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ゲーム終了後編
138、最推しとの平穏な日々が戻ってきました。
しおりを挟むようやく普段通りの生活に戻った俺。
兄様たちも褒賞やら何やら落ち着いて、何とか学園通いの日々に戻り、毎日を平穏に過ごしている。
魔物が大量発生することもなく、落ち着いてきたのは宝玉に魔力がちゃんと満たされたからか。その年の秋は豊作だという報告が相次いだらしい。
よかった。主人公が誰かと結ばれたとかそういう話はまったくなかったけれど、ともあれ国が落ち着くのはいい事だ。
そう思いながら、何事もなく時は過ぎ、兄様たちが最終学年になった。
俺ももう中等学園四年生。兄様のお陰で、体調も万全のまま、しっかりと高等学園にも通えそうだ。
そうなると、やりたくなるのが、最推しの隠れスポット巡り。
放課後や昼休憩時に、各キャラが好んで過ごしている場所というのがあり、最推しの場合はメノウの森の入り口付近にある小さな狩猟小屋だったんだ。そこを拠点に放課後魔物を屠って力をつけていた最推しは、会いたいときは森に訓練に行くを選ぶと高確率で会うことが出来た。
とはいえ、今は最推しは兄様なわけで。兄様は学園が終わると俺を迎えに来るから、森になんて行かないので、入り浸りスポットではないんだけれども。
小さな、とはいえそこら辺の掘立小屋なんかよりは大分豪華な小屋で、一人寛ぐ最推しは、色々な関係が煩わしかったんだと、好感度が上がると教えてくれた。自分の抑え切れない負の心を持て余していたと。
そう考えると、今の兄様はアプリの最推しよりもよほど人間出来ている気がする。負の心とか、抑えまくりだし見たことないし、最高に優しく尊く素晴らしい人間性だから。
思わず呟いた言葉は、目の前にいた第二王子殿下にも届いてしまったらしく、目の前でゴフッと吹き出されてしまった。
「アルバ、最初に言っとくぞ。オルシスはかなりの俗物だからな。ことお前のことに関しては絶対に負の心に負け続けてるし、抑える気もない」
「まあ、その通りだな」
第二王子殿下の言葉に、ブルーノ君も肯定した。
二人とも兄様のどこを見ているんだろう、と眉をしかめると、眉間を兄様の指が撫でた。
「アルバ、皺が寄っているよ。それにね。二人の言うことは正しいよ。僕はアルバを僕の物にするためなら妥協はしない。そして、その為ならどんなことだってするし、それが世間では褒められないことだって躊躇わないと言い切れるよ」
「欲望のままに動くよな、オルシスは」
「当たり前だろう。これだけ慈しんできたのに横からかっさらわれたら、きっと、アルバが僕以外の奴を望んだとしても、自分のためにそいつを消すよ」
にっこりと極上の笑顔でそんな黒い事を言う兄様は、最推しよりも更に魅力的に見えた。
「黒い兄様も最高に素敵です……!」
あまりの眩しさに胸を押さえて呻くと、ブルーノ君と第二王子殿下から軽いチョップを貰ってしまった。
「どっちにしろアルバはオルシス全肯定なんだよなあ。俺もそんな兄弟が……やっぱり気持ち悪いからいらないな。クソ兄……王太子殿下からそんな言葉を貰ったら俺、次の日には死を覚悟するわ」
「殿下の兄弟殺伐過ぎる……」
「だろお。あのクソあ……王太子殿下は、俺が目障りすぎて今とてつもなくハッピーらしいぞ。俺が王宮を出て王位継承権を手放したからって。有頂天になり過ぎて何かやらかしたら滅茶苦茶面白いのにな」
「殿下も言い過ぎです」
今度はブルーノ君が第二王子殿下にチョップをかました。仲良し。
それにしても、と晴れ渡った空を馬車の窓越しに見上げ、王太子がもし何かやらかしたら、次は誰が立太子するんだろう、と思考を巡らせた。
勿論、俺の知っているアプリゲームの結末は、二人は結ばれました、で終わっている。むしろ今は、結ばれていないけれど世界は救われました、のその後。これから先どうなるかなんてちっともわからない。
だって王様が俗物だって、王太子が俗物だって、変わらず国は回っていて、兄様はお優しく麗しく今日も極上だから。
中等学園四年生にもなると、皆一様に大人への階を登っていく。
俺の周りの同級生たちも例にもれず、セドリック君とはかなりの差が出来た。何の差とは言わない。この学園が身長順で並ぶ伝統がなくてよかったと言わざるを得ない。
教科書を手に、今日も俺は恒例となったリコル先生との対面授業へと向かった。皆は魔法実技で実習場に向かっている。
ちなみにまだ薬の完成には至っていないと義父がごり押しして、俺はまだラオネン病にかかっていることになっている。リコル先生も仲間だから隠すのはそうそう難しくはないんだけれど、一度だけここ数年で成長した皆の実技を見学した俺は、絶対に実技は混ざれないと実感した。
皆殺意高すぎる魔法しか使わないのは何でだ。攻撃魔法がガンガン飛び交い、お互い怪我も何のその、臆することなく打ち合っている。非常時に慌てることのないよう実戦形式でなんてとても恐ろしいことを教師は宣っていた。混ざれない、混ざれるわけない。何ならずっと魔法の実技はやらなくてもいいと思う。なるほど、結構攻撃も出来る第二王子殿下が攻撃は苦手だと言っていたわけがわかった。殿下が苦手なんじゃない。皆が好戦的すぎるんだ。
廊下をコツコツ歩いていると、向かいから歩いてきた後輩たちとすれ違う。
まだ一年生かな、小さいな、と思って見ていると、「あんな奴クラスにいたか?」なんていう会話が聞こえていた。
「僕はまだ一年生と同じ身長なのでしょうか……」
リコル先生の前に座ってズンと落ち込んでいると、リコル先生は困ったように笑った。
「私が見ている限り、アルバ君はここ数年でぐんぐん伸びましたよ。いつも不調を抱えているにも関わらず、ここまで大きくなれたのは逆にとても素晴らしいと思います。大丈夫、これからは体調も良好ですから、身体の中のエネルギーはアルバ君の成長に回りますよ」
「その言葉、信じていいんですね……!」
下唇を噛みながらリコル先生をじっと見ると、リコル先生は優しい顔で微笑んだ。
生きるか死ぬかの心配をずっとしてきた俺にとって、身長が伸びる伸びないなんてとても平和な悩みになったなと自分でも思う。
けれど、これだけは譲れない。何せ正式に兄様と魔石を交換したのだから。
こうなったら鍛えて伸びて兄様を横抱きに出来る程に肉体を作るべきなんだ。
だって体力がなかったら、いざという時兄様を満足させてあげられないから。
そんな決意を胸に、している俺の前に、リコル先生が一枚の紙を差し出してくれた。
「最初はゆっくり。出来れば誰かと一緒にやるように。体力がついたと思ったら、また一緒にメニューを考えましょうか」
そこには、無理のないように俺の体力を伸ばすためのメニューが書かれていた。
俺はそれを手に取り、とてもいい返事をしたのだった。今度こそ無茶はしないで頑張ります! 兄様に満足してもらうために。
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