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ゲーム終了後編
131、最推し不足過ぎて賛辞しか浮かんでこない。
しおりを挟む義父と共に立派な扉を潜ると、とても広い部屋の真ん中にぽつんと置かれた豪華なテーブルが目に付いた。
ソファにはまだ誰も座っていない。
その豪華なテーブルの上には、これでもかと綺麗で可愛らしいお菓子が置かれている。
周りに置かれた置き物一つ一つがとても高そうで、絶対に近寄らないようにしようと硬く心に誓っていると、年配の人が陛下のお越しです、と伝えてくれた。
義父に習って頭を下げていると、「よい、ここは公式の場ではない。頭を上げよ」と声がかけられたので、言われた通り頭を上げる。
陛下のことは今まで見たことがなかった。
初めて見た陛下は、王弟殿下とかなり似ていた。
「お初にお目にかかります。アルバ・ソル・サリエンテと申します」
「うむ。体調はどうかな」
「もうすっかり良くなりました」
「それはよかった。また体調が悪くなるとよくない。座りなさい」
そう言うと、陛下は一人掛けのソファに座った。その後、王弟殿下も隣のソファに腰を下ろしたので、それを待ってから、義父と共に座った。あまりの座り心地の良さに、驚いてしまう。椅子じゃないようなふわふわ心地が恐ろしい。人をダメにするソファとはこれか。
一人そんな感想を抱いていると、陛下がしげしげと俺を見ていた。
今まさに鑑定されているって感じだろうか。
ぴしりと身体を固めて、陛下を見つめ返す。
「ふむ。もしやヴァルトの倅はとうとうやりおったのか」
陛下の言葉に、王弟殿下が驚愕の表情を浮かべたのがわかった。
速攻で俺の病が完治していることがバレたようだ。
義父は普段と同じ雰囲気で俺の肩を抱いている。
「そうですね。うちのこれから先の主要案件となります。まだ形にはなっておりませんので、詳細を伝えることは出来かねますが」
「それの被験者がサリエンテの倅というわけか」
「むしろ、この子の病を治すのが目的でここまで来た、というところでしょうか」
「完治する薬が出来たのなら、それは国を挙げてやらないといけないとは、思わぬのか」
「思いません。というか、まだ形になっていないと申し上げましたし、素材は簡単に手に入るものではありませんから」
義父は、しれっと『ラオネン病』の特効薬がもうすぐ出来るんだということを陛下に伝えた。
たしかその領地の産業は詳しく伝えてしまうと問題が起きるから、フワッと伝えればいいんじゃなかったっけ。
それなのに国を挙げちゃったら折角の特産となりうるものが国にとられてしまうのではないか。
ハラハラしながら陛下と義父の会話を聞いていると、王弟殿下がじっと俺を見ていることに気付いた。
「では、あれは、もしや……」
「あれ、とは」
「あ、いや」
もしかして、控室で俺がやらかした時のことを言っているんだろうか。
発作じゃなくて魔法発動なんだけれど、ここで言っていいのか判断がつかず、じっと見つめるだけでやめておく。
「……世に出せる物が出来上がったなら、一度王宮で話をしよう。他国への流れを作らないといけないからな……富が一つの家に集中するのはあまり喜べないのだが」
「王家乗っ取りや謀反などは考えたこともありませんので、ご安心ください」
「サリエンテ……言っていいことと悪いことがあるぞ。主は一度、王宮を壊そうとしたではないか……」
「もう過ぎた事です。お忘れください」
陛下がはぁ、と盛大に溜息を吐く。何やら義父にやり込められている感じが凄い。流石義父。兄様の父親なだけはある。
義父はしれっとしながら、目の前に出されたお茶を手にした。
「病でないとなると、この間倒れたのはどうしてなのか、嘘偽りなく説明は出来るか、サリエンテの倅」
義父を見ていたら、ご指名を頂いてしまった。
ここで嘘偽りを言ったら、即不敬になるということだ。嫌な説明来た。
「それは……兄様が宝石を光らせたから、安心して気が抜けたと言いますか……」
「ほう。確かに、オルシスはよくやった。が、あの場に我らは入ることが出来ん。中で何があったのか、あの者たちしか知らぬということだ。そこに、サリエンテの倅もいたのだろう」
「はい。僕は、魔力が足りたらしく、部屋に足を踏み入れることが出来ました」
「では、中の様子を詳しく話してくれ」
「詳しく、でしょうか」
それだけ呟いて、口を噤む。兄様たちは不敬を承知で最初に話し合ったことを言ったのだろうか。それとも、嘘を吐いてはいけないと、本当のことを話したのだろうか。
どっちがいいのか悩む。
でも、じっと俺を見つめる陛下は誤魔化しなんてすぐに見抜くんだろうなと視線を少しだけ落とす。
こんな十数年も王様業をしているような百戦錬磨の王様を出し抜くことなんて、俺には絶対に出来そうもない。
……もし兄様たちと話が合わなかったら、僕が嘘ついてましたとごり押しして、兄様たちに咎が行かないようにしようそうしよう。
俺は意を決して口を開いた。
「僕たちがあの神殿に着いたときには、第二王子殿下は既に魔力が枯渇に近い状態でした。すぐさまブルーノ君飴を口に含ませ、魔力の供給が止まったところで宝石から引き離しましたが、大分危ない状態でした。あそこにリコル先生とブルーノ君がいなかったら、殿下はまだ寝込んでいたかもしれません」
「その時の宝玉の様子はどうだったか見ることは出来たか?」
「はい。まだまだ魔力は足りない状態でした。神殿内部も暗いままで。それでも第二王子殿下は這ってでも宝石に向かおうとしましたので、兄様が……」
兄様が素晴らしいエンディング的立ち位置にいたので、特等席で見たいがために宝石に触れてしまったのだ、とは言えない。明らかにそれは変質者だ。
またしても口を噤んでしまった俺に、陛下の視線がビシバシ刺さる。
だったら言葉を変えて……あの主人公角度からの兄様が眼福で……違う! 殿下のいた立ち位置に立った兄様の姿が神々しくて、あの魔力に満ち溢れた神殿の中心で立つ兄様見たさに……違う!
どう説明したらいいのか悩んだ俺は、ぐっと手を握りしめた。
瞬間ポケットからカサリと音がした。
口で説明するよりも、これを渡してしまった方が早いのではないか。
脳内が兄様不足で兄様を賛辞する言葉しか浮かばなくなるところだった俺は、その紙の存在にハッと我に返り、ポケットの中の紙を取り出した。
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