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764、世界に祝福されてるみたい
しおりを挟む衣装屋さんで朝早くから着付けをしている俺とヴィデロさん。連れて来てくれたのは、俺の両親。外に出たら車で待機していて、さ、行こうか、なんて準備万端でドアを開けた。ヴィデロさんを助手席に誘い、今日も俺と母さんは後ろの席。大きくない乗用車にヴィデロさんの上背だと助手席が一番快適なんだとか。俺が助手席の後ろに乗るのは一番安全な場所だからだと父さんはドヤ顔でヴィデロさんに説明していて、「お義父さん素晴らしいです」とヴィデロさんに称賛されて喜んでいた。父さん……。
そして今日もヴィデロさんはかっこいい。かっこよすぎる。好き。最高。称賛の言葉が止まらない。
顔を覆って天を仰ぐと、すぐ近くに気配を感じて、身体を腕で包まれた。
「本番で足を止めないように今から慣れておこうか」
耳元で聞こえたイケボに、俺の口から変な声が漏れた。
何度聴いても慣れないと思う。最強に素敵な俺の伴侶様は、声まで最強だった。好き。
予定ではタクシー移動のはずが、父さんたちに連れて行ってもらい、社務所に二人並んで顔を出す。隣にある控えの間に通されて、そこで待機。
神前の用意は既に済んでるみたいなので、時間が来るまで流れをおさらいしましょう、と巫女服を着た女性に紙を一枚渡された。
神主さんの口上、式の流れ、心意気、相手とこれから一生を交わすという心意気などが書かれている。ヴィデロさんは読めない字を指さしてくるので、それを丁寧に教えていると、巫女さんが微笑ましそうに俺たちを見ていた。国際結婚を神前で、というのが結構流行ってるらしいんだよね。衣装屋さんで聞いた情報なんだけど。俺たちもそんな感じだと思われたんだろうなあ。そのまんまなんだけどね。心意気がちょっと違うんだけど、それを説明するのは難しいよなあ。
「ケンゴ、ここの雰囲気は、神殿と似ているな」
「うん。ちょっと緊張するね。袴踏んで転んだらどうしよう」
ちょっと眉を寄せて心配を口に出すと、ヴィデロさんがくすくすと笑った。
「その時はケンゴが地面とキスする前に俺がかっさらうから安心しろ」
「ううう……ヴィデロさんがかっこよすぎて辛い……」
またしても顔を覆って天を仰ぐと、巫女さんたちもくすくすと笑った。ここ笑うところ?
巫女さんに呼ばれて、巫女さんの後ろを付いて廊下を歩く。
荘厳な雰囲気が廊下からも感じるのは気のせいかな。普通は神社って参拝するだけだから、中の雰囲気ってそうそうわからないんだけど、空気がピンと張ってるような緊張感が漂っている。
「そういえばヴィルさんは戻って来れるのかな」
そっとヴィデロさんに囁くと、ヴィデロさんははっきりと頷いた。
「大丈夫だ。あいつなら時間に遅れるなんてことはしない」
信頼感が凄い。朝はまだ帰って来てなかったのに。
今日は佐久間さんも俺たちの式に参列してくれることになっている。用意がある分俺たちの方がめちゃくちゃ早く出たけれど、その時間ではまだヴィルさんは帰って来ていなかった。
ここまで色々お膳立てしてくれたヴィルさんが顔を出せないなんてことはないだろうけど、ちょっとだけ心配な俺とは対照的に、ヴィデロさんは来ると信じて疑っていないみたいだ。兄弟の絆ってこんな感じなのかな。それとも一緒に色んな困難を潜り抜けた信頼かな。ちょっと羨ましい。
足の止まった巫女さんに倣って足を止めると、ふと目に入ったのは黄色とピンクの小さな花弁の花。綺麗に飾られているけれど、俺はその花になんとなく見覚えがあった。
「ヴィデロさん、この花……」
袖を引いて声を掛けると、その声が聞こえていたのか、巫女さんが振り返った。
「それは、『スターチス』という花です。神主の趣味でこの神社の裏手で栽培しているんですよ。綺麗ですよね。花言葉は、「変わらぬ心」。ここで神前式を挙げたいという方のために、飾るんです」
「スターチス……」
ヴィデロさんが目を細める。
これはあれだ。婚姻の儀を受ける際に手に持った花とそっくりなんだ。しっかりと細部まで見るとちょっと違うんだけど、ぱっと見そっくりなそれは、図らずも俺とヴィデロさんの心にその可憐な姿を刻んだ。
ここでもちゃんと祝福されてる気がする。反対なんてされてないんだけど、心にわだかまってて雄太に愚痴ったそれが、少しだけ消えた気がした。
「では、参ります」
巫女さんが、俺たちの前の扉を開いてくれる。
扉の先には、招待した皆が座って、俺たちの方に注目していた。
あああ、雄太たちも正装して座ってる。ユイなんかすでに涙目で、増田とブレイブは笑顔で俺たちの方を見ていた。
視線を巡らせる。
父さんと母さんは前に立っていて、俺たちを見ている。父さんが泣きそうなのが笑える。
そして。
アリッサさんとヴィルさんが、フォーマルを身に着けて、とても格好良く立って、俺たちを見ていた。
ああ、ヴィルさん、ちゃんと来てくれたのか。少し頬がこけた気がするのは寝食を忘れて何かに没頭したのかもしれない。
アリッサさんも笑顔を浮かべて、俺たちを待っていた。
皆が注目する中、俺とヴィデロさんは神様の前に向かうべく、足を踏み出した。
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