これは報われない恋だ。

朝陽天満

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616、どうしたらいいんだろう

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 行ってらっしゃいのキスと共にヴィデロさんを仕事に送り出した俺は、早速インベントリの中を充実させて辺境に跳んだ。

 色々と魔大陸に必要な物は詰め込んできた。

 枝も。でも安易にそこらへんに差しちゃいけないのはちゃんとわかってる。



 一緒に魔大陸に跳んでくれる『高橋と愉快な仲間たち』と合流して、ユイの腕に触れると、「じゃあ行くよー」という気の抜けるような声と共に、視界が変わった。

 一瞬にしてズンと身体に感じる重力的な何かに、息苦しくなる。

 ステータス欄は横に表示しとけよ、と助言してもらったので見ていると、数秒に1の割合でHPが減っていく。これはヤバい。怠くなるし、なんていうか、空気からして身体に毒な物なんだなっていうのが立ってるだけでわかる。

 

「こんな中、勇者たちはどうやって魔王の所までたどり着いたんだろ……」



 ついついそう零すと、雄太が慣れた調子で何かを飲みながらそれな、と教えてくれた。



「現地の魔物の肉を錬金鍋にぶち込んでよくわからねえ、けど食べられる料理をサラさんが作ったらしいぞ。味は良かったけど見た目はヤバかったんだとかなんだとか。あっちに帰り着いてちゃんとした飯を食ったときが一番感動して涙が止まらなかったとか言ってたな。だからこそ、王女様嫁に貰った時に最初のうち出てきた消し炭のような食事も、最高に美味く感じたんだとか。勇者って結構不憫だよな」

「へえ……」



 確かに錬金で作る食べ物ってなんか見た目がヤバそうな物ばっかりだからなあ。綺麗なのも色々あるけど。ってことは、サラさんのレシピにこの大陸の魔物肉を使ったレシピも載ってるのかな。俺も作ってみたい。

 ワクワクした顔をした瞬間、雄太にじろりと見られた。



「俺は食わねえからな」

「俺何も言ってないよ」

「あ、私食べたいわ。錬金の魔物肉料理、出来ればスクショしたい! 美味しかったら『食い道楽スレ』に載せていい? 匿名で!」

「それちょっとテロ行為に等しいんじゃ……」



 いいじゃんいいじゃん、と気楽に答えた海里が、早速出てきた魔物をサクサク倒していく。

 え、そんなに簡単に倒せるの? と海里の強さにドン引きしていると、海里が早速魔物肉をゲットして俺に渡してきた。



「期待してる。じゃあ早く近くの村に行きましょ」



 頼もしすぎる護衛と共に、俺は既に視界に入っている村に足を向けた。

 木の柵が村を覆っていて、そこまで広くない村の中は、空気は変わりないけれど、魔物は本当に現れなかった。

 転移してきてすぐにホーリーハイポーションは飲んだから、HPは減ってなかったけど、どうにも感じるこの重さと怠さが何とも言えない。前に雄太が「倦怠感解除薬ウィジーポーション欲しい」って言ってたのがわかる気がする。試しに飲んでみると、だるさがスッと引いて、すごくすっきりした。すげえ! これは沢山持っておかないとだめだ。



「まずはこの村を浄化しないといけないんだっけ」



 見物人スタイルになっている雄太たちを放っておいて、俺はまずどこから浄化しようか村を見回した。

 広くない村とはいえ、一度で浄化できるほど狭いわけじゃない。家だって朽ちてはいるけれど、そこそこの数はある。小さな教会も建っているけれど、それでも中にはちゃんと礼拝堂があって、奥には何個かの部屋もある。

 まんま獣人さんたちの村と同じような感じの大きさだ。



「とりあえずはやってみよう」



 その場で短剣を鞘から引き抜くと、短剣がキィンと鳴った。やる気満々なのがなんとなく伝わってくる。

 剣を構えて、詠唱する。



『この世界を見守る最上の神よ』



 俺の声と共に、短剣が振動する。



『その気高き聖なる神気でこの禍なる気を包みこみ給え。円状鎮魂歌サークルレクイエム』



 詠唱終了と共に、短剣から発した光が辺りを包み込む。

 それは、いつもよりも大きな光で、あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう程だった。

 え、待って。この魔法、普通はこんなに眩しくないし、ここまで範囲広くないよ。いつもだったら半径10メートルの円なのに、これ、絶対にもっとずっと広い範囲包んでる。しかもいつもよりも光が強い。こんなに眩しいなんてありえない。

 短剣が気合いを入れるかのごとく、キィイイインという高い音を放っている。

 そして、光が収まっていくとともに、その音も収まっていった。

 音と光がなくなると、俺は盛大に息を吐いた。

 MPが残り10になっている。と思ったら、見ている間にも少しずつ回復している。

 魔素が多いってこういうことなのか、と妙に納得してしまった。



「聖魔法のレベル上がったか?」

「前よりはね。あと、この短剣もなんかよくわからないけど経験値は入ってる。でもなんか、ここだと魔法の威力が上がる気がする」

「ああ……それな。ここではユイがやべえ魔法バンバン繰り出すんだ。そしてこの間、海里に「夫婦喧嘩するなら、ここに来ればいい」って入れ知恵されてたのを俺は聞いてしまったんだ……」



 遠い目をして雄太が零す。

 俺の聖魔法であれだけ違いが判るなら、ユイの上級魔法なんて物凄い物があるんだろうな。ああ、確かに、土下座する雄太を捕まえてここに魔法陣魔法で跳んで、ここで魔法をぶっ放せば嫁圧勝なのはわかる。しかもそこで置いていかれたら雄太詰むな。海里ナイス。

 思わず笑うと、雄太が「ユイを怒らすことだけは俺しねえ」と誰にともなく呟いていた。それがいいよ。仲良くね。





 俺が浄化した場所は、あのずしっとした空気が爽やかな空気に変わっていた。でもじわじわと浄化範囲が狭まっているのが見た目でわかる。やっぱりというかなんというか穢れた魔素ってちょっとどよっとして見えるんだよなあ。浄化した場所があると比較が容易っていうか。暗い部屋と日当たりのいい部屋、ってくらいに空気の色が違った。でも見た目でわかるっていうのはすごくわかり易くていいかも。



「これ、悠長に時間を掛けて浄化してると、すぐに前のドヨンとした空気に戻っちゃうってことだよね。マック君、どうするの?」

「どうしよう。素早く回復して次の場所に行ったとしても、奥まで浄化してこっちに戻ってくるとまたここは穢れ魔素に戻ってる気がするよね」

「そうだな……どうするかな」

「これじゃあ、たとえここに植えてもすぐに枯れちゃうのは目に見えてるよな、枝……」



 溜め息を吐いて、とりあえず動いてみる。

 もう一度村を一望してみようかということになって村の外に移動する。さっききたところから南に行くと丘になってるらしい。

 村の入り口を潜って村の外に出ると、「あ」というブレイブの声がして、皆が動きを止めた。



「待ってくれ。この入り口部分、きっぱりと浄化されてるのとされてない魔素が分かれてる」



 ブレイブに言われて、確かに、と頷き合う。

 村の外にも浄化魔法は届く場所で浄化したにも関わらず、村の外の浄化されたはずの場所はすでにドヨンとしていた。でも、村の周りを覆った柵から向こうは、きっちり浄化されているし、そこから魔素が穢れて行くこともなかった。



「……村の中は少しずつ戻ってってるよな、浄化した場所……」



 腕を組んで雄太が首を傾げる。ブレイブも思案顔になり、海里が村の入り口を入ったり出たりしている。

 ここ、村の外なんだけど。

 そんな考え込むなら村の中に行こうよ。

 魔物がこっちに向かって来ても平然と考え込んでる三人にそう声を掛けると、ユイが「大丈夫」と笑顔を見せた。



「風の聖霊、あなたのその自由な翼で、目の前の大きな魔物を切り刻んで! 鎌鼬ウィンドシックル!」



 ユイの詠唱と共に、後ろから風が吹いた。

 そして、その風が目に見える刃になって魔物に向かって行った。んだけど。



「でっか……」



 一つ一つの鎌鼬が3メートルサイズで、しかもかなりの数が魔物にザクザクと襲い掛かっていく。それは魔物を貫通して後ろにある黒い木までなぎ倒していった。



「ね、大丈夫でしょ。ようやく風魔法がレベルマックスまでいったんだよ。次は火魔法のレベルを上げるつもり」

「は、はは……すごいね」



 ちなみに、魔法のレベルマックスは100らしい。進化しなかったから、それでマックスだとか。今度は違う魔法も最大までレベルをあげて、複合系の上位魔法が出ないか検証してみる予定らしい。こんなのほほんとしながらも、色々と考えているらしい。成績は悪くないって聞いたことあるけど、ようやくわかった。ユイは頭いい。この中で頭悪いの俺くらいかな……。



 今度こそ魔物の出ない村の中で熟考することにした俺たちは、しばらくそこにとどまって、浄化魔法は村の柵、というかアリッサさんの魔道具の結界が効いている場所に接触している場所からは穢れが戻らないということに気付いた。



「ってことは……一気に村を浄化しちゃったらもう外の魔素みたいにはならないってことじゃない?」

「それな。でもなんだかんだ言ってさっきの規模だと一気にってのは難しいだろ」

「マック君、他に浄化できる人知ってる?」

「ユキヒラとニコロさんくらいだけど、ニコロさんは絶対に無理だし、ユキヒラと二人でも一気には無理だよ」

「……なんかないかな」



 皆で頭を捻る。

 村を見回しても、やっぱり村全部を浄化するにはさっきの魔法を10回とか20回くらいかけないといけない気がする。

 もしかしてここら辺に枝を挿し木するの、無理なんじゃないかな。



「とりあえず片っ端から浄化してってみる? マジックハイパーポーションなら山ほど持ってきたし」

「だからそれじゃすぐ元に戻っちまうだろ」

「でもこれ一気になんて無理じゃん」

「だからそれを何とかするために考えてんだろ」

「私も聖魔法使えればよかったんだけどね。それだけはもう覚えられないし……無念だわ」

「ユイはもう魔法はいいだろ」

「よくないよ。今度は火魔法をマスターするんだから。火魔法の一番威力が大きいやつ覚えたいし」

「どんな魔法なんだ?」

「ええとね」



 皆も全然いい考えが思い浮かばなかったんだろう。雄太とユイは魔法の話に移行している。



「ええとねそこらへんの魔素を火種に変換して、一斉にそれを爆発させるやつ。辺り一面火に巻かれてすっごく派手らしいよ。使ってみたいよねえ」

「やべえ、それ見てえ」

「うん。頑張って覚える。一番に高橋に見せるね」

「すっげえ楽しみ」



 はいラブラブ。

 にこやかに話すユイの言葉の内容は全然にこやかに出来ない内容だけど。

 
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