【BL】いじわるな黒髪貴公子に食べられそうです

48 ごちそうさまでした

男が可愛いとか言われても嬉しくない。

そう思っていた筈なのに、こうして蒼井に言われると不覚にも照れてしまう。


（くそ……っ）


更にじっと見つめられると、全身に妙な意識が行き渡り始める。


（そんな目で……見るなっ……）


蒼井の熱い視線は、じっくりと俺の身体を観察するかのように追い詰めてくる。

耳から首筋へ、そして鎖骨、胸元、更にその下へ……。


「んっ……」


「あ、颯太ー？　今、何想像した？」


「なっ……！」


「ふっ……わっかりやす。ほら、食べようぜ？」


「～～～～っ」


何も言えず顔を真っ赤にしている俺の前に、フォークが差し出される。


（蒼井のやつ、後で文句言ってやるっ！）


内心怒りつつも渋々フォークを受け取る。

チラリと前を見れば、蒼井は余裕の笑みを浮かべていて、それがまた腹立たしい。

が、それはとりあえず置いといて。

今は目の前のケーキとコーヒーを楽しまなければ損だ。

俺は気を取り直し、生クリームがたっぷり乗っているところにフォークをゆっくりと差し込んだ。

そして一口掬って口へ運ぶと……


「……んま」


今までには味わったことのないような、素朴な味わいが口の中に広がり思わず声が漏れる。

俺は甘いものの中でも、こういう素朴な味にはとりわけ弱い。


「やば、これ……俺、また来ちゃうかも」


「ん、こっちも美味しいよ。食べてみる？」


「うん！　……って」


しまった。

ケーキが美味し過ぎてつい素直に返事をしてしまったものの、この流れは注意しなければ。

このままだと、蒼井はフォークにチーズケーキを乗せて俺の口元に差し出しかねない。


（くっ、どう回避する……！？）


俺は警戒心バリバリで対策を考える。

すると、俺の予想に反して、蒼井はショートケーキとチーズケーキの皿をサッと交換した。


「え……」


「それ、好きなだけ食べていいよ」


「え、あ、はい……」


「ん」


拍子抜けしまくる俺の前で、蒼井はクールにショートケーキを口へ運んでいる。


（な、なんだ……）


警戒していた　″あーん″ が来なくてホッとした……筈のだが。

同時にちょっと残念な気持ちが湧いてきて、俺はブンブンと頭を横に振った。


（って、何ちょっと残念な気持ちになってんだ俺っ！　あーーもーー！！　今は食事に集中！！）


すっかり振り回されてしまい、どうにかペースを取り戻す。

それから俺は呼吸を落ち着け、目の前のケーキに集中したのだった。


・・・


「はー、美味しかったぁ」


ケーキを完食し、俺は満足の声をあげた。

まじで二種類とも、同じぐらい美味しかった。

アイスコーヒーはあと半分ぐらい残っているので、今は飲みながら雑談タイム。

蒼井はアイスコーヒーを一口飲むと、満足そうに窓の外を見て言った。


「はぁ、うまかったなー。颯太、この後ってどうする？」


「え？　この後……そうだなー」


そういえば、行きたいところとか考えていなかった。

今日は自然体を心掛けていたのが裏目に出てしまったかもしれない。

と言っても、いきなり映画行こうとか遊園地行こうとかは無理だし、ちょうどいい場所はないものか……。

考えていると、蒼井がニヤリと笑みを浮かべた。


「無計画ってことは、この後は俺の部屋でもいいってことだよな？」


「え、ちょ……っそれは！」


慌てて待ったをかけると、蒼井はクスクス笑いながら「冗談だよ」と言った。

いや、絶対半分は本気だと思う。

しかしながら、行きたい場所はこれといって浮かばないし、どうしたものか。

すると、蒼井の方から提案が挙がった。


「そうだなー、カラオケでも行ってみる？」


「カラオケ……！」


正直、俺はそんなに歌は上手くないのだけれど、カラオケで思いきり歌って発散するのは楽しくて好きだ。

反対する理由もないので、俺はウンウンと頷いた。


「行くっ」


「よし、決まり。じゃ、行こうぜ」


意見が一致し、二人同時に立ち上がる。


（ちょっ、タイミング揃いすぎかよ……！）


偶然だけれど、まるで鏡の如く同じ動作だったので笑いそうになり、俺は蒼井にバレないよう小さく微笑んだ。


「ん？　どうかした？」


「……っ別に？」


蒼井はあまり気にしていなかったのか、キョトンとしている。

俺はなんとか誤魔化し、早く行こうと蒼井を促した。


……と言うわけで。

次の行き先はカラオケに決定したのだった。