったじゃん。クエストの。あれで村中の人が穢された場所があってさ、そこに手伝いに行ったら、そこで村の人を癒してる人がいたからその人を手伝ってたら報酬代わりに「祈り」を教えて貰っただけだよ。その人は前に教会の教えが合わなくなったからって抜けた人なんだけどね」
祈りの経緯を教えると雄太と増田がすごく変な顔をした。「まさかの野良司祭たぶらかしが本当だったなんて……」とか呟いてるけど増田、野良司祭なんていないから。
自分で調薬に必要な物とか作れるの、本当に便利なんだよ。
「でも普通は「祈り」って下位スキルだろ? 何であのダンジョンの主は浄化したんだろうな」
「そうだよな。不思議だよな」
二人がうーんと唸ってるけど、それは俺も思った。
「祈り」って解呪とか浄化とかよりずっとランクが落ちる取るのも簡単スキルじゃなかったっけ。
魂の浄化とかそんなレベル高いことは出来なかったはず。でも穢れをとれる聖水を作れるから、実は効果は高いのかな?
それとも昨日はなんか条件が重なって偶然あんな風になったのかな。なんかそれの方がしっくりくる。
「これからは郷野はあの短剣で魔物を倒すの?」
俺はニコニコと訊いてくる増田に首を横に振ることで答えた。あの短剣、綺麗になる前の短剣より攻撃力が減ってるんだよ。何かの儀式用って書いてあったから、攻撃に使っちゃダメなやつじゃないのかな。
攻撃力も俺が必死で振り回してる剣とそんなに変わりないし。でも俺、聖魔法を使う様な儀式ってしないんだけど。だって薬師兼錬金術師だよ。どこに儀式があるんだろう。これが司祭とか僧侶とかそっちの方なら話は別なんだけどね。
「でもこれで、俺らも変なもんをわんさか見つけられるかもな」
ししし、と笑う雄太は、とてつもない期待を古代魔道語に抱いているらしい。
見つかるといいね。古代魔道語ギミック。
その後通常授業を受けてしっかり夕方まで学校にいた俺は、帰り道、雄太に今まで見つけた古代魔道語ギミックを一つ一つ説明しながら帰路に着いたのだった。
ログインして、伸びをする。
やりたいことレベル上げたいことが沢山ありすぎてどこから手を付けていいかわからないよ。
って時はヴィデロさんの補充をして気力を溜めてから作業だよな。
ヴィデロさんにプレゼントされたクリーム色のローブを羽織り、工房を出る。
門に向かう途中、獣人アバターのプレイヤーが腰に大きな剣を下げて歩いているのが目に入った。
ドーベルマン風の犬のアバターのプレイヤーは、隣に並んだ人族に耳だけ生やしたようなアバターのプレイヤーと楽しそうに話をしながら歩いている。
街を歩く住人達も、すでに獣人アバターの姿を見慣れたのか、普段と変わらない態度ですれ違う。
宰相の、異邦人で差別をなくすという目論見は、かなりいい感じで浸透しているらしい。きっとエミリさんが皆に姿を見せてフレンドリーに接しているっていうのも種族の壁を薄くしているのに一役買ってるのかもしれない。
早く石像がいらない時代になればいいのに。
そうすれば、堂々とユイルと遊べるのに。
そんなことを考えてるうちに、いつの間にやら門の前に着いていた。
今日の門番さんは、名前の知らない人だ。ヴィデロさんじゃない。
「ようマック。どうしたんだ? そんなにぼんやり歩いてたら転ぶぞ」
「こんばんわ。今日はヴィデロさんじゃないんですね」
「ヴィデロは昼で交代したよ。今部屋にいるから、行ってみるか?」
「そんなすんなり通していいんですか?」
「え、ダメなのか?」
いや俺に訊かれても。
ほらよ、と詰所に入るドアを開けてもらって、そっと中に入る。
案内なく入るのってちょっとドキドキする。
皆が休憩している食堂を通って勝手に奥の個室に通じるドアを潜っていいのかな。
とそっと覗き込むと、ロイさんが他の人と談笑していた。
「ロイさん」
そっと声を掛けると、すぐに気付いたロイさんが「お」と言って手招きしてくれた。
「今日は夜這いか? ヴィデロを呼び出す鐘が鳴らなかったけど」
「夜這いってなんだよ。来たらそのまま通してくれたから、いいのかなと思いつつ入ってきたんだけど、ダメだった?」
「ダメじゃねえよ。遠慮するなよ」
周りの人もにこやかに招き入れてくれたので、安心する。
でも、ここ座れよって椅子を引かれても、俺はヴィデロさんを見に来たわけで。
「ヴィデロは部屋だぜ」
「このままヴィデロさんの所に行っても大丈夫なの?」
「マックなら大歓迎だろ。部屋、わかるか?」
「うん、多分。何度か行ってるから」
「夜這い頑張れ」
にこやかにそんなことを言うロイさんと、今度は俺らとも遊ぼうぜという名も知らぬ門番さんに手を振られながら、俺は奥に向かった。
マップには通ったことのある道しか記されないから、マップを頼りに進めばヴィデロさんの部屋に直通なんだ。だから同じようなドアが並んでいても、ここだけは迷わないんだ。
廊下を歩き、曲がって進み、そして、一つだけ表示された部屋の前に立つ。
コンコン、とノックしても返事はなかった。
「ヴィデロさん……?」
声を掛けても返事がない。
あれ、いないのかな。それとも部屋が違う……ってわけじゃないよな。寝てるのかな。
ドアノブを回すと、カチャ、と簡単にドアが開いた。これ、勝手に入ったら不法侵入?
もしかして、何か後遺症とかあるのかな。
ヴィデロさん、ちゃんと魔物の気配とかしたらすぐ目を覚ますはずなのに。
少し心配になってそっとドアの中を覗いたら、ちらりと見えるベッドの横から、足が見えた。
やっぱり寝てるのかな?
そっと中に入って心の中で「ごめんなさい」と謝ってドアを閉め、奥に足を進めると、ヴィデロさんがベッドの上で寝ていた。横には本が置いてある。読んでて寝ちゃったのかな。可愛い。好き。
しかも普通にベッドに転がってるんじゃなくて、横向きに、足を半分ベッドからはみ出して床に垂れ下げるように寝てるのが、なんか可愛い。
光が眩しかったのか、腕で目元を隠しながらも寝息をたてているヴィデロさんの姿は、俺の胸を直撃した。
規則的に上下してる胸筋、少しだけ乱れた金髪、本に片手を掛けたまま投げ出された腕、なんかもう、どれをとってもきゅんとする。
俺はそっとヴィデロさんに近づくと、そっと顔を覗き込んだ。
熟睡中かな。
ベッドの横に立って、悶えながらヴィデロさんを見下ろす。
流石にいたずらしたら起きちゃうかな。
ロイさんが言ったように、夜這いしちゃおうかな。
最近なかなか二人でゆっくりできなかったから。
たまには俺がヴィデロさんを見下ろすのもいいかもしれない。ちょっと興奮する。
細胞活性剤、持って来ればよかった。
緩む顔をそのままに、俺はそっとブーツを脱いでヴィデロさんのベッドに登った。
少しだけベッドが沈んだ瞬間、ヴィデロさんの腕が俺の腰を掴んでいた。
「……マック、まだ早い……」
起きたと思ったヴィデロさんは、そんなことを呟いて俺を引き寄せ、横に転がした。その間、目はつぶったまま。
ね、寝ぼけてる……!
「か、かわ……!」
思わず叫びそうになって、ハッとして口を手で押さえる。
でも、可愛い! 寝ぼけたヴィデロさんほんと可愛い! 好き!
このまま横でヴィデロさんの胸筋と上腕二頭筋を堪能したい!
ヴィデロさんは手探りで毛布を掴み、そっと俺にかけて、そのまま俺の方に身体を向けて俺を抱きしめてからポンポンとすると、また規則正しい呼吸に戻った。
ああもう! 可愛すぎてどうしよう。しかも抱き着かれたし。動けない。けど至福。
俺もそっとヴィデロさんの背中に腕を回すと、間近な美形の寝顔を堪能すべく、荒くなった鼻息を必死で抑えることにした。
いつの間にやら一緒に寝ちゃってたらしい俺は、「……マック?」という声と共に意識を浮上させた。
目を開けると、驚いたように俺を見ているヴィデロさんが目の前にいた。
「……え、何で……?」なんて戸惑ってるヴィデロさんが可愛い、と目覚めの一発で顔をにやけさせた俺は、転がったままヴィデロさんの胸に顔を埋めた。
「顔を見に来たんだけど、何故か中に通して貰って部屋に不法侵入したら、ヴィデロさんが寝てたから夜這いしようと思ったんだけど、ぎゅっとされてついつい一緒に寝ちゃった」
「夜這い……?」
ちらりと見える時間は、あと2時間もするとログアウトを知らせるタイマーが鳴る時間だった。俺、ヴィデロさんの胸に包まれて3時間くらい寝ちゃってたんだ。幸せでした。ログアウトしなくてよかった。
ヴィデロさんは起きちゃったけど、まだあと2時間あるから、夜這い再開しようかな。
自分の部屋であることを確認しているヴィデロさんは、もしかして俺と旅してた時の夢でも見てたのかな。あの毛布を掛けてくれる手つき、前にも何度も味わったもん。好き。
まだ混乱しているらしいのをいいことに、俺はそっと伸びてヴィデロさんにキスをした。そのままグイッと身体に力を入れて、ヴィデロさんを仰向かせる。されるがままだったヴィデロさんの上に転がって、さらにキスを降らすと、ヴィデロさんの腕が俺の腰を抱きしめた。
「すごく幸せな夢を見た気がする」
「ヴィデロさん、俺に毛布かけてくれたの憶えてる? 『まだ早い』って」
「いや、俺、そんなこと言ってたか?」
「うん」
にやけながら暴露すると、ヴィデロさんも苦笑して、キスを返してくれた。
「きっとマックと二人でいた時間が忘れられないんだな」
「俺も」
最近一人で寝るのがちょっと寂しいんだ。隣に抱きしめてくれるこの腕があるだけで、こんなに満たされるのに。
ほんとに、細胞活性剤を持ってこなかったのが悔やまれる。
「今日は俺が夜這いに来たんだから、俺が襲ってもいい?」
少しだけ身を起こしてヴィデロさんにそう言うと、ヴィデロさんは楽しそうに「マックが俺を襲ってくれるのか?」と笑った。
襲いますとも。下手くそだけど、口でヴィデロさんのヴィデロさんを可愛がってやるよ。
そう呟くと、ヴィデロさんは楽しそうに悲鳴を上げた。
昼休み、雄太と増田からそう報告を受けた。
さすがセイジさん。あの人が助言をくれるとそれがスキルになるからすごいよね。
「それにしてもさ、何で郷野はあんな「祈り」スキルなんて覚えてるの? あれ、一時掲示板で「取得がヤバいスキル」にランクインしてたんだよ。もしかして教会に通った?」
「馬鹿だな増田。健吾は教会をぶっ潰した本人だって言ったろ」
「そうなんだけどさ。だって「祈り」って基本教会でしか取れないスキルじゃん」
「あれじゃね? 健吾の事だからそこら辺の野良司祭でもたぶらかして教えて貰ったんじゃね?」
なんか雄太酷いこと言ってる気がする。たぶらかすってなんだよ。
野良司祭って。
「穢れた魔物が出たやつあったじゃん。クエストの。あれで村中の人が穢された場所があってさ、そこに手伝いに行ったら、そこで村の人を癒してる人がいたからその人を手伝ってたら報酬代わりに「祈り」を教えて貰っただけだよ。その人は前に教会の教えが合わなくなったからって抜けた人なんだけどね」
祈りの経緯を教えると雄太と増田がすごく変な顔をした。「まさかの野良司祭たぶらかしが本当だったなんて……」とか呟いてるけど増田、野良司祭なんていないから。
自分で調薬に必要な物とか作れるの、本当に便利なんだよ。
「でも普通は「祈り」って下位スキルだろ? 何であのダンジョンの主は浄化したんだろうな」
「そうだよな。不思議だよな」
二人がうーんと唸ってるけど、それは俺も思った。
「祈り」って解呪とか浄化とかよりずっとランクが落ちる取るのも簡単スキルじゃなかったっけ。
魂の浄化とかそんなレベル高いことは出来なかったはず。でも穢れをとれる聖水を作れるから、実は効果は高いのかな?
それとも昨日はなんか条件が重なって偶然あんな風になったのかな。なんかそれの方がしっくりくる。
「これからは郷野はあの短剣で魔物を倒すの?」
俺はニコニコと訊いてくる増田に首を横に振ることで答えた。あの短剣、綺麗になる前の短剣より攻撃力が減ってるんだよ。何かの儀式用って書いてあったから、攻撃に使っちゃダメなやつじゃないのかな。
攻撃力も俺が必死で振り回してる剣とそんなに変わりないし。でも俺、聖魔法を使う様な儀式ってしないんだけど。だって薬師兼錬金術師だよ。どこに儀式があるんだろう。これが司祭とか僧侶とかそっちの方なら話は別なんだけどね。
「でもこれで、俺らも変なもんをわんさか見つけられるかもな」
ししし、と笑う雄太は、とてつもない期待を古代魔道語に抱いているらしい。
見つかるといいね。古代魔道語ギミック。
その後通常授業を受けてしっかり夕方まで学校にいた俺は、帰り道、雄太に今まで見つけた古代魔道語ギミックを一つ一つ説明しながら帰路に着いたのだった。
ログインして、伸びをする。
やりたいことレベル上げたいことが沢山ありすぎてどこから手を付けていいかわからないよ。
って時はヴィデロさんの補充をして気力を溜めてから作業だよな。
ヴィデロさんにプレゼントされたクリーム色のローブを羽織り、工房を出る。
門に向かう途中、獣人アバターのプレイヤーが腰に大きな剣を下げて歩いているのが目に入った。
ドーベルマン風の犬のアバターのプレイヤーは、隣に並んだ人族に耳だけ生やしたようなアバターのプレイヤーと楽しそうに話をしながら歩いている。
街を歩く住人達も、すでに獣人アバターの姿を見慣れたのか、普段と変わらない態度ですれ違う。
宰相の、異邦人で差別をなくすという目論見は、かなりいい感じで浸透しているらしい。きっとエミリさんが皆に姿を見せてフレンドリーに接しているっていうのも種族の壁を薄くしているのに一役買ってるのかもしれない。
早く石像がいらない時代になればいいのに。
そうすれば、堂々とユイルと遊べるのに。
そんなことを考えてるうちに、いつの間にやら門の前に着いていた。
今日の門番さんは、名前の知らない人だ。ヴィデロさんじゃない。
「ようマック。どうしたんだ? そんなにぼんやり歩いてたら転ぶぞ」
「こんばんわ。今日はヴィデロさんじゃないんですね」
「ヴィデロは昼で交代したよ。今部屋にいるから、行ってみるか?」
「そんなすんなり通していいんですか?」
「え、ダメなのか?」
いや俺に訊かれても。
ほらよ、と詰所に入るドアを開けてもらって、そっと中に入る。
案内なく入るのってちょっとドキドキする。
皆が休憩している食堂を通って勝手に奥の個室に通じるドアを潜っていいのかな。
とそっと覗き込むと、ロイさんが他の人と談笑していた。
「ロイさん」
そっと声を掛けると、すぐに気付いたロイさんが「お」と言って手招きしてくれた。
「今日は夜這いか? ヴィデロを呼び出す鐘が鳴らなかったけど」
「夜這いってなんだよ。来たらそのまま通してくれたから、いいのかなと思いつつ入ってきたんだけど、ダメだった?」
「ダメじゃねえよ。遠慮するなよ」
周りの人もにこやかに招き入れてくれたので、安心する。
でも、ここ座れよって椅子を引かれても、俺はヴィデロさんを見に来たわけで。
「ヴィデロは部屋だぜ」
「このままヴィデロさんの所に行っても大丈夫なの?」
「マックなら大歓迎だろ。部屋、わかるか?」
「うん、多分。何度か行ってるから」
「夜這い頑張れ」
にこやかにそんなことを言うロイさんと、今度は俺らとも遊ぼうぜという名も知らぬ門番さんに手を振られながら、俺は奥に向かった。
マップには通ったことのある道しか記されないから、マップを頼りに進めばヴィデロさんの部屋に直通なんだ。だから同じようなドアが並んでいても、ここだけは迷わないんだ。
廊下を歩き、曲がって進み、そして、一つだけ表示された部屋の前に立つ。
コンコン、とノックしても返事はなかった。
「ヴィデロさん……?」
声を掛けても返事がない。
あれ、いないのかな。それとも部屋が違う……ってわけじゃないよな。寝てるのかな。
ドアノブを回すと、カチャ、と簡単にドアが開いた。これ、勝手に入ったら不法侵入?
もしかして、何か後遺症とかあるのかな。
ヴィデロさん、ちゃんと魔物の気配とかしたらすぐ目を覚ますはずなのに。
少し心配になってそっとドアの中を覗いたら、ちらりと見えるベッドの横から、足が見えた。
やっぱり寝てるのかな?
そっと中に入って心の中で「ごめんなさい」と謝ってドアを閉め、奥に足を進めると、ヴィデロさんがベッドの上で寝ていた。横には本が置いてある。読んでて寝ちゃったのかな。可愛い。好き。
しかも普通にベッドに転がってるんじゃなくて、横向きに、足を半分ベッドからはみ出して床に垂れ下げるように寝てるのが、なんか可愛い。
光が眩しかったのか、腕で目元を隠しながらも寝息をたてているヴィデロさんの姿は、俺の胸を直撃した。
規則的に上下してる胸筋、少しだけ乱れた金髪、本に片手を掛けたまま投げ出された腕、なんかもう、どれをとってもきゅんとする。
俺はそっとヴィデロさんに近づくと、そっと顔を覗き込んだ。
熟睡中かな。
ベッドの横に立って、悶えながらヴィデロさんを見下ろす。
流石にいたずらしたら起きちゃうかな。
ロイさんが言ったように、夜這いしちゃおうかな。
最近なかなか二人でゆっくりできなかったから。
たまには俺がヴィデロさんを見下ろすのもいいかもしれない。ちょっと興奮する。
細胞活性剤、持って来ればよかった。
緩む顔をそのままに、俺はそっとブーツを脱いでヴィデロさんのベッドに登った。
少しだけベッドが沈んだ瞬間、ヴィデロさんの腕が俺の腰を掴んでいた。
「……マック、まだ早い……」
起きたと思ったヴィデロさんは、そんなことを呟いて俺を引き寄せ、横に転がした。その間、目はつぶったまま。
ね、寝ぼけてる……!
「か、かわ……!」
思わず叫びそうになって、ハッとして口を手で押さえる。
でも、可愛い! 寝ぼけたヴィデロさんほんと可愛い! 好き!
このまま横でヴィデロさんの胸筋と上腕二頭筋を堪能したい!
ヴィデロさんは手探りで毛布を掴み、そっと俺にかけて、そのまま俺の方に身体を向けて俺を抱きしめてからポンポンとすると、また規則正しい呼吸に戻った。
ああもう! 可愛すぎてどうしよう。しかも抱き着かれたし。動けない。けど至福。
俺もそっとヴィデロさんの背中に腕を回すと、間近な美形の寝顔を堪能すべく、荒くなった鼻息を必死で抑えることにした。
いつの間にやら一緒に寝ちゃってたらしい俺は、「……マック?」という声と共に意識を浮上させた。
目を開けると、驚いたように俺を見ているヴィデロさんが目の前にいた。
「……え、何で……?」なんて戸惑ってるヴィデロさんが可愛い、と目覚めの一発で顔をにやけさせた俺は、転がったままヴィデロさんの胸に顔を埋めた。
「顔を見に来たんだけど、何故か中に通して貰って部屋に不法侵入したら、ヴィデロさんが寝てたから夜這いしようと思ったんだけど、ぎゅっとされてついつい一緒に寝ちゃった」
「夜這い……?」
ちらりと見える時間は、あと2時間もするとログアウトを知らせるタイマーが鳴る時間だった。俺、ヴィデロさんの胸に包まれて3時間くらい寝ちゃってたんだ。幸せでした。ログアウトしなくてよかった。
ヴィデロさんは起きちゃったけど、まだあと2時間あるから、夜這い再開しようかな。
自分の部屋であることを確認しているヴィデロさんは、もしかして俺と旅してた時の夢でも見てたのかな。あの毛布を掛けてくれる手つき、前にも何度も味わったもん。好き。
まだ混乱しているらしいのをいいことに、俺はそっと伸びてヴィデロさんにキスをした。そのままグイッと身体に力を入れて、ヴィデロさんを仰向かせる。されるがままだったヴィデロさんの上に転がって、さらにキスを降らすと、ヴィデロさんの腕が俺の腰を抱きしめた。
「すごく幸せな夢を見た気がする」
「ヴィデロさん、俺に毛布かけてくれたの憶えてる? 『まだ早い』って」
「いや、俺、そんなこと言ってたか?」
「うん」
にやけながら暴露すると、ヴィデロさんも苦笑して、キスを返してくれた。
「きっとマックと二人でいた時間が忘れられないんだな」
「俺も」
最近一人で寝るのがちょっと寂しいんだ。隣に抱きしめてくれるこの腕があるだけで、こんなに満たされるのに。
ほんとに、細胞活性剤を持ってこなかったのが悔やまれる。
「今日は俺が夜這いに来たんだから、俺が襲ってもいい?」
少しだけ身を起こしてヴィデロさんにそう言うと、ヴィデロさんは楽しそうに「マックが俺を襲ってくれるのか?」と笑った。
襲いますとも。下手くそだけど、口でヴィデロさんのヴィデロさんを可愛がってやるよ。
そう呟くと、ヴィデロさんは楽しそうに悲鳴を上げた。
2,440
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。