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ゲーム終了後編

132、最推しも一緒にお願いします。

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 取り出した紙をぐっと手で握りしめて、俺は陛下に視線を向けた。

「兄様は今、どこにいるのでしょうか」
「王宮の一部屋に滞在している」
「それは、なぜでしょうか。僕も兄様もまだ家には帰れないのでしょうか」
「帰すわけにはいかない。なぜかを一番よくわかっているのは、お前ではないか?」

 じっと見られて、ああ、と嘆息しそうになった息を呑み込んだ。
 
「ツヴァイトでは無理だった。では、誰が。あの時の状況を見ればわかる。中に入った者の中で、魔力が枯渇状態だったのはツヴァイトとサリエンテの倅二人だ。お前が言った通り、ツヴァイトは最初に一人で宝玉に触れ、失敗しておる。となると、魔力を入れたのはサリエンテの二人以外にはいない。相違ないな?」
「……はい」

 陛下はもう最初からわかっていたんだ。俺と兄様で魔力を入れたことを。そして、俺が嘘を吐いて誤魔化さないかを確認していたんだろうか。
 俺たちが成し遂げたことは、こんな尋問されるようなことではなく、この国の救世主ともいうべき偉業なのに。
 
「陛下。確かに、僕と兄様があの宝玉に触れ、魔力を満たしました。これで、この国は魔物も減り、平和になるということですよね」
「そうだ」
「でしたら、それに関して僕たちに褒美とかはないのでしょうか」
「ほう、自ら褒美を強請るか」
「はい。だって兄様はこの国の救世主ですから。最高に素晴らしい事を成し遂げましたから」

 どう考えても王宮に監禁とか、おかしいだろ。
 じっと陛下の目を見てハッキリと言うと、陛下は「ふむ」と目を細めた。

「サリエンテの倅よ。お前はもう病は身体から消えておるな。ということは、属性の検査をしても大丈夫ということか」
「陛下、アルバの問いに答えておられませんよ」

 陛下のいきなりの言葉に、義父が顔を顰めて窘める。
 どうして属性の検査になるのか。
 ここでそれを受けたら、ハッキリと俺の属性がバレてしまう。それこそ監禁エンドだ。けれど、病がもう治ったとバレた今、断ったらそれはそれで怪しいと言っているもの。
 もしかしたら陛下も何らかの情報を持っているのかもしれない。どこから洩れたのかなんてわからない。そういう情報を集める手駒とか、普通に何人も抱えていそうなので、一概に俺の関係者が話してしまったとはいえないのが辛い。

「いいや、関係している。ここで褒美を取らせるとしよう。しかし、後になって実は他の者が魔力を入れていたと言われたら、もう訂正が効かぬ。それは絶対に避けなければいけない事態だからだ」
「僕です。僕と兄様で魔力を注入しました」
「では、属性検査を出来るはずだ。用意せよ」

 有無を言わさぬ感じで、陛下は王弟殿下に命令した。
 王弟殿下もここで焦ってはいけないとわかっているのか、少しだけ眉を寄せ、俺を見た。
 
「陛下を騙しているわけではありません。ええと、これをお渡しします。必ず保存して、後々また魔力が減った時に活用していただけたら幸いです」

 そんな顔をさせてごめんなさい、と目だけで訴え、俺は手に持っていた紙を陛下の前に開いた。
 魔力を入れていた時の、感じた事と、方法。次の人にも使えるようにと、必死でまとめた物を、陛下は手に取り、視線を落とした。
 視線を落としたまま、王弟殿下に「早く持ってくるのだ」と促すと、王弟殿下は深く溜息を吐いて、腰を上げた。

「よく書けておる。が、わしが知る肝心なことが抜けておるな。お前は誰から詳細を聞いた?」
「詳しく教えてくださったのは、王弟殿下です」
「私が彼に詳細を伝えました」

 俺の言葉と被せるように、扉の方から戻って来た王弟殿下がフォローしてくれる。詳細は最初から知っていたけれど、詳しい話をしてくれたのは王弟殿下だから、嘘を吐いているわけではない。
 陛下は紙から顔を上げて、腰を下ろす王弟殿下に視線を向けた。
 何かを言うでもなく、嘆息した陛下は、またしても紙に視線を落とした。
 しばしの沈黙が辺りを包む。
 声を掛けることも出来ずに膝の上でぐっと手を握りしめていると、ノックと共に属性を調べる大ぶりの真珠のような玉が届けられた。ルーナの属性を調べた時と同じものだ。
 陛下は魔術陣とその真珠のようなものを手にして、「さて」と顔を上げた。
 あれは、魔力がほぼ空になるまで吸われる奴だ。魔力がなくなる時に兄様がいない場合毎回最悪に近い状態になっていたので、陛下がそっと俺の前にそれを差し出しても手を伸ばす気になれなかった。

「その魔術陣を手に取り、その上に属性魔石を乗せると、お前の属性がわかる」
「やり方は……わかります」

 でも、魔力がなくなってしまうとわかるのに手を出す気にはなれない。怖い。
 震えそうになる手をギュッと握ると、それに気付いた義父がそっと俺の手に自分の手を重ねた。

「陛下、よろしいでしょうか。アルバは今までずっと、魔力枯渇の辛さを誰よりも味わってきた子です。ましてや属性魔石を使うと命が危ないという状態で今まで生きてきました。このやり方は、親として承諾出来かねます」

 それに、触れるときっと『刻属性』だというのが陛下の目にさらされてしまう。二重に怖い。
 けれど、これで誤魔化したら、それこそ調べられたら困る属性だと言っているようなものだ。
 どちらにしろ、陛下に疑われた時点で詰んでいるんだというのがわかる。
 義父が責められる前に、せめて一生監禁だけは回避したい。
 兄様と、約束したんだから。天にも昇るような幸せな約束を。

「……触れます。けれど、きっと触れたら僕は昏倒するでしょう。今まで、そのような状態のときは、いつでも兄様や父様にフォローしてもらいました。僕が昏倒した場合の対処を一番分かっているのは、父様です。もし僕の意識がなくなったら、絶対に父様の指示に従って欲しいです。こんな、属性を調べるためだけに二度と目が開けられないなど、僕はきっと死んでも死に切れません。これだけ約束いただけたら、その魔石に触れます」

 重ねられた義父の手の温かさに勇気づけられて、手の震えが止まる。
 
「了解した」
「私が、今の約束事の立会人となろう。兄上、アルバ君が倒れたら、全てをハルスに委ねることを誓っていただきます」
「そこまでするのか」
「致します。アルバ君にとっては、他の者たちにはただ魔力を一時的に吸われるだけの代物も、毒となります。ましてや、宝玉に魔力を入れ、枯渇からようやく回復したばかり。そこまでしないと、きっと彼は触れられないでしょう。我々がアルバ君から信頼を得るには、時間が少なすぎる」

 あいわかった、という陛下の言葉に、ホッと息を吐いてから、俺は義父を見上げた。
 義父がいなかったら、絶対に取れない手。ここでバッチリ俺が意識を失ったら、きっと義父がよくしてくれるはず。というか、俺が意識を失った瞬間、俺の身柄は義父の手に戻るんだ。ふわりと目を細めた義父は、きっと俺の意を汲んでくれるはず。
 俺だけじゃなくて、兄様のこともいないといけないから、と呼び戻してくれることを心の中で希望しながら、俺は魔術陣に手を伸ばした。
 魔術陣は、魔力の多さを光で表し、内面の魔力を相応しい形に変えてくれるものだというのが読み取れる。せめてギリギリ魔力が残るように魔術陣に刻んでくれたら、怖がらずに触れられるのに。ああ、でも、今回に限りそれはダメだ。精いっぱい魔力を込めよう。

「父様、後はよろしくお願いします」

 そう伝えると、俺は自ら魔石を手に取り、魔術陣に乗せた。


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