上 下
51 / 109
ゲーム終了後編

129、最推しの方が一大事。

しおりを挟む

 今日は家に帰れないかもしれないな、と考えながら待っていると、ブルーノ君が呼ばれて連れ出されて行った。その暫く後に、ミラ嬢。そしてアドリアン君。
 俺と二人になった兄様は、少しだけ険しい顔をしていた。
 そして、ついに兄様もこちらへ、と。
 俺一人だけになるのかな、と不安になっていると、兄様は付いていこうとせずに口を開いた。

「すみません。僕も席を外したら、アルバ一人になってしまいます。今日は体調も不安なので、それは避けたいのですが、一緒に向かうことはできないでしょうか」
「申し訳ありません。サリエンテ公爵嫡男オルシス様しか呼ばれておりませんので、私共はアルバ様を連れて行くことは出来ません」
「ではせめて、父に連絡を入れてもいいでしょうか。父が来たら、向かいます」
「申し訳ありませんが、王宮にて外部連絡の魔法を使うことは余程のことがない限り、許可はされないかと思われます」
「では、アルバだけ先に帰すことは」
「それも、私共の一存では何とも」
「一度確認していただけませんか」

 食い下がる兄様に、呼びに来た人はそれも出来かねます、と全拒否しかしない。なんだかんだと兄様だけ連れて行く気満々だ。
 これで拒否したら兄様が不敬罪で捕まってしまうのではないだろうか。
 それはよくない。
 
「兄様、僕は大丈夫です。ブルーノ君の飴もありますし。だから心配は……」

 兄様の袖を掴んで兄様を見上げた瞬間、目の前にそれは現れた。
 周りの景色がいまいた部屋と全然違う。豪華というか装飾華美というか上品で豪奢な部屋で、真ん中には玉座。兄様と重なるようにそこに座っているのは……。


 気付いたら、見知らぬベッドに寝ていた。
 ぐっと握られた手の先には、心配そうな義父の顔があった。
 周りを見渡せば、リコル先生とブルーノ君がいる。

「に、さまは……」

 声を出して、あまりの怠さにビビる。
 これはあれだ。大きな発作を起こした後に似ている。
 そんなときに横に兄様がいないことに違和感があり過ぎて、グラグラしながらも必死で身体を起こそうとすると、やんわりと義父に止められた。

「オルシスは別室で休んでいるよ。アルバも少し休みなさい」
「休んでいる……?」
「ああ。オルシスも今日は少し無理をしただろう。アルバも。ブルーノに詳しい話を聞いたよ。無理しすぎだ。でも……頑張ったね。君は父様の誇りだ」

 繋がれた手から、兄様によく似た魔力が流れ込んでくる。
 でもほんの少しだけ違うその魔力が、兄様ではないということを浸透させる。
 兄様は休んでいるのか。
 そうだよな。今日はだってあんな偉業を成したんだから。
 でも俺は何で。
 ベッドに沈むような感覚と眩暈に抗えずに瞼を閉じながら、ふと考える。
 そこで、さっき一瞬だけ見えたスチルを思い出した。
 ああ、そうか。俺はあんなところで『刻魔法』を発動してしまったんだ。
 泥のように沈んでいく意識の中、流れて来る義父の穏やかな魔力に包み込まれ、兄様との違いになぜだか泣きそうになった。
 こういう時に兄様がいないの、もしかしたら初めてかもしれない。
 あの時、確か兄様が別室に呼ばれて、兄様は俺を一人に出来ないと拒んで、そこで魔法が発動してしまったんだと思う。
 一瞬で意識が持って行かれたから、俺の魔力はあの時多分空に近かったんだと思う。何せ全魔力を宝石に注いだばっかりだったから。魔力回復薬を一本飲んだくらいじゃきっと回復していなかったはず。
 でもそれは兄様もまったく同じ状況だったわけで。
 俺が兄様の横で『刻魔法』なんて発動したら、兄様は放っておくわけもなく。
 搾りかす程度の魔力で今生きていたっていうことは。

「兄様は」

 兄様の魔力の方が、俺よりもヤバいのではないだろうか。
 なけなしの魔力を俺に渡していたら、兄様はどうなる。
 こんなところで寝ている場合ではないんじゃないか。何せ、義父はここに居て、俺に魔力を分けている。

「父様、こんなところにいないで、兄様に付いていてください」

 閉じていた筈の目を開けて俺がそう言うと、義父は驚いたような顔になった。
 寝ていると思った俺がいきなり声を出したからだ。

「大丈夫だよ。オルシスには王宮の治癒師が付いているから」
「王宮の治癒師が付いていないといけない程危なかったんですか。僕があんなところで死にかけてしまったばかりに」
「そうじゃない、アルバのせいじゃない。オルシスはただ休んでいるだけだ。アルバは今はゆっくり身体を休めなさい。もしここが落ち着かないのであれば、家に戻れるようにしてくるから」
「きっと……それは無理だと思います。だって、今、王宮は一大事でしょう。僕もその当事者だから帰して貰えないです」
「アルバ……」

 兄様が手を握っているのなら、どこだって関係ないのに。
 そう思いながら、義父の手をギュッと握る。
 
「ああ、そうだ。僕が魔力を譲渡すれば兄様も少しぐらいは楽になるんじゃないでしょうか。こんなところで寝ているわけにはいきません。父様、兄様の所に連れて行ってください」
「それはだめだ。アルバも今は魔力が全く足りていない状態だというのは自覚できるかい? オルシスはちゃんと回復薬で魔力も回復するから、アルバはオルシスに心配かけないように休むことが一番だよ」

 そうか、そうだね。
 義父だけじゃなくて、リコル先生とブルーノ君もここに居るから、兄様よりも俺の方が重症だったってことか。
 起き上がっても俺は兄様のために何も出来ないらしい。身体もあまり動かない今の状態じゃ当たり前か。
 細く息を吐いて、今度こそ真剣に回復すべく目を閉じたのだった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

今日くらい泣けばいい。

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:3

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:208,530pt お気に入り:12,429

婚約破棄した姉の代わりに俺が王子に嫁ぐわけですか?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:175

『種族:樹人』~おまけ置き場~

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:239

(R18)エロゲRPGの中に転生してしまったので仕方ないからプレイする

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:645

主役達の物語の裏側で(+α)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,583pt お気に入り:43

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。